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ミュージカルが苦手な人におすすめのミュージカルを考えた/柴田葵

 今回は好きなものを語る回。好きなものを好きなように語るので、乱文です、ご容赦ください。好きに書くぞ。

 私はミュージカルが大好きなんですけれど、苦手な人がいるのは知っているし、その感覚もすごくわかる気がします。反ミュージカル派の筆頭・タモリさんが常々おっしゃる通り「なぜ急に歌いだすのか」という点が大きいのではないでしょうか。
 ただのミュージカル好きで、網羅的に見ているわけでもありませんが、会社員時代には休暇を利用して単身渡英し、安い民宿を拠点に、ディスカウントされた当日券や最安値のチケットを買ってはミュージカルを観る、という「そりゃ絶対一人でいくべきだわ」という旅行をする程度にミュージカル好きな素人(私)は考えました。「歌が唐突に感じやすいのは、やはり日本語の性質ではないか」と。日本語とミュージカルは残念ながら親和性の低いような気がします。

 日本のミュージカルのレベルについて云々言いたいのでは決してありません。日本のミュージカル劇団といえば劇団四季ですが、劇団四季のレベルはすごい。20年前はトップ俳優とアンダースタディのレベル差が歴然としていたような印象が(子供ながらに)ありました。今は違います。歌もダンスも、出演者全員超ハイレベルです。劇団四季は発声方法が独特だと指摘されてきましたが、その「癖」のようなものも、近年するすると和らいだように感じます。劇団四季専属ではない、客演俳優の方も増えたからでしょうか。同じ演目を劇団四季と海外で観る機会もありましたが、だいたいは劇団四季の安定感はすごいなあという感想でした。すごいです。

 さて、私がなぜ「日本語はミュージカルとの親和性が低い」と考えるか、というと、英語の歌詞の日本語訳というのがめっちゃくちゃに難しいらしいからです。
 これは私が指摘するまでもなく、散々言われている事実ですが、同じメロディに英語で詞をつけるのと、日本語で詞をつけるのだと、込められる情報量が英語>>>>>日本語になります。1つの音に単語レベルの「意味」を乗せられる英語に対して、日本語は基本的に1「音」しか乗せられません。ディズニーアニメ映画「アナと雪の女王」の『Let it go』を例に挙げます。

Don't let them in, /don't let them see/Be the good girl you always have to be/Conceal, don't feel,/don't let them know/Well now they know

とまどい/傷つき/誰にも打ち明けずに/悩んでいた/それももう/やめよう

 オリジナルの英語の歌詞は「誰も入れるな、誰にも能力を見せるな、いつも良い子でいなくては、隠せ、感じるな、知られるな(だったのに)もう人々に知られてしまった!」と、エルサの能力を隠し通そうとした両親(先代の王・王女)からの抑圧、それに応えようとした幼少期からのエルサの葛藤や恐怖が丁寧に語られるのに対し、日本語の歌詞はあまりにも抽象的です。でも、メロディに歌詞として乗せるには仕方がありません。

 ミュージカルの多くは台詞があり、台詞からそのまま歌に入るケースも多くあります。これが英語ならば、同じ情報量をキープしたまま台詞→歌に移行できるのですが、日本語だと台詞→歌になると急に情報量が減ってしまい「急に抽象的なことを歌いあげる不審な人」感が否めなくなります。
 もちろん、ミュージカル歌詞の日本語訳は、この点について本当によく考えられて取り組まれており、すごい、と唸るしかない訳もたくさんあります。それを見比べるのも楽しくって好きです。

 えーと、さてさて、そういうわけで、ミュージカルを苦手に感じる人にオススメするミュージカルを「勝手に」考えて挙げたいと思います。つまり「あまり歌が浮いたように感じられないミュージカル」です。特に、大人の方にオススメです。ネタバレを含みますので、気になる方は避けてください。私が好きなミュージカルランキングではなくて「ミュージカルを観たことがない・苦手なんだけれど、何かいいのある?」と聞かれたら、私はこれを答える、というものです。

◾️舞台「Wicked」
 オズの魔法使いをベースにした、外伝的なミュージカル。出てくる人全員、脇役も含めて、ただ幸せになりたいだけなのにどんどん不幸になる。オズの魔法使いのミュージカルでしょ、子供向けかな、と思って観ると度肝を抜かれる。ハリーポッターの世界観が好きな人、ぜひ。ストーリーが凝っていて見応えがあり、衣装も装置も照明も何もかも華やかでおしゃれ。劇団四季も上演している。家で100回観たいので早く映画化してほしい。ちなみにオリジナルブロードウェーキャストの主演(緑色の魔女・エルファバ)は「アナと雪の女王」でエルサの声を演じるイディナ・メンゼル。ちなみに彼女は超有名ミュージカル「RENT」のオリジナルブロードウェイキャストでもあるそうです。凄すぎる。

◾️映画「Chicago」
 舞台版ミュージカルがいわずとしれた名作で、私も大好きだけれど、舞台版は見慣れない人にはあまりオススメできない。なぜならば、出演者は全て黒いキャバレー風衣装を着ており、舞台上にバンドが乗っていて生演奏する、超クールな形式だから。超クールな形式なんだけれど、つまり具体性をそぎ落としているので、例えば私の父などは「みんな衣装も一緒だし、セットも変わらないし……」という感想だった。それも仕方がない。そのChicagoが見事に映画化。俳優も衣装も演出もゴージャス。出てくる人が誰も彼もみんな癖があって格好いい。何度見ても飽きない。キャバレーでスターになることを夢見るロキシーと、スターであるヴェルマ(ともに殺人罪で服役する)で、人生はジャズだというコンセプトが敷かれているので、歌い踊り出す大義名分が全体にあり、違和感を覚えづらいのも◎。

◾️舞台「EVITA」
 現代のモーツァルトと言われるアンドリュー・ロイド=ウェバー。CATSやオペラ座の怪人、ジーザスクライスト=スーパースターなど、超有名ミュージカルの生みの親。そのなかでも一番観やすいのは、私はEVITAではないかと思っている。アルゼンチンの大統領夫人エバ・ペロンの生涯をベースにしたもので、実際の歴史が背景にあるぶんストーリーが明確で興味深い。同時代を生きた革命家チェ・ゲバラがストーリーテラーとして登場する。エビータの死という沈鬱なレクイエムから始まり、タンゴのリズムでの駆け引き、金に執着するエビータの外交など、どの曲も多様で素晴らしい。貧困家庭からファーストレディにまでのし上がり、病に倒れるエビータの短い生涯はまるでショーのようで、そういう面からも歌やダンスに必然性を感じやすい構造になっている。そもそもセリフがほとんどないのでオペレッタに近い。映画ではマドンナが主演。舞台では若きエビータに捨てられる恋人マガルディが、映画ではエビータを捨てる側なのがちょっと不満。全体的に舞台の方が私はおすすめです。ただし、本作品はロイド=ウェバーの初期の作品で演出を自由にできるようになっているため、現在上演されている舞台は演出バリエーションがさまざま。あまり良くない演出のものもあった(ロンドンで)。劇団四季も、最近は全国巡業以外は上演していないはず。してほしい。

◾️映画「ヘアスプレー」
 60年代ファッションが可愛すぎる。映画化として、すごくうまくいっている作品だと思う。黒人と白人が同じテレビショーに出演できない時代、その価値観に立ち向かうボリューミーな少女、トレイシーの話。トレイシーの母・エドナは男性俳優が演じるケースが多く、映画ではトラボルタが特殊メイクで演じており、とってもキュートで良い。子供から大人まで見やすい。テレビショーが舞台なので、歌や踊りも馴染みやすい。日本キャストで上演が決まっており、ブラックフェイスはやらないという宣言で話題になっていた。

◾️映画「オペラ座の怪人」
 怪人役のジェラルド・バトラーが、若すぎるのが個人的には難。舞台版を見たときには「父性」もひとつテーマかなと思ったので。でもどのシーンをとっても美しく、舞台版より見やすいと思う。ただ、15年くらい前に見たイギリスの舞台の怪人はマジで忘れられなくて、すごく高圧的かつ繊細な歌声の、それこそ神様みたいな人だった。

◾️映画「グレイテストショーマン」
 ものすごく好きなんだけれど、ブレイクした印象以上に、実は観る人を選ぶ映画だろう。でも、私はものすごく好きだから書いておく。バーナムとカーライルの駆け引きのシーンとか、英語字幕にして必死に追うと「今朝生まれた赤ん坊じゃねえんだぞこっちは」とか早口で歌っていて「そんなん私みたいに英語できない人間にはぜんぜん聞き取るの無理だし、日本語訳の歌詞に収まるわけがない」と思った。しかし、あのシーンはいつ見てもテンションが上がる。

 だんだん文章が雑になる感が否めません。力尽きてきた。反対にあまり最初からはオススメできないミュージカルもあるんだれど、もうだめです。あと、日本語のオリジナルミュージカルのこととか(もちろんすごい)、2.5次元のこととか(観たい)書きたいけれど、急に体力が尽きました。とにかくWickedは早く映画化してほしい。企画はあるらしいのに、一体何に揉めているんだろう。

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