どうでもいい事をミステリ小説の解決編っぽく書く
「おや……?」
先輩と二人で歩いていると、突然首を大きくひねった。それまで話していた僕からみれば、急にそっぽを向かれたような形になるが、常に周囲に興味の対象を持ちまくる先輩の性格を知っているので、今更どうという事もない。
「何か面白い物でもありましたか、先輩」
「ああ、あれを見てくれ、後輩君」
先輩はそういうと、少し前にある整骨院の看板を指さした。整骨院自体は特におかしな点は見当たらない。キャッチーな猿のキャラクターを前面に押し出した、一見小児科と勘違いしそうなデザインではあるが、それだけだ。看板には猿のイラストと、整骨院の名前と、営業時間が大きく書かれている。
「あれが、何か……?」
「営業時間が変わったようだね」
言われてから改めて看板を見ると、営業時間が十時から二十一時までと書かれていた。よく見ると二十一時の方は一の字が上書きされているのがわかる。あまり綺麗な修正ではないので、近くまでくれば変更がされたのだという事はすぐにわかる。
「ふむ……。営業時間が短縮されたようだね」
「どうして短縮されたってわかるんですか、先輩」
数字が書き換わっただけなら、営業時間を延長した可能性もあるはずだ。
疑問を感じた僕が先輩に声をかけると、先輩は少しだけニヤリと笑った。
「ここを見てくれ」
そういうと、営業時間の項目を指さした。僕が要領を得ずに首を傾げると、先輩は伸ばしていた指を軽く下げる。営業時間の下にも何か書いてある。
そこには営業時間よりも少し小さな字で、受付時間が書かれていた。
「受付時間は二十時三十分まで、と書いてありますが……ああ、こっちも修正されていますね」
「ここを見れば営業時間が短くなった事は一目瞭然だ」
「どういうことですか」
「よく見るといい。受付時間の方で、修正されている数字はどこかね」
「えっと、ゼロの部分ですね」
二十時のゼロの部分だけが何かで覆われ、その上に周囲と違うフォントを使って書かれていた。三十分の部分には何も変更はなさそうだ。
「営業終了の三十分前が受付時間だという事は変わっていないのだろう。そうなると、営業時間が二十時になる事はないだろう。修正箇所が今の場所だけでは足りなくなる」
「そうか、二十時が終了なら受け付け終了は十九時三十分になるから……!」
「そういうことさ。この修正内容なら、一番早くても二十一時が限界となる。現状がその時間で表示されているのなら、修正前はもっと遅い時間であったと考えるべきだろう」
「なるほど……!」
これに気付いたからといって、我々二人がこの整骨院に用事が出来るという事もなければ、ここで事件が起こるという訳もない。二人の通学時に使うルートでもないので、今後よほどの事がなければここを通る事もないだろう。
二人は、ただ満足して整骨院の前を通り過ぎていった。