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3月11日◆湘南暮らし1年、人との距離感がバグってきたかもしれない

湘南エリアに暮らし始めて1年、移住者もそれなりに多いこの地域では、わかりやすい疎外感を味わうこともなく、平穏に過ごせている。近所の人々とは犬を媒介に(といっては失礼だが)あっという間に距離が縮まったし、友達と呼ばせてもらえるような人も、町に少しずつ増えてきた。

ほかに嬉しいのが、馴染みのお店ができたことだ。と言っても、お酒が飲めず、あまり頻繁に外食をしない私は決して常連ではない。それでも初回から自然に会話が生まれ、次に訪れた時も覚えていてくれた時は、嬉しくて心の中でガッツポーズが出た。お店の人が自分の存在を知っていてくれると、こんなにも脳が安全を認識するのかと、40代にして初めて知ったのだ。

町の人たちと心の距離が近くなると、なんとなく他の人も皆知り合いのような気がしてくる。そう思っているのは私だけじゃないようで、事実、道を歩いていると「こんにちは」と言われることのほうが多い。犬を連れているからなおさらかもしれないが、知らない人に急に話しかけられても驚かなくなった。

と、普段こんな感じで過ごしていたら、都内で道を聞かれた時についついその調子で絡んでしまった。

私に道を尋ねてきた方は上品な初老の女性で、新橋駅近くのバス停終点で降りた地点で、駅までの道を知りたいとおっしゃった。駅は見えているものの、地下通路があったり、高架下を通らなくてはならなかったりと、一筋縄ではいかない様子。私もイマイチ自信がなかったが、「すみません、わかりません」というのも素っ気なさ過ぎると思って、やたらと会話をしてしまったのだ。

「多分ここの交差点を渡って、右に曲がれば良いはずです。私さっきここからバスに乗る時、間違えて違う方向から来たらすごい遠回りだったんで、こっちからは行かないほうが良いと思います。すぐそこなのに、全然わからないですよね〜。ホント、わけがわからない。アハハハ」

改めて今振り返ってみても、自分が話した内容は8割方必要ない情報で、ちっとも伝わらなかっただろうと反省している。その女性はそれ以上会話をしたい様子もなく、少し困惑した表情で「どうも、ありがとうございました」と言いながら去っていった。そこで私はようやくアウェイだと気づいたのだ。

曲がりなりにも数年前まで20年以上都内に住んでいたのだが、まさかたった1年で、他人との心の距離感がここまで変わるなんて思ってもみなかった。と同時に、なぜ湘南エリアが住むのに人気なのかが、感覚で分かってきたのだ。もちろん自然に囲まれた地だからというのも大きな理由だろうが、それよりも、いつも誰かに見守られているような精神的な安心感の方が大きい気がする。

多分私はこのエリアに住んで、人との距離感が少々バグってしまったのだろう。だからアウェイでは”よそ行きモード”に切り替えるかもしれないが、普段はあえてこのままでいようと思う。適度なおせっかいや、適度なフレンドリーさこそが、今の私が求めている心の栄養だからだ。



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