【小説】水槽の中の鯉
短い水面との距離がさらに近付くにつれてはっきりと頭上に鯉の姿が見え始めた。パチスロをやる趣味もなければパチプロと自己を同一化する努力もしたことはないけれども、はるか遠くからの地響きがやがて一人残らず地上の存在を転がしてどっかに遣るのではないかという気はする。楕円形の斑点が二重化してさらにはっきりと頭上に現れ、逃れ去ろうとしても左右対称に動きを止めないのだろう、規則正しい馬の蹄の音にも似て、テーブルには角の丸いサイコロがちょうど五個、今にも投げ出されようとして、俄かに止まり、徐々に輝きを増すところだ、朝日とともに消滅するのだろう、暗い水槽の中の鯉と同じように。