Make a Move PROJECT「できないを、できるに変える」世界を実感!
「カシャ、カシャ、カシャカシャ、カシャ」
爆音のレーシングカーを追いかける、カメラのシャッター音。
照り返しの強い日差しに負けず、大粒の汗を垂らしながら高速で走りぬけるレーシングカーを懸命にカメラで追いかける小学生。
一見するとレーシングカー好きな小学生が、カメラを片手に写真を撮っているように見えますが、彼には網膜芽細胞腫という網膜に発生する悪性の腫瘍により、見えづらさ(ロービジョン)があります。
「もっといいモビリティ社会」をつくるアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」
QDレーザは、トヨタ・モビリティ基金が主催する「もっといいモビリティ社会」をつくるアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」の「Mobility for ALL 2023」部門に採択され、「レーザ網膜投影で感動を瞳に。ロービジョン者によるレース観戦・撮影」と題し、2023年9月2日・3日の二日間にわたり、高性能カメラの映像を網膜に直接投影するビューファインダを使い、モビリティリゾートもてぎでのレース観戦と写真撮影を実現するプロジェクトを実施しました。
見えづらさのあるロービジョン者が網膜投影技術を搭載したビューファインダを使い、高速で走るレーシングカーを「自分の目」で見て、撮影してみよう!というプロジェクトです。
このプロジェクトは、高速で走る遠くのレーシングカーを撮影しなければいけないという、難しい撮影環境で、どれくらいロービジョン者が見ることができるか、撮影できるかという非常にチャレンジングなプロジェクトです。プロジェクト達成のためには、
①ロービジョン者が「自分の目」で見て、レーシングカーを捉えること
②高性能で高度な撮影が可能なカメラの性能をフルに使用すること
このふたつが必要条件でした。
QDレーザは創業より培ったレーザ・光学設計のノウハウを応用した網膜に映像を直接投影する技術「VISIRIUMテクノロジー」を開発し、これまでロービジョンのある方の”見えづらい”を”見える”にかえるプロジェクト「With My Eyes」を推進してきました。
「With My Eyes」では、写真撮影を通じてロービジョンのある方にクリエイティビティを発揮していただける網膜投影型ビューファインダ「RETISSA NEOVIEWER(レティッサネオビューワ)」を開発し、ソニーのコンパクトデジタルカメラ「Sony DSC-HX99」に搭載した「DSC-HX99 RNV kit」を、ソニーストアで予約体験、販売を行っています。
「Make a Move PROJECT」のために開発された次世代の網膜投影型ビューファインダ
そして、今回のもてぎサーキットでの撮影は、高速で走るレーシングカーを撮影するため、より高性能で高度な撮影が可能なカメラを必要とするため、ソニーのデジタル一眼カメラα(Alpha)シリーズと組み合わせることができる次世代の網膜投影型ビューファインダ(プロトタイプ)を開発したのです!
果たして、高性能で高度な撮影が可能なカメラ、ソニーのデジタル一眼カメラα(Alpha)シリーズと次世代の網膜投影型ビューファインダで、普段見えづらさを感じているロービジョンの参加者は「自分の目で」レーシングカーを見ること、撮影することができたのでしょうか。
見えることの喜び、そして撮ることの楽しさ
今回のプロジェクトには見えづらさを感じている当事者から多くのお申込みをいただきましたが、その中から、網膜芽細胞腫や黄斑変性症、アルビノ、先天性の白内障といった様々な原因により見えづらさを感じている5名にプロジェクトへ参加いただきました。
ソニーさんの協力のもと、高速で走るレーシングカーの撮影に最適な高性能カメラα(αシリーズ)を準備し、いざレーシング会場へ乗り込みます!
普段からカメラで写真を撮るのが好きな参加者のみなさんですが、普段は見えづらさを上手く補いながら写真を撮っています。しかし、撮影時にはやはりビューファインダから見る被写体やモニターの表示には見えづらさがあり、うまく写真を撮ることが難しい場面もあります。
しかし、次世代の網膜投影型ビューファインダをのぞくと。。。
高速で走るレーシングカーが、ピントが合った状態で網膜に投影され、「自分の目で」見ながら、写真を撮ることができるのです!
だれよりも根気強く頑張って撮影していた小学生。2日間でなんと1800枚近い写真を撮ってくれました。そして彼が撮った写真がこちら。
こんなに上手に高速で走るレーシングカーを撮影できたのです!この写真をご覧いただければ分かると思いますが、目でしっかりと視認できていなければなかなかこの様には撮ることができません。
カメラが大好きな羞明(眩しさ)による見えづらさのあるアルビノの参加者さんは、流し撮りにもチャレンジしこんなに素晴らしい写真を撮ってくれました!
先天性の黄斑変性症により、中心視野に見えない部分がある参加者さん。周辺視野の視力も0.04程度と見えづらさがある彼女も、網膜周辺に投影される映像からしっかりとレーシングカーを捉え、こんな写真が撮れたのです!
先天性の白内障で、コンタクトレンズを使用しても視力0.1未満の参加者さん。普段は遠くの文字等がぼやけてしまいますが、こんな写真を撮ってくれました!
中心視野暗転(中心が黒く抜け落ちてしまう見え方)に近い症状で、シャボン玉の油膜を強くした物が常に見えているような見えづらさのある参加者さんですが、レーシングカーだけでなく、普段見えづらさを感じる人の顔、そして夜空に浮かぶ月も、自分の目で見て撮影できたのです!
網膜投影により、いつもよりは見えやすくなると想像していましたが、我々も参加者さんも、撮影が始まるまでは高速で走るレーシングカーを撮ることができるくらいしっかりと「自分の目で」被写体を視認し、撮影ができるかとても不安でした。
しかし、実際には網膜に投影されるピントが合った映像により、どの瞬間をどう撮りたいか「自分の目で」ちゃんと確認することができ、「見えることの喜び」を超え、「撮ることの楽しさ」を体験することができたのです。
「マイナスから0」を超え、「0から1」を実現する、コミュニケーションツールへ
このプロジェクトは、
①高性能カメラの映像を、網膜に直接投影するビューファインダを使い、見えづらさのある方も、走行シーンの撮影ができるシステムのプロトタイプを開発すること
②ロービジョン当事者のご協力を得て、開発したプロトタイプのカメラシステムを使い、サーキットでのレースシーンを観戦、撮影できるイベントを実施すること
以上の目標を実証するためのイベントでしたが、写真を撮り合う参加者さんを見ていて、実証以上に気づかされたことがあります。
それは、高性能で高度な撮影が可能なカメラ、ソニーのデジタル一眼カメラα(Alpha)シリーズと次世代の網膜投影型ビューファインダを用いれば、見えづらさのある当事者が、「自分の目で」見ることができる、写真が撮れるという、ロービジョン当事者が感じている「マイナスをゼロ」にするだけではなく、網膜投影という技術は、見える人、見えづらさのある人、見えづらさのある人同士が、撮った写真を見せ合い、視覚情報を共有し合い、コミュニケーションを活性化することができる「コミュニケーションツール」になれるということです。
それは「ゼロから1の価値」を提供できるという大きな気づきでした。
視覚情報を共有し合うことは、見えづらさにグラデーションのあるロービジョン当事者にとって、今までは少し難しいことだったかもしれません。
でも網膜投影技術により、お互いに見えているもの、お互いに撮れたものを楽しそうに話している参加者を見て、楽しみを拡大するという事は、技術を通し「共有し合える情報を増やすこと。そしてコミュニケーションが増えること」なのだと気づかされました。
ご参加いただいたみなさんに心から楽しんでいただき、見えるという価値以上に大切な価値をプロジェクトを通し提供できたと感じています。
今回ご参加いただいたのはわずかに5名の見えづらさのある参加者さんです。見えづらさのある方は、国内には約145万人、世界では数億人といわれています。
我々QDレーザは、この見える喜びを超え、さらにその先の視覚情報を共有し合いコミュニケーションが増える楽しさまで拡大していきたいと考えています。
新たな可能性を世界中の当事者に届けるために、これからも頑張っていきますので、応援いただけましたら幸いです!