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「滑り台の世界」の日 12月-Vol.1
さて、今日はこの旅の最終日となる「滑り台の世界」の日。
前回の気づきである、コロナの2020年に、この「1Q84フォトトリップ」をしている意味をじっくり考えるつもりだ。
秋からBOOK3を丹念に読んで気づいたことがある。
我々の世界である2020と、1Q84はつながっている
BOOK3では、主要人物はみな隠れている。
青豆は高円寺のマンションの一室に隠れている。
天吾は猫の町の父親の病室に隠れている。
ふかえりは天吾のアパートに隠れている
---「1Q84読解 村上春樹変奏曲」より
「隠れている」
2020年ほど、「息をひそめて隠れていた年」は、僕の長い人生で一度もなかった。
コロナが世界を襲い、我々は家に息をひそめて隠れた。自分の世代で黄熱病やスペイン風邪のような「疫病」に遭遇するなんて考えてもいなかった。
僕らは、疫病の恐怖の前に、「隠れた」。
だから今年ほど、1Q84の主人公たちに寄り添える日々はなかったのだ。
我々は、みな隠れている
事実、3月から12月まで、僕もリモートワークでずっと自室に閉じこもっている。
その長く単調な日々を経験してはじめて、青豆や天吾が過ごした「隠者の生活」に寄り添えた気がするのだ。
村上春樹の物語では、その大事な戦いの場面で主人公が「隠れる」。表の世界から姿を消し、裏の世界に入る。
そして一見、隠れておきながら、その実、隠者は裏の世界で最高の武器を手に入れ、隠れながら反撃する。
静かに、ひそやかに、か弱い存在のままで、仲間もなく、孤独のままに
---「1Q84読解 村上春樹変奏曲」より
天吾は猫の町に隠れ、「小説1Q84」を書く。
ふかえりは天吾のアパートに隠れ、牛河を裁く。
そして青豆は高円寺のマンションに隠れながら
「空気さなぎ」を読むことで最高のパシヴァに進化する。
彼らは「オハライ」という共同の儀式で、処女懐胎の奇跡を実現する。
「わたしがチカクしあなたがうけいれる」
こうして準備が整う。
反撃の武器が整った時に出現するのが「滑り台の世界」だ。
「1Q84なる世界」に現れた唯一の脱出口、それが「滑り台の世界」だ。
この出口に最初に気づくのは青豆である。
最高のパシヴァに覚醒した青豆には、様々なことがチカクできる。
覚醒した青豆にはわかる。
自身の処女懐胎のことも。小さなもののことも。その父親が天吾であることも。そして天吾が再び滑り台に戻ってくることも。
青豆にはわかる。
さて、この日の目的地の一つ、高円寺の公園に着いた。
脱出の12月らしい、厳しい寒さだった。
小説「1Q84」に聖地があるなら、この公園こそが最もそれにふさわしい。
それも、12月の凍てついた日にこそ、ふさわしいと実感した。
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