1223「ニラを買ってきてくれ」
昨日の日記の体たらくが示すように、結構すごい時間まで深酒してしまったので、朝からひどい二日酔いに侵されて嫁に謝り続けつつ、午後に来客があるのでその準備のためにケーキを買いに行ったり、ビールを買いに行ったり、嫁がつくる生春巻き用のパクチーを買いに行ったりした。嫁は怒っているので、ケーキを買いに行って帰ってきてから「ビール買ってきて」という調子で、一度にまとめてくれない。家(退去させられているので仮住まい)と外を往復しているうちに二日酔いが低減したかと思いきや、全然低減してなくて、そもそもの時差ボケと二日酔い感で寝てしまったりしているうちに来客の時間になった。
来客との話の中で、この日記の話や、「ニューヨーク在住」であることを売りにしている感じの文章についての話になった。
かなりどうでもいいことであっても、ニューヨークっぽい固有名詞を出すとニューヨークっぽくなってかっこよくなる。
これは私もわりと無意識にやっていることかもしれない。
たとえば、「地下鉄の中に注射針が落っこちていました」ということをそれだけ書くのではなく「ダウンタウン行きのCトレインの床に注射針が落っこちていました。ああ、自分はニューヨークに住んでいるんだなあ」と書くと、どうしようもない事象なのにニューヨーク感が出る。
今日の冒頭の二日酔いでフラフラになりながらもどうにかがんばった買い物についても、固有名詞を入れていくとすごくニューヨーカーっぽくなってかっこよくなる。
午後に来客があるのでその準備のために、ケーキを買おうとCトレインで70thストリートとコロンバスアベニューのマグノリアベーカリーへ。駅からお店までの間に、ジョン・レノンが住んでいたダコタ・ハウスの横を通る。ここには今でもオノ・ヨーコが住んでいる。
ケーキを買って帰宅すると、今度は嫁に「ビールを買ってきてくれ」と言われたので、家の近所のコロンバスアベニューのホールフーズ・マーケットに行って、ブルックリンラガーとブルックリンIPAを買ってきた。
それを持って帰宅すると、「パクチーを買ってきてくれ」となり、コロンバスアベニューのホールフーズ・マーケットの地下の生鮮食品売場に行ってパクチーを束で買ってきた。
と書くと、日本に住んでいる人からするとほどよく現実から離れて映画っぽくなってめっちゃかっこよくなる。これを東京っぽくするとこうなる。
午後に来客があるのでその準備のために、和菓子を買おうと田園都市線で桜新町駅前の亀屋万年堂へ。駅からお店までの間に、長谷川町子が住んでいた桜新町ならではの波平さん像の横を通る。桜新町には今でも水前寺清子が住んでいる。
和菓子を買って帰宅すると、今度は嫁に「焼酎を買ってきてくれ」と言われたので、家の近所の世田谷通りのサミットに行って、黒霧島と富乃宝山を買ってきた。
それを持って帰宅すると、「ニラを買ってきてくれ」となり、世田谷通りのサミットの地下の生鮮食品売場に行ってニラを束で買ってきた。
こうなるともはや生活感でしかない。ただ、ノリ的にはニューヨーク版も東京版もだいたい同じようなことを言っているだけだ。土地にまつわる固有名詞が変わるだけでこれだけかっこよくなる。つまり、私たちニューヨーク民は、日常生活を適当に固有名詞を散りばめて表現するだけで、人間として一歩先を行くことが可能だ。
むしろニューヨークに住んでいなくても、文章の中の場所をニューヨーク的に変えることで、ニューヨーカー感を出すことができるのでこれはかなり便利だ。いつか東京に帰ったら、日記を全部ニューヨークの地名に置き換えて書いてみようと思う。
いやむしろ、文章を入れると地名をニューヨーク化してかっこよくしてくれるテキストジェネレータをつくるのはそんなに大変ではないと思う。
来客一家と百人一首をやってボロ負けしたので、年末年始はフロリダに行ったりするが、百人一首を超覚えてリベンジしようと思う。
来客のSさんが調理して持ってきてくれたローストビーフがめちゃくちゃうまかった。それに引き換え自分はこの体たらくだ。