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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

ゴールデンコンビを見て思ったこと

はじめに

Amazonプライムで2024年10月31日から配信中のオリジナル番組『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』を見ました。お笑いファンの間では情報解禁時から話題になり、配信開始後は日本のアマゾンプライム1位を獲得し続けています。普段お笑いを熱心に追いかけているわけではないライトな層の視聴者も多く、SNS上などでは概ね称賛されている印象です。
唯一批判しているアカウントを見つけましたが、アカウント名を「お笑いマスター」としていたので、世論に影響は与えないレベルかと思います(本当に面白い人の可能性もごく僅かにある)。

番組の趣旨としては、芸人が理想の相方を指名して「ゴールデンコンビ」を結成し、番組が用意したお題で即興コントを披露するというものです。
観客はその後「最も面白くないコンビ」に投票し、最も得票率が高かった1組が脱落していきます。最後に残った1組には賞金1000万円と初代ゴールデンコンビの称号が与えられます。MCは千鳥です。

ここから本題ですが、私は配信直後に全5話を一気に視聴していくつか感想を持ちましたので、ここに記録しておきます。
まだ見ていない方は全話見た後に読んで下さい。読まなくても良いです。
また、ゴールデンコンビの企画・演出を担当された元テレ朝ディレクター芦田さんのnoteは必読とさせて頂きます。

ーーー※以下ネタバレを含みます。ーーー






出演している芸人さんが凄すぎる

出演している芸人さんの即興コントがめっちゃ面白くて凄かったです。この後も書きますがこの番組は総じてお題が広すぎたり弱かったりして、笑いどころは芸人に一任するような形で進行していきます。芸人を信頼しているということだと思います。そんな中、出演されているどの芸人さんも、これまで培われてきたオモシロの粋を一挙に、情熱的に、それでいて針の穴を通すような精度で放出し、爆笑をとりまくっていました。本当に面白かったです。世間のこの番組に対する評価が称賛ばかりなのは、出演芸人たちの超人的な(曲芸と言ってもいい)笑いのテクニックと人間力に因るものだと思います。

芸人がウケやすくなる工夫が少ない

そういう競技と言われればそれまでですが、即興が本当に即興なだけで、番組側に新しい演出や芸人が笑いを取りやすくなる工夫があまり感じられませんでした。セットを豪華にして衣装や小道具を充実させるというのは工夫と言えば工夫ですが、あくまで二次的なもので、企画の本質の部分ではないと思います。「吉岡里帆にむちゃぶりをさせる」等は、お笑いという観点からは、有効な演出とは言えないと私は思います。

この番組のディレクターに大井洋一さんという大好きな作家さん(BAZOOKA!!!の構成の人)が入っていますが、その方はチャンスの時間も担当されています。チャンスの時間の「ブレイキングヤンチャオーディション」という企画もゴールデンコンビ同様に即興が趣旨の企画ですが、出演者は皆「やんちゃ」であるというパッケージの中で、「笑いなんて余裕」というスタンスで企画に挑みます。その結果、スベっても面白いし、ちゃんとウケても普通に面白いという構造になっています。元ネタのパロディの部分で遊べたり、お題を振るのも大吾さんだったりと、何重にも面白くなるように予防線が張られています。良い企画とはこういうことだと思いますし、お笑い番組を作る以上、ある程度なにをやっても面白くなる構造を考えるのが企画演出のメインの仕事だと思います。

ゴールデンコンビは笑いに特化したエンタメ作品として作られているはずなので、全ての演出が間接的でも笑いのために機能している状態を目指すべきで、即興なら即興が面白くなる演出を本気で考えるべきだと思います。だからと言って全く考えられていないとは思っていなくて、労力と時間をかけて企画を揉んでいるのでしょうが、この番組でクリティカルなお題や演出のセンスに痺れる体験はできません。

意図が分からないお題と弱すぎるフリが多い

この部分が一番違和感を感じたところなのですが、全体的にお題がキツかったです。制作側がこのお題でどう面白くなるかちゃんと検討しているとは思えないものが多かったと思います。

全話を見た後に振り返ると、エピソード1、2のお題は比較的いいお題でした。「まだ見たことのないパターンをお願いします」とか「お題は自分で考えてください」とか、最初見た時は身構えましたが、自由度は高いままで芸人の腕が試される過酷な企画であることを強調するような意図があったんじゃないかと思っています。「楽屋にいる有名人の冠番組を説明してあげてください」とかも、すごく難しいことを要求しているなとは思いますが、有名人ゲストという外的要素を活かしやすいお題だとは思います。ゲストの人選ですが、那須川天心だけ、キャスティングした方は少しでもボケしろを考えたのかと疑ってしまいます。このお題で扉開けて那須川天心がいてどうしろと言うんだという気持ちになりますが、もちろん那須川天心は悪くないですし、面白かったです。アパホテルの社長などは制作側のドヤ顔が透けて見えて面白い人選だとは思えませんでした。ザ・たっちさんだけは皮肉や批判とかではなく、本当に意味が分からず、判断を保留しています。せいやさんが個人チャンネルで、実は2週目でザ・たっちと絡んでたがカットされたと言っていて、めちゃくちゃ面白そうだなと思いました。見たかったです。

エピソード3の学校のお題について、道枝くんが転校生役として各コンビにむちゃぶりを振っていく設定のステージですが、道枝くんにお題を振らせる意味が分からなかったです。このステージは初めて各演者が一つのセットに集合して行われるお題だったので、コンビ間を横断した即興の絡みが見られるとワクワクしたんですが、そういった相乗効果を悉く打ち消す構造になっていて、歯痒かったです。なにかくだりが生まれそうになってもそこを広げる役目を果たすはずのポジションが道枝くんなので、結局一問一答的なフリが連続する構造になっていて、結果的に「即興ならではのめちゃくちゃ面白いこと」が起こりづらくなっていたと思います。大吾さんがお題フリをやっていれば間違いなく今より面白くなったはずですが、視聴者層を広げるという課題があり道枝くんがその役を担うことになったのでしょう。視聴者層を広げるために道枝くんを使うとしても、「道枝くんにお題フリをさせる」ってかなり安易な発想じゃないでしょうか。もちろん道枝くんは悪くなく与えられた仕事を完璧にこなしていて、顔が可愛かったです。「文化祭で大ウケしたネタを見せて」なんかは最低最悪のフリだと断言して良いと思いますが、それを圧倒的才能でねじ伏せてめちゃくちゃ面白くしていたせいやさんに感動しました。

シーズン4の船越英一郎のステージですが、二問目の「絶妙な顔をお願いします」というお題がヤバかったです。まず本来の制作側の意図は、振り向いた時点の顔で笑いが起きるというものだったと思います。ただ、顔だけで落とせるようなフリを番組側が用意できていないから(あのSEをかけて振り返れば笑いが起きると思っている?)、当然ですが誰も顔だけで落としていたコンビはいなかったです。結果的に一個目のお題の「そこに現れた人物とは?」でも出来るようなボケが主になり、顔のお題は意味をなしていませんでした。そもそもゴールデンコンビなんだから二人でやることに意味があるお題にするべきで、道枝くんのステージの生徒手帳のフリもそうですが、個人が大喜利するだけのお題を採用している意味が分からないです。

同じくエピソード4の結婚式のステージですが、道枝くんと同じロジックで吉岡里帆さんを使っていて嫌な予感がしたんですが、最初の「斬新な乾杯の発声をお願いします」というお題を見て無意識に呻き声をあげてしまいました。結婚式のステージが自分は一番嫌いで、全体を通して飲み会のつまらないノリを強要されているのと大差なく、これで制作側に芸人愛があると言われても信じられないです。「あれ?くるまさん野田さんちょっとテンション低くない?二人のスーパーテンション見せて!」と吉岡里帆が言い出した時は、言わされていると分かっていても吉岡里帆を嫌いになりそうになりました。その後、くるまさんがロウを食った時に左下に表示された「※良い子は真似しないでね」というテロップが、目を覆いたくなるほどつまらなかったです。「私がショートコントって言ったらショートコントしてください!」などは言うまでもなく最悪ですし、芸人をなめていると思われても仕方ないと思います。これまではつまんないフリが飛んできても芸人側の驚愕すべき機転と自在の引き出しで小気味よく打ち返していたように思いますが、結婚式のステージでは、つまんないフリの供給リミッターが解除された感があり、さすがの芸人側もラインを下げざるを得なくなっていたように思います。余興というフリで、ここにきてノーマルなモノボケをさせていたのも意味が分からないですし、「私をメガホンで応援して」みたいなお題も意味が分からないです。なんで面白くなると思ったのか発案者に本当に聞いてみたいです(結果的に芸人がすごすぎて面白くなったんですが)。芸人さんの即興部分はもちろん面白かったですし、新郎役の押田岳さんがくるま野田ペアに巻き込まれた時の動きがめっちゃ面白かったです。

最終話のエピソード5ですが、エピソード4の各ステージに比べて良かったと思います。個人的には最終ステージは俳優を絡めるのをやめて芸人だけの即興コントを見たかったですが、好みの問題と言われればそうだと思います。また、木村佳乃さんと中村倫也さんというキャスティングですが、那須川天心とかにも言えることですが、木村佳乃さんはイッテQ出たりしてますし、那須川天心は芸人とよく絡みがあったりして、総じてゲストの人選に驚きやワクワクは無かったです。これは自分でもいちゃもんだと思います。最終ステージに関して、なにか新しい発明をしてるわけではなくて、その場で俳優さんに生の演技をしてもらっているという「ありがたさ」と、そこに乱入するという「不遜さ」が目新しいかも知れませんが、それが笑いを生み出す新しい演出として機能しているわけではなく、あくまでシチュエーションの大喜利をしていただだけという印象です。何度も言って申し訳ないですが、コント自体は面白かったと思ってます。制作側のセンスに心を動かされないという話です。

芦田さんのnoteについて

ゴールデンコンビという企画の発案者であり、企画演出を務めた芦田さんという元テレ朝のディレクターさんが、ゴールデンコンビの制作秘話をnoteの記事にしてくださっています。

新卒でテレ朝に入社されている時点でエリートなんですが、その後誰でも知っているような人気番組を産み出し続け、テレビ業界のトップランナーとして10年以上前線で活躍され、2023年からAmazonのテレビ制作スタジオに転職されたエリート中のエリートです。本当に尊敬していますし、自分などとは視座のレベルが違うということは承知の上で、noteを読んで感じたことを以下挙げさせて頂きます。

パッと番組コンセプトを聞くと、「あ~なんかドリームマッチ的な?」「Amazonが何か金かけて新しいお笑い特番を立ち上げたのか」なんていう心象を持つのではないだろうか?
しかし実は、この「ゴールデンコンビ」は、橋本さんと共に文字通り”構想2年”というバラエティー番組としては考えられない時間を割いて割いて準備をし続け、橋本さん21年、芦田16年というテレビマン人生で得た知識、経験、人脈、全てを投下して完成させた”民放の総力結集”番組ともいえるのである。

出典:芦田太郎/民放の総力を結集した『THEゴールデンコンビ』

私は、ドリームマッチ的なものでもいいし、Amazonが何か金かけて立ち上げた新しい特番でもいいし、テレビマンで得た知識経験人脈全てを投下して完成させた民放の総力結集でもなんでもよくて、ただ面白いものが見たくて、そのために何を考えているかを知りたいです。

先述したように、この企画の出発点は「ドキュメンタルに続け」だ。
これはつまり何を意味するかというと、「ドキュメンタルと同じことをやってもNEXTドキュメンタルにはなれない」。もちろん既存のお笑いバトル番組もしかり。当たり前だ。

●千鳥がMC
●人気芸人が「この人と組めばどんな状況でも面白くできる」と思う相方を指名してコンビを結成する
●即興コントで戦う
●即興コントのお題は、ステージごとに地下数メートルからセットごとせり上がってくる
→テレビの制作予算では実現が難しいスケール感
●審査員は観客200人→下ネタ、ハードコアなお笑いネタが通用しづらい環境に

出典:芦田太郎/民放の総力を結集した『THEゴールデンコンビ』

セットが地下からせり上がってくることがお笑い番組としての面白さにどれくらい寄与するんだとは思います。テレビの制作予算では実現が難しいとありますが、実現が難しいだけで別にテレビマンも「地下からせりあがるセットがあればめちゃくちゃ面白いもの作れるのに、、!」と思ってる人あんまりいないんじゃないでしょうか、想像ですが。番組の面白さに影響しない部分に膨大な予算を割くことはテレビだろうがアマゾン作品だろうが忌避されるべきですが、今回のせり上がりに関しては番組のブランディングに一役買っているとは思います。

最終的に千鳥さんとは5回に渡って打ち合わせして、お題の一言一句を最後の最後まで詰めた。

出典:芦田太郎/民放の総力を結集した『THEゴールデンコンビ』

千鳥が「私がショートコントと言ったらショートコントをしてください」というお題に賛同したとは思えなくて、どのレベルまで詰めたのかが気になります。お題の一覧を渡して「こういうやつやろうと思ってます」みたいな感じだったんじゃないかと想像しますが、どうなんでしょうか。ゴールデンコンビの記者会見冒頭で、大吾さんが企画説明を受けた際に難しい顔をしながら「できますかねそれ?」と首をかしげていたエピソードをノブさんがしてますが、マジだと思います。ちなみにこの記者会見の前半のトーク部分がかなり面白かったです。

しかし、全出演者が「こんなセット観たことない」と驚愕した3階建ての巨大なセット+30台近くのカメラが出ている中で、一度も美術・技術のシステムトラブルなどによる待ちが発生しなかった。こういった即興番組は「普通に収録が進む」ことが一番難しいが、本番時のシステムトラブル、事故、ミスゼロだったのだ。こういった制作や美術技術の裏方作業というのは、サッカーのディフェンスと同じで「0点が当たり前」的な減点方式で悪目立ちするので、たとえミスゼロで終えられても視聴者にはその偉業が伝わらないので、あえてここで自慢しておきたい。収録はミスゼロ!最高スタッフ!!

出典:芦田太郎/民放の総力を結集した『THEゴールデンコンビ』

収録時間相当長かったでしょうに、本当にすごいと思います。優秀なスタッフさんが本気で撮影に臨んだんだろうなと尊敬の念を抱きます。これは自慢ではないと思いますし、あえてどころか、大いに広めた方が良いと思います。

何度も言うが、テレビと違い、毎週の放送で認知度を上げていくという考えが全く通用しない一発勝負。SNS戦略、屋外広告、鉄道広告、テレビCM…どうすればこの番組を知ってもらえるか?それをマーケティング、PRチームと議論を重ねて重ねて重ねて、ようやく配信日に辿り着こうとしている。

出典:芦田太郎/民放の総力を結集した『THEゴールデンコンビ』

芦田さんは本当にめちゃくちゃ頭が良くてマーケティングの天才なんだなと思います。皮肉とかではなく本当にです。セットや衣装のデザインひとつとっても理論に裏付けされたこだわりがあって、「多くの人に見られなきゃ意味が無くて、そのためにどうすればいいか」という番組制作のそもそもの目的を捉えて具体化する嗅覚と引き出しに卓越した才幹のある方だと思います。実際ゴールデンコンビは大成功しているし、求められている成果を裕に収められています。当たり前ですが、見えている世界が私と違いすぎて、それが故のギャップに私が勝手に違和感を感じているだけなのかもしれません。私は富士そばに並んだことがあるくらいのカスです。

おわりに

最後媚びたようになりましたが、やはり制作側を手放しで称賛する気にはなれません。MCを千鳥にしてるのも「ズルい」と思っています。新人ADがもしゴールデンコンビみたいな企画を持ってきたとして、予算とか規模間とかいう問題ではなく、面白くなるかどうかが芸人次第すぎるからという理由でそのままでは却下されるはずです。もちろん番組全体を通して面白かったところは沢山ありますが、企画や演出そのものを面白いとは思いません。私がそもそも露骨に即興やむちゃぶりと謳っているジャンルのお笑いに食指を動かされないということも多分に関係していると思います。即興だろうが用意してようが面白いものが見たいという感覚を持っています。
以上です。どうでもいいことが気になって素直に面白いものを面白がれない可哀そうな腑抜けが便所にしたためた落書きだと思って読み捨ててください。

ゴールデンコンビ2が出たら絶対見ます!


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