【日記】キリンジ「愛のCoda」詳説
常に傾斜するようなコード進行の、緊張感のあるイントロ。
これが当時のキリンジお得意の、過剰なまでのアーバン感の演出である。「エイリアンズ」でいえば、あれも冒頭が飛行機だが、「はるか空に旅客機音もなく」で始まる。こちらは、別れをそれほど前面に押しているわけではなく、深夜の情景に徹するのだが、肌合いは似ている。
少し、日本的な言葉づかいに寄っている所がある、同じく「エイリアンズ」と比較すると。「煙った」「唸り」という所で、過剰ではなく和的な言葉づかいをいれ、この後出てくるけれども、嵐のような季節描写がサビをまさに花びらのように埋め尽くすのだ。
ここから、サビに向かう傾斜の、音をぜひ聞いてほしい!「心奪われ」の部分は、何と呼ぶのか忘れたけど、Bメロというんだろうか、サビ前の繋ぎの部分なのだが、次の
の部分は、歌詞は意味を継ぎながら、もうサビに流入しているのだ。この巧妙さ! 冒頭を聞いた時の、コード進行の傾斜というのは、たんなる勘ではなかった。これも技巧的に組まれたイントロだったのだろう。常に、離れつつも引きずられるような泥沼の恋愛の心情のように、傾斜傾斜を作っている。
厳密に分けると面白い。「激しく求」までがBメロで、「めた記憶」からサビが始まるんだ。こんな曲ある?
この曲の特徴のもう一つ。五文字、あるいはその周辺の、単語二つくらいの組み合わせで、それだけでひとつの時間、ひとつの情景、ひとつの季節すら切り取って次に行ってしまうのだ。このスピード感。傾斜傾斜! そしてジャパニーズ感! 季節! 満点。
そして、この視点転換を見よ! 今までの情景が、遡及的に、すべて過去の色褪せたフィルム、映画のワンシーン、古ぼけた映像に変化するんだ。こんなに鮮やかな展開、しかも仰々しくなくするりと身を躱すように惜しげもなく進んでいくコード。アーバン、オシャレ! 美しい。