カザフ語の対格形のルール
こんにちは、カザフ語たんです。カザフ語を学んでいる方のほとんどが持っている『カザフ語文法読本』で対格形についてすごくあっさりとしか説明がなかったのをみたかと思います。が、実は対格形に関してはこの書籍ではカットされているというだけで、それなりにルールがあるのです。今回はそれについて詳しくみていきたいと思います。
さて、その前に『カザフ語文法読本』にはどのような記述が存在するのかをみておきましょう。
※ちなみに、『カザフ語文法読本』の元となった『明解カザフ語文法』の方も確認してみましたが、ほとんど同じ内容の記述しかなかったのでそのようなものとお考えください。
『対格は基本的に、日本語の《〜を》に相当する格で、動詞の直接目的語を表示します。(中略)なお、普通名詞が直接目的語となり動詞の直前にある時などは、対格語尾は省略されます。』
(中略)にあるのは具体的にどのような語尾が付加されうるかなので省略しました。この『など』がどうなっているんだという話ですね。どのような語尾が付加されるかはここではそこまでは重要ではないので割愛します。重要となりうるのは「どのような時に対格語尾が省略でき、どのような時に対格語尾が省略できないか」です。
それでは、まずは対格語尾が省略できない場合です。
A. 直接目的語と文を支配している動詞の間に何か他の成分が入っている時。
例文1:Бұл кітапты бір кітапханадан сатып алдым.
「(私は)この本をある書店から買ってきました」
ここで直接目的語となっているのがбұл кітапты「この本を」です。そして、述語に相当するのがсатып алдым 「(私は)買ってきた」となります。そしてその間に挟まっているのがбір кітапханадан「ある書店から」という要素です。
例文2:Бұл киноны кеше мектепте көрдім.
「(私は)この映画を昨日学校で見た」
ここで直接目的語となっているのがбұл киноны「この映画を」です。述語に相当するのがкөрдім「(私は)見た」となります。その間に挟まっているのがкеше мектепке 「昨日学校で」ですね。
B. 直接目的語の前に属格形ないしその省略された形式の名詞が修飾語として存在する、もしくは「所有接尾辞」が付加されている語が直接目的語として作用しているとき
例文1:Біз Абайның мақаласын үйрендік.
「私たちはアバイの文章を学びました」
主語は言わずもがなбіз「私たち」で、直接目的語に当たるのがмақаласын「(アバイの)文章を」で、これは少し見づらいですがмақалаが語幹形で、-сыがАбайның「アバイの」(←Абайの属格形)を受けて付加された3人称所有接尾辞で、残った-нの部分は3人称所有接尾辞に対応した対格語尾です。そして、述語となるのがүйрен-дік「(私たちは)学んだ」となるわけです。
例文2:Мен оның билетін алдым.
「私は彼のチケットを買った」
主語はМен「私は」ですよね。直接目的語となるのがбилетін「(彼の)チケットを」ですね。で、これも同様にбилет-і-нというように分析することができます。оның、これは「彼の」というолの属格形です。述語がал-ды-мで「私は買った」ですね。
例文3:Мен шешемді көрдім.
「私は母を見ました」
主語は言わずもがな、Мен「私は」ですね。直接目的語はшешемді「私の母を」です。これはшеше-м-діというように分解でき、-мは一人称単数所有接尾辞で、-діは対格語尾です。述語となるкөр-дімは「私は見た」に相当します。
C. 代名詞および固有名詞が直接目的語であるとき
例文1:Оны шақырыңыз.
「(あなたは)彼を呼んでください」
直接目的語のОныは「彼を」で、олの対格形です(人称代名詞)。述語に相当するのがшақырыңызで、これは二人称単数敬称の命令形で、「(あなたは)呼んでください」というように訳出されます。解析するとшақыр-ыңызというようになりますね。
例文2:Ол Жомартты қостайды.
「彼はジョマルト(人名)を支持する」
主語はол「彼は」ですよね。Жомарттыの部分が直接目的語となりますが、これはЖомартという語幹に-тыという対格接尾辞がついてできたもので「ジョマルトを」と訳されます。そして、述語がқостайды「彼は支持する」で、қоста-「支持する」という語幹に-й-という非過去副動詞が付加され、動詞用の述語接尾辞の-дыが付加されてできたものです。
D. 形容詞、数詞、形動詞、および動名詞が直接目的語となっているとき
例文1:Ол алыстан бір аттыны көрді.
「彼は遠くから1人の馬に乗った人を見た」
これはаттыны「馬に乗った(人)」という形容詞が直接目的語として使用されています。主語は当然ол「彼は」で、алыстанは「遠くから」бір аттыныではаттыは本来形容詞に分類されているのが名詞として扱われているもので、「1人の馬に乗ったひとを」の部分に相当します。述語はкөр-ді「彼は見た」ですね。
例文2:Сағат сегізді соқты.
「時計が8時を打った」
この文では数詞であるсегізが直接目的語になっています。主語はСағат「時計」で、述語がсоқты「打った」、соқ- 「打つ」の三人称過去形ですね。
例文3:Жақсы істегендерді сыйлау керек.
「良いことをした人たちを尊敬するべきです」
直接目的語となるのがжақсы істегендер「良いことをした人たち」で、述語がсыйлау керек「尊敬するべきである」です。
例文4:Мен сурет сызуды жақсы көремін.
「私は絵を描くことが好きです」
主語は言わずもがな、менですよね。ここでは直接目的語となるのがсурет сызуды「絵を描くことを」です(後にも言及しますが、2語以上のものが直接目的語になっている場合は最後の語だけにつき、なおかつ対格語尾は省略されません)。そして、述語となるのがжақсы көремін「私は良く見ている(私は好きだ)」です。これは熟語として割とよく使われているようですね。көремінはкөр-е-мінと言うように分解することができ、көр-が「見る」-е-が非過去をあらわし、-мінが1人称単数の述語用の接尾辞となっていますね。
E. 熟語または部分文が直接目的語を修飾しているとき
これは厳密に言うと違うのかもしれませんが、直接目的語と括られる語が複数語にわたるものと考えて良いです。
例文1:Өткен жылы біз егіннің өнімін арттыру жоспарын едәуір асырып орындады.
「去年私たちは農業生産を増加させる計画を大幅に超えて達成した。」
Өткен жылы「過ぎ去った年→去年」は時間情報を与えているだけで主語ではありません。主語となっているのはбіз「私たちは」です。直接目的語となっているのはжоспарын「その計画を」の部分ですが、それをегіннің өнімін арттыру「農業生産を向上させる」と言う熟語的な表現が修飾していると言うように解釈できますね。そして、едәуір「大幅に」これは後に出てくる述語に相当するасырып орындады「超えて達成した」を修飾しています。
例文2:Біз жақсы істеген жолдастарды сыйладық.
「私たちはよく仕事をしてくれた仲間たちのことを尊敬した」
主語はбізですね。直接目的語となるのがжолдастарды「仲間達を」で、それをжақсы істеген「よく働いた」なるフレーズが修飾するというように解釈します。そして、述語となるのがсыйла−дық「私たちは尊敬する」となるわけです。
F. 文中の主語と直接目的語が同じである時
例文1:Адам адамды қанайды.
「人が人を搾取する」
先に来ているадам「人が」が主語となります。そして、адамды「人を」が直接目的語ですね。最後に述語となるқана−й-ды「(彼らは)搾取する」ですね。
例文2:Адам адмады езіді.
「人が人を圧迫する」
これは上の文と主語と直接目的語は一緒ですよね。述語はез-і-ді「(彼らは)圧迫する」ですね。
G. 直接目的語の前に空間ないし時間についての修飾語がある時、特に指示代名詞または-ғы/-гіを付加されて形成される形容詞である時
例文1:Мен ол кітапты оқыдым.
「私はその本を読みました」主語となるのはменですね。ол кітапты「その本を」олには「彼は」という3人称単数形の人称代名詞以外にもこういう使い方「この〜」という用法があることがわかりますね。これが直接目的語ですね。そしてоқыдым「(私は)読んだ」これが述語です。
例文2:Сендер қолдарыңдағы кітаптарды ашыңдар!
「君たちの手元にある本を開きなさい!」
主語はсендер「君たちは」ですね。қолыңдардағыは「(君たちの)手元にある」というように訳せるのですが、これはқол-ыңдар-да-ғыというように分解でき、қол「手」に二人称複数親称形所有接尾辞の-ыңдарが付加し、-даは位格語尾、そして−ғыが名詞を「〜の」の意味を含む関係形容詞を派生する語尾です。кітаптардыは「本を」で、ашыңдарは二人称複数親称の命令形でаш-「開く」からできたもので「(君たちは)開きなさい」というように取ることができます。
H. 重語が直接目的語に使用されているとき
例文1:Аңшылар тау-тауды кезіп жүр.
「狩人たちは山々をさまよっている」
主語はаңшылар「狩人たちは」で直接目的語が重語のтау-тауды「山々を」で、しっかり対格語尾が付加していますね。述語がкезіп жүрですが、ここでжүрは補助動詞と呼ばれるカテゴリーであるため本来3人称の非過去に付くはずの-діが付加しないことに留意してください。
例文2:Мен ауыл-ауылды араладым.
「私は村々をぶらついた」
主語はменで直接目的語となっている部分がауыл-ауылды「村々を」という重語で対格語尾がついています。述語がараладым「(私は)ぶらついた」となります。
ここまでで対格語尾が省略できないケースを見てきました。ここからは対格語尾が省略できるケースを見ていきましょう。こちらはそこまで数が多くないです。
A:直接目的語が一般名詞の時
例文:Ол хат жазып отыр.
「彼は(座って)手紙を書いている」
主語はолなのはいいですよね。そして直接目的語がхат「手紙(を)」という普通名詞のため対格語尾が省略されるというわけです。述語になるのがжазып отыр「(座って)書いている」です。
B:直接目的語となっていても主格と意味上大差ない時(つまり、文脈上「〜を」と訳しても「〜は」と訳してもそこまで差異がない時)
例文:Шай ішіңіз!
「お茶を飲んでください!」
これは主語は省略されていますが、述語のіші-ңізの-ңізが動詞іш-「飲む」に付加する2人称敬称単数命令形を表すのでсізとなります。そして直接目的語に相当するのがшай「お茶は/を」で、対格語尾が省略されているものです。そしてішіңіз「(あなたは)飲んでください」が述語に相当すると言った具合ですね。
C:動詞と直接目的語の結合が非常に緊密であたかも一つのまとまりのように扱える時
これはイディオムとして幾つか挙げることにしましょう。
қол шапалақтау「拍手する」
киім тигу「服を縫う」
сиыр сауу「乳搾りをする」
сөз сөйлеу「発言する」
әңгіме айту「昔話をする」
これらは全て2語でできておりますが、先に出ている語が名詞類に属し、直接目的語に相当しています。(そして全て対格語尾が省略された形で書かれています)そして述語相当の働きをするのが後半の語というわけです。(全て動名詞形にしております)
最後に、同等の成分が複数直接目的語としてあるときは最後の一つだけに対格語尾が付加されることを付け加えておきましょう。
例文:Сіз Мұхтар, Қасен, Басенді шақырып келіңіз.
「あなたはムフタル、カセン、バセン(全て人名)を呼んできてください」
主語はсізですよね。そして直接目的語となるのがМұхтар, Қасен, Басендіですが、これは最後のБасенという名詞にのみ対格語尾が付加されています。そしてшақырып келіңіз「(あなたは)呼んできてください」という2人称敬称の命令形が述語となっています。
これでひとまずカザフ語の対格形の扱いについて一通り解説したことになります。こんな感じでかなり長くなりそうな解説をたまに上げていこうと思うので次回がありましたらぜひお読みください!
※この記事は「哈薩克語簡志」および「現代哈薩克語語法」をもとに作成しました。