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「働いたら負け」の税金・社会保険料の設計を変えるべきだと思う
高所得者への課税強化が更に進み「働いたら負け」状態
高所得者への課税強化のニュース
高所得者に対する課税強化や社会保険料の上限引き上げが次々と発表されており、それに加えて、税金・社会保険料を多く支払っているにも関わらず、サービス自体を受けられない、受ける際の自己負担額を高所得者は増やされるという状況です。
間近数ヶ月だけでも以下がニュースとなっていました。
つまり、頑張って働いて稼ぎ税金を多く納めると、税金を納める額が少ない人よりも受けられるサービスの質が落ちる・頑張って稼げば稼ぐほど「罰」を受けるという意味不明な状況になってきています。まさに「働いたら負け」の状態です。
飛行機に例えると
飛行機に例えるなら、ファーストクラス100万円とエコノミー10万円の席があるとして、何故か100万円支払った人(高額納税者)がエコノミーの狭い席に座らされてエコノミー用の機内食を食べさせられ、エコノミーで10万円しか支払っていない人(非課税世帯など)がファーストクラスの広い席に座りファーストクラスの美味しい機内食を食べられるという異常な状況です。
少なくとも100万円を支払った人と、10万円を支払った人が受けられるサービスは同じにすべきではないかと思いますし、普通に考えるれば、むしろ多く支払った人の方が受けられるサービスの質は良いべきではないでしょうか。
税金・公共サービスを一般的なサービスを一緒にするなと言う人がいそうですが、個人的には今の制度設計は国・公共サービス・社会保険を支えている高額納税者がただただ不満を抱える制度設計になってしまっていると思います。
現状約4%の方が所得税全体の半分を納めている状況で、むしろ敬われてもいいのではと思ってしまうほど一部の高額納税者が負担している訳ですが、何故か逆に「罰」を受けている様な設計になってしまっているのです。
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現状の制度設計では高所得者と低所得者の分断も生まれてしまいますし、最悪の場合、高所得者は日本から出ていくということも考えられ、そうなった場合は税収が減ることで更に負のスパイラルに陥ってしまうことが考えられます。
日本の税制設計にについて考える
では、今の税制の設計をどの様にすべきでしょうか。例えば、以下の2パターンを考えてみたいと思います。
パターンA
高額納税者に対し、税金で1000万円取って、10万円サービスを提供
低額納税者、税金は10万円で、100万円のサービス提供
パターンB
高額納税者に対し、税金で1100万円取って、100万円サービスを提供
低額納税者、税金は10万円で、100万円のサービス提供
現状の制度設計はパターンAの様な形になっています。高額納税者はパターンBの方が取られる税金が高いですが、パターンBの方が不満が少なくなるのではないかと思います。
パターンBの方が取られる税金が多いのだから、合理的に考えるとパターンBの方が不満が多いはずだという反論も出そうですが、おそらくそんなことは無いのではないかというのと、特に以下の高額療養費(税金ではないが、もはや税金と同じ状況のため例としてあげる)の様な、「発生するリスクは低いが、発生した場合になぜか高所得者の方が人生詰んでしまうケース※」においてはパターンBの方が絶対にいいという人が多いと思います。
※年収1160万円の場合、自己負担額上限が約25.4万円/月となり、年収1160万円の子持ちの家庭では、継続的にこの額を負担するのは不可能と考えられる(家計が破綻する可能性が高い)。一方で、非課税世帯の場合は自己負担額上限はわずか3.5万円/月となっている。
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更にパターンCを加えて考えてみましょう。
パターンA
高額納税者に対し、税金で1000万円取って、10万円サービスを提供
低額納税者、税金は10万円で、100万円のサービス提供
パターンB
高額納税者に対し、税金で1100万円取って、100万円サービスを提供
低額納税者、税金は10万円で、100万円のサービス提供
パターンC
高額納税者に対し、税金で1200万円取って、150万円サービスを提供
低額納税者、税金は10万円で、100万円のサービス提供
3つのパターンのうち、高額納税者はパターンCが一番税金を取られる訳ですが、受けられるサービスの内容によっては多く払ってもこのパターンがいいという人もいる気がします。
一方で、おそらくパターンCは低額納税者から不満が出て、高額納税者と低額納税者の分断が生まれてしまう気がします。
多く納税しているのだからいいサービスを受けられるのは一般サービスにおいては当たり前です。しかし、先ほども紹介した以下画像からも分かる通り、高額納税者の割合は小さく、いいサービスを受けられない多くの人々から不満が出ることことになるためです。
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個人的には3つのパターンのうち、パターンBが最も不満を発生させず、分断も発生させないベターな案なのではないかと考えます。
日本の税制設計に「VIP戦略」を導入してはどうか
では、これ以外の案はないのでしょうか。
個人的には、西野亮廣氏が以下動画で語っていた「VIP戦略」というものを導入すれば、より不満が少なく、より分断が起こらないベターな制度設計ができるのではないかと考えています。
https://www.youtube.com/watch?v=QbwrGl0lZuE
「VIP戦略」とは、「平等なサービスではなく格差をうまく利用して、サービス全体の満足度を高める手法」です。
例えば、動画の中でも出てきますが、先ほど例に出した飛行機もそうです。
飛行機はご存知の通り、ファーストクラス・ビジネスクラス・エコノミーなどクラスが分かれていています。
ファーストクラス・ビジネスクラスの人たちは高い金額を支払っていますが、それに見合うサービスや快適さを得て満足していますし、エコノミークラスの人たちは安価に飛行機を利用でき満足しており、サービス全体の満足度が高まっています。
もしクラス分けを無くし、平等なサービス・金額にした場合、ファーストクラス・ビジネスクラスの人たちは値段は安くなったものの受けられるサービスの質や快適さは無くなり不満を持つでしょうし、エコノミーの人たちは値段が上がることで不満を持ち、サービス全体の満足度は低下してしまいます。
そして、VIP向けのサービスを作るには、プレミアムとラグジュアリーの違いを理解しておく必要があると動画で語っています。
以下は動画の中で西野氏が書いた図を書き起こしたものです。
「プレミアム」とは、競合がいる中での最上位。より座り心地がいいだとか、より美味しいなど、競合と勝負して中での最上位です。
「ラグジュアリー」とは、競合がいない商品。役に立たないが意味があるものです。
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では、納税の観点で「ラグジュアリー(役に立たないが意味があるもの)」を実現・提供するにはどの様な案があるのか。例えば以下の様なものがあるのではないかと思います。
高額納税者番付の復活
高額納税者であることを証明するカード・バッチ等の発行
勲章
まず、高額納税者番付の復活です。
かつては高額納税者の氏名などが公表されていた時代がありましたが、プライバシーや安全面から廃止されました。現在のSNS時代をうまく活用し、公的に集計・表彰する仕組みを作れれば、「自分は社会に大きく貢献している」という誇りを感じられる人が増える可能性があると思います。
これにより、高額納税者は“社会のヒーロー”として称賛を受けられ、そのメリットが高いモチベーションにつながるかもしれません。
しかも今の時代はYouTubeやSNSなどで高額納税者番付に載ったことにより間接的に収益につながる可能性もあり、むしろ多く納税しようとする人さえ現れるかもしれません。
次に、高額納税者であることを証明するカード・バッチ等の発行です。
いわば“VIP会員証”のようなものを公式に与えるイメージです。具体的な優遇措置を付与するのか、あるいは単なる象徴的ステータスに留めるかは議論の余地がありますが、ある程度“社会に多額の資金を提供している”という価値に対する「名誉」を形にすると、不満の芽を小さくできると思います。
こちらも、カード・バッチ等のステータスを得たいというモチベーションから、むしろ進んで多く納税しようとする人が出てくる可能性もあると思います。
最後に、勲章です。
国家からの勲章は限られた範囲でしか授与されませんが、納税による国への貢献度もまた称賛に値する行為です。社会保険・福祉制度を維持する上で欠かせない高額納税者に対し、何らかの目に見える形で感謝を伝える仕組みが整備されれば、「もっと頑張って納税しよう」と思う人が出てきても不思議ではありません。
これらはいずれも、実際の金銭的メリットがあまり大きくない“ラグジュアリー”寄りの施策でありながら、「報われている」「認められている」という気持ちを高所得者に与える効果が期待できます。高額納税者側に「取られるばかり」ではなく「プライドを満たされる」という要素が生まれれば、税制全体への不満感は大きく和らぎ、社会全体としても「うらやましい」という否定的感情ではなく、「社会を支えてくれている有り難い存在」という好意的な認識が広がりやすくなるかもしれません。
このように、「VIP戦略」を取り入れた新たな税制設計は、「多く払う人がそれなりの待遇や名誉を得られる」という単純な公正さの確保だけでなく、低所得者との心理的な分断を生み出しにくい工夫にもつながると思います。
公平を大前提としつつ、むしろ“うまい格差”を設計し、その格差をプラスに転じるアイデアを取り込むことで、“罰としての税金”から“社会貢献の自己実現”へと発想をシフトできるのではないでしょうか。