吸盤:オリジン
普段は基山瑣末として愚にもつかない小説モドキや詩モドキを投稿しているのだが、たまには自分のことも書いてみたいと思い、新たにアカウントを作ってみた。
吸盤、という名は私がジョー・力一さんというVTuberのラジオへお便りやネタを送る際に使用しているものである。彼のラジオ「空昼ブランコ」は今日の時点で第53回まで配信されているが、私の送ったものは第50回時点で44通採用されているそうだ。「空昼ブランコ」だけでなく、前身の「深夜32時」や他番組「舞元力一」でも採用された覚えがあるから、そちらも含めたらもう少し多くなる。
自己紹介はこれくらいにしておこう。ともかく、私はVTuberのラジオへお便りを送っていて、このアカウントではその辺りのことを書いて投稿する腹積もりである。それだけ伝われば十分だ。
お察しの通り、このアカウントで以て投稿される文章は押し並べてひどく個人的な内容であり、別段誰かの何かに役立つ類でないことを断っておく。
この記事は「吸盤:オリジン」。このタイトルがどこへ由って来るのかといえば、究極的には勿論「僕のヒーローアカデミア」であるが、それを倣ったのには理由がある。「空昼ブランコ」29回にて、私の送った「ラジオネームの由来を忘れた」という旨のお便りが採用され、その際力一さんが「吸盤:オリジンみたいなのがあるなら聞きたい」と言った所から来ている。
というわけで、今回は「吸盤」の所以を思い出してみようと思う。
私は「吸盤」以外のラジオネームを持っていない。今のようにお便りを送り始める以前は、自分から何かを発信しようなどカケラも思っていなかった。奇抜なラジオネームを持つリスナーの多い中存在する熟語を選んだのも、ある種の手探り感というか、勝手のよく分からぬままに名付けたことの表れかもしれない。今の私なら全然違った名を付けている。「沢庵ファンタジスタ」とか、「蜜・D」とか。
要は、長くお便りを送り続けることなんて想定していないし、そもそも送ったものを読まれるとすら思ってなかったわけであるから、全くの浅慮の末──例えばなんとなく目についたとかそういう理由で──吸盤になったのは明白である。
そういえば、初めて読まれたお便りって何だったっけ。初めて送ったものが読まれたのは覚えているが、内容も、時期も定かでない。私がVTuberを知ったのは確か2019年の夏、秋頃であった。大学入学祝いにもらったノートPCで見ていたのを覚えている。そのPCは結局めんつゆトラップをぶちまけて水没した。その頃力一さんはとうにデビューしていたものの、私はまだ彼を知らなかった。となるとそれ以降、おそらく2020年より後のような気がする。
そこまでアタリがついているならば、片っ端から聞いてみよう。
あった。2020年4月6日配信の「舞元力一」第33回、その「ひとくち嘘ニュース」のコーナーにて、初めて力一さんの口から吸盤の名が発せられた。些か驚いた。てっきり「深夜32時」の方だと思っていたのだが、当時まだ「深夜32時」は始まってもいなかった。
しかし、私が更に驚いたのは、読まれたお便りがライバーネタだったことだ。最近の私と全く趣を異にする内容である。私の心は複雑な様相を呈した。今なら絶対に送らないどころか思いつきもしないような内容が、吸盤のネタとして読み上げられている。ラジオネームを聞いていなかったら私の送ったものだと気付かなかっただろう。私はそれほど変わっていないつもりであったが、たかだか4年半くらいで過去の自分を判別できなくなってしまうのだ。
結局得られたのはそれくらいで、吸盤の吸盤たる所以、その切れ端も掴めなかった。ただ、その「得たもの」は私に1つ転機を齎した。
今の私の考えていることを残しておこう。
私は送ったお便りや思いついたネタなどを、どこにも残していない。お便りの投稿フォームを開き、ラジオネームの欄に吸盤と打ち、そうして初めて考え始める。そして思いついた端からフォームに打ち込み、送信してそれきりである。即ち、配信内にて採用されたものだけが、私の触れられる形として残っているのだ。今回の件を以て、私は初めてそれを勿体ないと思った。
ただ、ネタを書き留めておこうという気は起こらなかった。ことラジオへ送るネタに関しては、熟考の末生み出したものと思いつきのものとで大して質が変わらないのである。それよりはやはり、思考回路の方を残しておくほうが有意義に思えた。だから今、こうしてダラダラと文章を書いている。
私は、後ろ向きな積極性、というのを日頃から大事にしている。私1人が何かしたところで何も変わらないだろう、であれば何をやったっていいだろう、そういう心持ちである。私がこの自分のための文章を公開するのも、その一端である。やろうがやるまいが無意味で、しかし自分はやりたいのなら、やればいいと思う。どっちにしろ変わらないのだから。
4年半前の私がラジオへお便りを送ってみたのも、この精神からだとすれば説明がつく。読まれなかろうが、思いついてしまった以上、送らないよりは送った方がいい。それで読まれたら嬉しいし。
吸盤、という名の由来を遡っている内に、私自身の心を辿ってしまっていた。結果として語られたは吸盤の、ではなく、私のオリジン。
ある日突然、全世界のカーネルサンダース人形が喪黒福造に変わってたら怖いよね。
ここまで読んでくれてありがとう。