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百歳百冊 超訳ヨーロッパの歴史

いままで納得いかなかったヨーロッパの矛盾点が全て腑に落ちた。簡潔で、論旨明快、名著である。

いままでは、ギリシアとローマ帝国は塩野七生から学び、キリスト教もかなり研究したけど、ゲルマン人の事が分かってなかったから、中世の混沌が理解出来なかったのだ、と痛感した。

では、あの偉大な古代ローマ帝国を引き継ぐ、ヨーロッパはなぜに「野蛮」なのか?

この本によれば答えはシンプル。

侵入してきた蛮族のゲルマン人が支配層となり、読み書きが出来ない彼らが領土の支配のために、キリスト教会と結託したから。
更にローマカトリック教会は民衆に知恵を与えず、古代の知識を教会の秘儀として独占したから、一気に民衆のリテラシーが下がった。

この本の白眉は、中世ヨーロッパの3つの要素の分析だ。

ハーストは、ヨーロッパという混合物は3つの要素からなると総括する。

1.ギリシャ・ローマの学問
2.キリスト教
3.ゲルマン戦士
である。

1.ギリシャ・ローマの学問
「世界はシンプルかつ論理的・数学的である」と考えた。 そして科学が誕生してからもこの要素は残った。
ニュートンも、アインシュタインも「単純な解答を求める者だけが正解に近づくことができる」と主張している。

2.キリスト教
「世界の本質は悪でありキリスト教のみが救うことができる」と考えた。

一神教は極めて特殊な考え方だった。
死後復活が鍵だった。それでイエスは「神が人類を破滅から救う犠牲」という存在になった。イエスは「十戒」というユダヤ教の道徳を、ユダヤ人のための「普遍愛」に要約した。
パウロが広めた初期キリスト教は、「何人もイエスを信じれば、救済される」と説いた。
イエスはユダヤ人のために普遍愛を唱えたが、パウロがキリスト教はユダヤ人だけでなく、万人のためであることを明確に示した。パウロこそが世界宗教の伝道者なのだ。

3.ゲルマン戦士
「戦闘は面白いものである」と考えた。

文字を持たない戦闘部族・ゲルマン人がローマ帝国に侵入した理由は単純に「略奪」だった。

彼らは「平和で英気を失っている時には自ら進んで戦争を求めた」タキトゥス「ゲルマーニアより

このため、ローマ教会は中世において暴力に対する見解を変えざる得なかった。

ゲルマン人の小国家政府は、周辺諸国と戦争せざる得ない。そして教会が政府の支持を得たければ、政府が繰り広げる戦争を正しいものと認めなければならないからだ。

そして時代を経るとゲルマン人戦士は「騎士」に変わる。教会は騎士に暴力の正当な理由を与えた。
「異教徒への排斥」である。教会は非キリスト教徒と戦う者に特免状を与えた。

3つの融合が不安定なのは、教会が保護したギリシャ・ローマの学問が異教徒のものだという点だ。

この時代のキリスト教神学は、ギリシャ・ローマ学問のいいとこ取りで作り上げられていた。教会の人間だけが、この知性を秘匿していた。

これが「薔薇の名前」の真相だ。

古代の開放的な学問が、キリスト教会の中で秘匿され、民衆は知性を失っていく。
その外の世界では異教徒狩りという暴力装置が横行している。専横的なキリスト教と暴力的なゲルマン人の醜い融合の実態。

第2の論点

なぜ、ヨーロッパが最初の産業化に成功したか?

・ルネサンスのように過去の遺産を活用することに長けていた
・蛮族の侵略者が築いた小国家群の戦争によりテクノロジーの開発競争があった
・常に多様性の衝突が起こっていたから。

この小都市間抗争は、古代ギリシアでも同じ状況だったので、社会革新の基本要諦だと見える。


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太田泉
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