0409「間伐材を食らう」
昨日は本当に朝から分刻みで、神戸のカプセルホテルで目覚めてからずっと人としゃべっていたような気がする。プレゼンの準備をギリギリまでやってプレゼンをやって、終わったらすぐに路上で電話会議して、それが終わったら新幹線に飛び乗って、という具合だったのだが、実はよくよく考えると、移動の新幹線でわりと爆睡していた。これはもう歳だなと思う。ちょこちょこ弛緩させないとついていけない感じが結構する。
そんな感じで、東京に戻ってからも打ち合わせの時間を1時間間違えていて泣きながら走ったり、ずーっとしゃべり続けたりして、夜、会食というか、葵/ELNIDOの加藤さんと、projectorの田中さんと、LIFULLのCCOの川嵜さん、という結構珍しい人たちと酒を飲んだ。全員すごく忙しい人たちなはずだが、わりと前から川嵜さんが計画してくれていて、どうにか集まることができた。
加藤さんは、「映し鏡」で一緒にやらせて頂いていたし、田中さんのプロジェクトには何度も参加させて頂いたし、川嵜さんはもともと同じ会社の同じチームだ。一応私はそのチームを仕切っていたのだが、あのチームはとてもおもしろいチームで、私が当時何らかのポリシーで「殺伐とした職場環境」を標榜していて、チームで飲みに行ったりとか、そういうことを一切しなかった。私が面倒くさかっただけなのだが、すべて仕事上でぶつかりあって完結するのだ的に考えて、そういう関係づくりをすることにしていた。にもかかわらず、わりと仕事のキャリア上は各々にとって青春時代にあたるところがあって、時がたってもこんな感じで酒を飲んだり仕事をしたりできるのはありがたいなと思う。
当時の自分たちがいかにブラックな環境で仕事をしていたかという話でひとしきり盛り上がる。当時は私がとにかく月曜日の朝から金曜日の夜まで会社から帰らないような働き方改革クソくらえ的なひどい生活を送っていたのだが、私がいつも床に寝ていてイビキがうるさかったとか。空のペットボトルが最大30本私のデスクの周辺に転がっていた話だったりとか。それどころか喫煙所で気絶していたこともあったよね、などという話とか。とにかく全体的にみんなのQoLがひどくて、「アンチ・ウェル・ビーイング」だったよねという話に終止した。当時だからギリギリ許されていたのかも知れないけど、今だったらたぶんかなりいろんな意味で怒られていたのだろうなと思う。
で、川嵜さんはこの日記を見てくださっていて、LIFULLでつくっている間伐材をつかったケーキ「EATREE CAKE」をくれて「感想書いて」とのことだったので、さっそく食ってみた。
のだが、完全に申し訳ないことをしてしまった。私は正直、インスタ敗者というか、自分でもすごいなあと思うのだが、いかに素敵なものでも自分のスマホのファインダーを通すと完全に魅力を失う「逆映え力」が半端ない。背景に写り込んでいるものから光の当たり具合からして、概ねクソになる。こんなものだから私はこのインスタ時代にあって、instagramを更新しない人になている。写真っていうのはつくづく芸だなと思う。このへんは手先の不器用さにつながっているような気がしていて、なぜ自分が手先が不器用なのかというとたぶん、何か細かいことをやるときの予備動作が常に適当でいい加減なので、最終的に作業を実施するときにうまくいかない。たとえば、針の穴に糸を通すとき、きっと普通は針を安定させたりとかいろいろ下準備をするのだが、私は生来そういうものを端折る傾向があって、いきなり準備なしに糸を穴に通しに行ってしまう。
このへんが自分のインスタ力の無さにつながっていると思っていて、結果として、非常に雑で魅力のない写真が仕上がってしまう。
そんなわけで、「EATREE CAKE」、せっかくなのでいくつか写真を撮ってみたのだが、実物の素朴な素晴らしさに反して、撮れた写真は完全にクソだ。
しかも、撮って食ってから気づいた。食ってしまったので、もう撮り直すことはできない。せっかくケーキをくれた川嵜さんには本当に申し訳ない。実際は素朴なデザインのパウンドケーキだ。それにしても最悪だ。
あまり予備知識がなく、間伐材、要するに木を使ってつくられたケーキという認識しかなくて、しかし川㟢さんによると小麦の代わりに木を使っているらしい。
「木を食う」というと、私の場合、「魁! クロマティ高校」の最初の方で、何十本もの鉛筆をバリバリ食う不良が出てくるのだが、あれを想起してしまう。あるいは、「割り箸を煮るとメンマになる」という都市伝説があったが、あれを思い出す。
「間伐材を食べる」というとそんなにアグレッシブな感じはしないが、「間伐材を食う」とか「間伐材を食らう」とか言うと、割り箸をむしゃむしゃ食っているような、ネクストレベルな響きになる。
で、この「EATREE CAKE」は実際に食ってみるとどういう感じかというと、確かにほのかに木の匂いがする。そして、「木かも?」という繊維質な食感もある。しかしそれがうまい具合に上品な香りづけになっていて、あんまり食ったことのないおいしいものになっていた。うまく木材の香りを利用している感じが、「俺たちは木を食うんだ」というところから逃げていなくて素晴らしいと思った。「木を食っている感じがするのにうまい」、つまり、代替素材をつかって偽ケーキをつくるのとは違って、ちゃんと、木を新しい正当な食材として扱っていてかっこいいなと思った。
だからこそ、私の写真のひどさが悔やまれる。良いものなのだから、良い写真で紹介しなければならなかった。
夜が明けて、朝から台湾に出かけなくてはならないのに、寝落ちしていたので、10分くらいで一昨日の日記を書いて、勉強をやって、メールに返信していたら、着る服がないことがわかった。やばいと思って洗濯機を回したが、飛行機の時間ギリギリになってしまった。服がまだびちょびちょだったが、歩きながら乾かすことにして、出かけた。台湾は暑いらしいので、面倒なので台湾向けの薄着な格好で濡れたまま外に出たら、壮絶に寒くて、しかも雨が降っていた。
今の私は歩く部屋干し野郎だ。空港の薬局でファブリーズ買って、身体にかけてどうにかした。前に進むしかない。