30年を経て『河殤』を振り返る(7)
前回
2020.8.18.付日経朝刊に掲載された英エコノミスト誌翻訳記事『「シーノミクス」は封じられない』は、
トランプ政権タカ派には、“ドーピングで増強したような中国の国家資本主義は見た目ほど強力ではなく、強硬に出れば相手が折れるとの思い込み”
があり、
“中国が成長を遂げたのは事実だが、債務や補助金、縁故主義、知的財産の窃取といった持続不可能な手段に頼ったからに他ならず、十分に強い圧力をかければ中国経済は屈し、指導部は譲歩を余儀なくされ、最終的には国家主導の体制を自由化するという論理”
に基づいている、と指摘する。
この論理は、1989年6月の天安門事件後の“易家言”記事に象徴されるような政治状況の中、西側自由主義各国からの経済制裁により成長が大きく落ち込んだという成功体験に基づいているのだろう。
日本に対しても、80年代の日米経済摩擦時代そのままの要求を突きつけるのと同根の論理である。
さらにエコノミスト誌記事は、西側各国は一貫して“中国経済を過小評価”しており、“国家資本主義を実態に適応させ、形を変えていった”実態を看過していた、と指摘し、習近平の経済政策“シーノミクス”の特徴として以下3点を挙げている。
・景気循環と債務を活用した企業成長への厳格な監視
・行政国家の効率化
・国有企業と民間企業の境界を曖昧にする
では、習近平になって初めてこのような方針に変更されたのかといえば、そんなことはない。
江沢民や胡錦涛が友好的な表情で外国と交流していても「韜光養晦」で隠されていただけのことである。
外資に対する投資規制も強化された訳ではなく、1995年に初めて発効した、外資の進出を厳しく制限する《外商投資産業指導目録》は、いまや《外商投資准入特別管理措施(負面清単)》というネガティブリストとなり、規制は大きく緩和されている。
「行政国家の効率化」は日本よりはるかに進んでいる。
「国有企業と民間企業の境界を曖昧にする」についても、江沢民の《3つの代表》により民営企業が“黒五類”の被差別対象から中国共産党の指導を受けられる正規の経済主体となったのだから、習近平はこれを制度的に整備しただけのことである。
つまり、“易家言”記事において『河殤』に対する反論として挙げられた「経典への正しい解釈」たる中国共産党一党独裁体制の本質は一貫して堅持されており、これにより中国共産党指導の下での社会主義に基づく“科学と民主”が実現し発展し続けていることを過小評価してはいけないのだ。
エコノミスト誌記事の以下結語は極めて納得的である。
西側諸国はむしろ、気候変動やパンデミック対策など一部の分野で中国との協力を可能にしつつ、人権の保護や安全保障の確保を強化した上で通商関係を続けられるよう、自らの外交手腕を高めて安定した新しいルールを作る必要がある。