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百歳百冊「100年予測」

ジョージ フリードマン, George Friedman 早川書房

地政学を活用して「地域情勢予測」を極めた本。
「21世紀がどのようになるのか、その感触をつかむ」
を意図している。


21世紀の輪郭を把握することができれば
この本を読んだ意味があるということだ。


あくまでグローバル国家戦略という
複雑系の中での予測なので、
ひとつの推論として読むべきものだが、その推論は熟読に値する。


論拠性については、まったくのSFではなく
合衆国で入手可能ないまある技術と
最新の国家情勢把握、既に起こっている社会変容を
反映させているという事実主体であるという点。


さらに見逃せないのが
これが「ストラトフォー」という
アメリカ合衆国の情報機関の一端が
唱える推論であるという点であり、
ゆえにアメリカ合衆国の基本戦略に採用されうる
という活用主体の重大性である。


まず本書は
地球文明の中心がヨーロッパから北米大陸に移り、
その中でまず始めに北米大陸の覇権国として「アメリカ」が
台頭してきたという事実を真っ先に挙げる。


そしてこの世界覇権国としてのアメリカ合衆国は、
まだまだ未熟であり、未熟であるが故に
21世紀を渡って成長し続ける。
そのアメリカの基本的性質は「強情、未熟、卓越」である。
それに対する世界の反応は「恐怖、羨望、抵抗」と指摘する。


白眉と思ったのは、合衆国の地政学的基本戦略のまとめである。
 1.アメリカ陸軍が北米を完全に支配すること
 2.アメリカを脅かす強国を西半球に存在させないこと
 3.侵略の可能性を排除するために、
  アメリカへの海上接近経路をアメリカ海軍が完全に支配すること
 4.アメリカの物理的安全と国際貿易体制の支配を確保するため、
  全海洋を支配すること
 5.いかなる国もアメリカのグルーバルな海軍力に挑ませないこと


この基本戦略が理解できていないと、
アメリカが他の国にちょっかいを出して混乱させるだけさせて
終息するつもりがないという無責任な国際情勢の事態を飲み込めない。


当然ながら戦略的優先順位もとても明確。


 1.北アメリカ大陸防衛 
 2.南アメリカ大陸防衛
 3.大西洋+太平洋海域の防衛 
 4.すべての海洋の支配 
 5.他国に海洋侵略を許さない状況
 6.ユーラシア大陸での単一覇権国家を誕生させない
 7.ユーラシア大陸の地域覇権をしそうな強国の出現を阻止する


つまり、ユーラシア大陸で起きていることは、
アメリカに取って優先順位6位以下の事項なのだ。


一連のクウェート、イラク、ユーゴスラビアへの軍事介入は
ユーラシア大陸の地域覇権を目指す国を誕生させないように阻止し、
混乱させ、遅延させる目的であったのだ。
あくまで優先順位7番の戦略としての「阻止」。
はじめから「何かを達成しよう」などと思っていないのだ。


つづく、アフガニスタン、イラクでのアルカイダとのテロ戦争も
同様のシナリオですすめられているため、
この混沌とした状況はアメリカにとって
戦略的な「勝利」を意味している。


このアメリカに対抗しそうな覇権国家の誕生を
予測するために活用しているのが
文明や国家連合に断層面があるとする
いわゆる「文明の衝突」論と同じ手法。


ではいまアメリカから見て
憂慮されるべき断層面・地域覇権国とは何か?


 1.環太平洋地域/東アジア 中国 → 日本
 2.ユーラシア地域/旧ソ連圏 ロシア → ポーランド
 3.ヨーロッパ
 4.イスラム社会 トルコ
 5.北米大陸 メキシコ


よくいうBRICS諸国は入ってこない。
ちょっと意外なセレクションとなっている。


そのうえで、人口爆発の終焉(人口収縮)など
今起こっている社会変容や未来のメイン技術(戦争利用技術)である
ロボットと宇宙太陽光発電などの未来予測を反映した。


この基本設計が複雑系のなかで
どのように化学変化を起こしていくのかを
20年スパン×5セットで予測している。


予測は細部になればなるほど外れる可能性が高くなる。
ここはひとつの可能性として読めばいいのであって
当たり外れをひとつひとつ討論すべき部分ではない。


この本が日本ではSFで有名な早川書房から出版されたことが
象徴するように、この国ではSFとして
片付けてしまう内容かもしれない。


しかしアメリカと本気で戦争を起こす可能性のある国として
仮想敵国の筆頭に挙げられた日本の21世紀を
いまから考えるべきだと思う。

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太田泉
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