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そんなに怖くはないコワイ話2

もうひとつ怖い……いや、怖くはないな。私が悔しいだけの話をしようと思う。
前回の小学生の思い出からずっと年月が過ぎて働き始めたころの話だ。
古い人間なのがバレてしまうが、当時はガラケーというものを皆が持っていた。私はうすらぼんやりと生きていたので「今まで使っていなかったものを使い始めるきっかけ」がないとなかなか「欲しい」という気にならず、入手したのは出始めてから随分経過したころだった。
それも家族に「私も携帯電話が欲しいが契約とはどうすればいいのか」と聞くと父が「一緒に契約すればお得だから」と契約してきてくれたものをそのまま使うぼんやりさだった。なので故障したときも父に「なんか壊れた」と訴えると「会社行く途中に店あるから修理出してくるわ」と言われて数日後に治ったものを受け取った。なんせぼんやり生きてたので『代替機』というシステムがあることすら当時は知らなかったので。

それはそれとして就職した私は会社から「○日は仕事に使う機械の講習を受けて欲しい。朝から直で✕✕へ行ってくれ」と言われ、始めて降りる駅の始めて行く会社を一人で訪ねることになった。
私は大変に方向音痴なので当日は迷うことも計算に入れて多少迷ったとしても30分は早く着く時間に家を出た。結果、特に迷うことなく目的の会社に着いた。
約束の時間の45分前だった。

着いた……のはいいが、閉まっている。人の気配が一切ない。
それなりに大きな会社で玄関口は黒っぽいスモークガラスが歪曲して半円を描いた自動ドアになっているが前に立っても開かず、目を凝らせば自動ドアの向こうにうっすらと受け付けが見えるが誰も立ってはいない。
45分前というのは確かに早すぎるので、場所を確認したらどこかで時間を潰すつもりではいたがここまで誰もいないってことある!?なんかほら、準備とかあるでしょ!?と思うも本当に誰もいないので仕方がない。しばらくその会社の前をウロウロしていたが誰も来ない。
人は通っているが全て会社の前を素通りしていく。郵便屋さんのバイクがきたので郵便入れるのに止まったらいつもこの時間にこの会社は開いていないのか聞こうと思ったら素通りして行った。

そうこうするうちに30分前になった。
ちょっとおかしいのではないか。そこそこでかい会社で来客の予定があって30分前になっても誰も来ないってちょっとどころでなくおかしいのではないか。

なぜ最初に私の当時の携帯電話事情を書いたかというと、この話はその故障していた数日の間に当たるからなので、自社に電話したくても電話がないのだ。

私はその会社の回りを歩いて見ることにした。脇に回り、隣の建物との間の細い路地を抜けて裏口らしい部分に着くと、ドアがあった。明かりはついている。
「すみませーん、研修に来た者ですが、正面玄関が開いてなくって……」
と言いながらノブを捻ると、普通に開いた。
開いた先は小さな部屋になっており、PC等も立ち上がったままになっていたが誰もいなかった。その部屋から奥へ続くドアも開いている。
「すみませーん!どなたかー!」
誰も出てこない。PCは2~3台あったように記憶している。全部立ち上がった状態で画面も焼き付き防止の画面などではなく、つい先ほどまで使用していたような形跡がある。
しかし人の気配がない。

勝手に奥に入るのもどうかと思ったのでもう一度細い路地を通り正面玄関に出てきたが、やはり誰もいない。約束の時間は15分前まで迫ってきていた。
一度大通りの方へ出てみると小さな商店(金物屋だったように記憶している)の店頭に公衆電話があったので、そこから自社へ電話をしてみた。
「すみません、研修先の前まで行ったのですが、誰もいなくって……」
「この時間に?そんなことないと思うけど……こっちから電話入れて見るから、5分ほどしたらもう一度電話してもらえる?」
という会話を経て5分後にもう一度電話を入れると
「普通に電話に出られて、貴方が来るのを待っているそうだけど……?」
「へ……????」
慌てて電話を切ってもう一度、研修先の会社へ向かうと今度は普通に開いていた。ホンの15分前まで誰もいなかったのが嘘のように自動扉は開閉を繰り返し人が出入りしている。奥の受け付けにもにこやかな受付嬢がいらっしゃる。

狐につままれた気分というのはこういう気分なのだと思った。
一応「あの、15分前まで誰もいらっしゃらなくって……」と言ってみたのだけどにこやかなまま「はい?」と不思議そうに言われてしまい、それ以上なにか言うことは憚られた。なんとなく。

そうして、この話も特に誰も怖い思いはせずに、私が45分も前に着いていたのに1分遅刻してわけのわからんことを言っている粗忽者と見られ、携帯電話の故障さえなければ誰もいない会社の前から電話ができたのにと歯噛みし、2回目の自社への電話で10円玉が尽きていたのであの一瞬の会話に100円を払うことになったという、どれだけの年月が経っても何があったのかわからないモヤモヤと様々な悔しさを執念深く覚えているそれだけの話だ。
くっそホントに思い出しても悔しい。100円返せ。

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