【日記】山
然る休みの日に、普段行かない地域に行って写真を撮りたいと思って、最寄りの駅からそのまま田舎の方面へ乗っていって、端っこの駅で降りて写真を撮った。
しかし、そこは山に囲まれたような景色で、今度は山自体に行って写真を撮りたいという思いが込み上げてきたので、予定を変えて山登りをすることにした。山登りといっても、本当に些細なものだ。数百メートルもいかなかったと思う。ハイキングコースには最適、というインターネットでの紹介があった、山の登り口があったので、電車を調べてそこまで行った。
駅前は小さい店と住宅が並んでいたが、斜面を登るうち、山肌に張り付いている住宅がポツポツあるだけになった。そして、唐突に山の方面に登山口が開いていて、私道と区別が難しかった。
前に高尾山に登った時、明らかに登りやすそうな道を疑いなく歩いて行ったらそこは宗教的な施設につながる私道で、どこからやって来たのか見張りのような人から「こっちじゃないよ」と言われたことがあり、トラウマになっていた。
今回は道を間違えることはなかったが、単純に坂を上る、車を使わずに山に登ったのももう何年もしていなくて、そんな風にしているうちに体力がなくなったらしい、十秒くらい登った時点でもう無理だと分かった。その山も然る神の名前がついていて、何だか不気味に思えてきた、昼の二時くらいだったのに陽が傾いていた、急に帰りたくなったのだが、不思議と山の道は途中で折り返すという気分にはならず、先に進むことしか出来なかった。
そんな風に、もう義務感でしか進んでいないような状態で山道を歩いていたら、突然道の上から勢いよく駆け降りてくる自転車の姿があった。
こんな道を自転車で降りて来るとは非常識な。しかし、自分は山の常識のようなものを知っている人間ではない。駆け降りざま、
「もう一台来ます」
と言って、実際に二台目が通過した。今度はあらかじめ道の脇に控えておくことが出来た。写真を撮ることはできたが、どこを撮っても山でしかない、という奇妙な感想を抱いた。