ほんの些細な事だけど。・・見過ごせねぇよ!
「あ」
「・・・おう」
終電もとうに過ぎた時間。久々に商学部のサキちゃんとのサシ飲みで結構カラオケなんかでいい感じの雰囲気になっちゃって、・・・結局ちょっとイチャイチャした雰囲気になって終電宣言をされてしまった俺は、一度部屋に戻ったものの卵の買い忘れに気が付き、コンビニに向かおうとしていた。まぁ、なんかちょっとお酒飲んじゃって暑いし、たまにはアイスでも買っちゃおうかな、とかそんな風に思う午前1時半過ぎ。暇のない大学生活の中でも結構普段は規則正しい生活を送っているものだからこの時間ともなれば結構眠いのだが、・・・だからこそ、驚いた。俺とは対照的にいつ大学行ってるんだってくらい不規則な生活の隣人が、この時間に、しかもそこそこ小綺麗な恰好で帰宅しているところと鉢合わせしたのだ。授業終わったって絶対どこかに出かけるような男じゃないのに、どうしたんだろ。
まぁ、コンビニまで一本道だから互いに逃げらんないわけだけど。バッチリ目も合っちゃってる訳だし、って、おいおいおいおい!
「あっ、ちょ、何!?」
「うっせ、離せっ!」
だって突然ダッシュしたんだもん、びっくりして袖くらい掴んじゃうでしょ。でも残念ながら俺の方が力が強いみたいだから、捕まえるのは簡単だった。すれ違おうとしたところで、捕獲する。一瞬、舞った黒髪から覗いたうなじに見えた、何それ、歯型?
「いやいやいや、ちょっと待って、お前どこで何して来たの」
「お前に話さなきゃならん理由ねぇじゃん、どこだっていいだろ」
「やーだってね、見えちゃったもん歯型。見逃せないでしょー」
「ッ!・・あ、もう、そこまで見えたんなら逆に見逃せっつうの・・」
いつもニヒルでクールな永井右京、で通っている男だが、正直こっちからしたら何がクールなんだって話で。俺につられてテンパって叫んで、はたと我に返ったのか、右京は黙り込んで顔をそむけた。
「・・正面から、見える?」
「いんや、ぎりぎり見えてないけど。何さ、あざとかなら喧嘩かなーって思うけど、歯型って・・・お前がまさかねぇ、どこのホテル?てかどの子?」
「・・・・・、関係ねぇし」
元々人と目を合わせないタイプだとは思ってるけど、この表情は・・。なんとも苦しそうで、薄っすら顔を赤らめて・・。いやぁ、ぁぁぁ、よく考えたらその歯型、うなじについてるんだよね?どういうことよ、女の子にうなじ噛まれるってどういう体勢?正常位やら騎乗位は絶対に無理だし、バックだってあり得ないでしょ。てか逆にバックでされるんならまぁ・・あ、?・・・・・・?
「待ってェ!!!??」
「うっせぇ!何時だと思ってんだ!」
「ちょっと、アイス!アイス買いに行こう!お前明日午前休みなんだろ、ちょっと話聞かせて!!」
もう無理無理無理。これは聞かないと眠れないわ。はぁ!?なんて叫ばれても離さない離さない、俺は右京の腕を引っ掴んで真っすぐコンビニに引っ張っていく。
「馬鹿、おい、離せ!つか突然叫んで何なんだよ!」
「叫びたいの仕方ないでしょーー!もーーー俺多分分かっちゃったよォ、お前変なところで思い切り良すぎんだよ、プライドどこやった!その高いプライドォ!」
「分かった、分かったから引っ張んな!つか叫ぶな!!」
よくわからないけど性癖から性格から変に捻くれてるってのは知ってた。知ってたけど、いきなり一足飛びに行き過ぎって言うか、ならもういっそ俺がどうこうした方がよっぽど安全じゃね?っていうか!違う!そうじゃなくて!危機観念無さ過ぎだろうがもーー!自分の顔考えろ、この女装ミスコン優勝者が!
・・・とりあえず、アイスと酒だな。そんで、この勇気りんりん男に説教しないと。
今夜は長くなりそうです。