ニデックのM&Aの変質

永守会長が、再び経済界を賑わせている

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF154AE0V10C25A1000000/

 最近では「1兆円規模のM&Aをやる」と気炎を吐いており、これまで以上にM&Aに力を入れていくことを公言している永守会長。今回のエントリーでは、ニデックのM&A戦力について考えてみたい。

成長の黄金比
 ニデックはM&Aを駆使して成長してきたのは、周知の事実だ。永守会長は「自律成長50%、M&Aによる成長が50%」というバランスを大切にしてきた。経験的なものだろうが、二つの手法をバランスよく駆使していくということだろう。決算説明会の中では「自前でやる方が安いのか、外から買ってきた方が安いのか。それを比較して判断する」という趣旨の発言をしている。永守会長にとっては、M&Aは一種の設備投資でもある。ゼロから自分たちでやる方が安くできるであれば自分たちでやるし、買収を検討していても割高であれば買わない(ただし、絶対に押さえなければならないクリティカルな企業は高くても買う)。「自分の算定した価格以上では買わない」これが永守M&Aの大原則だ。競争入札は好きではない、とも言っている。競争入札は、値段が釣り上がるからだ。先日もシーメンス系のモーターメーカーの買収をニデックが検討しているという記事が出たが、これは競争入札で米系のPEファンドの手に落ちた。ニデックが最終的に参加したのかは不明だ。

M&Aの変化
ニデックのこれまでの買収は、赤字企業を再建するパターンが多かった。資金的に余裕のなかった永守会長は、技術はあるが倒産寸前の会社、つまり「経営が悪い」会社を立て直すことで成功を納めてきた。しかし、シーメンス系の買収にせよ、今回の牧野フライスにせよ、最近の買収はこのパターンではなく、利益を出している健全な企業の買収である。純粋な規模の拡大を追っていると言える。もちろんシナジーもある。なぜこのような変化が起きているのだろうか。

いくつか理由は考えられる。ニデックの売上は2兆5000億円に迫る規模になっている。利益はEV関連の不調もあってあまり安定してはいないものの、それでも恒常的に10%の水準が見えてきた。つまり今後は2000円〜3000億円の純利益を安定的に稼ぎ出す会社になりつつある。資金的に大きな買収もできるようになってきたということは挙げられるだろう。

しかしながら、私は理由は別のところにあると思っている。ニデックが今後注力する業界は保守的で、オーガニックな自律成長では急速なシェア拡大が望みにくいのである。裏付ける根拠はないが、これが一番の理由ではないかと思う。
 ニデックがこれまで手がけてきたのはPC、スマホ向け部品、あるいは家電向けの部品だった。「弱電」と呼ばれる分野である。一方、今後ニデックの成長を牽引していくのは「重電」という産業用途の部品や設備、である。具体的には、産業用モーター、その他インフラ設備である。また、重電ではないが、工作機械やプレス機といったニデックが注力する生産設備も弱電家電と比べれば保守的な分野だろう。こうした産業用分野は、新規の部品の採用に非常に慎重だ。実績を重んじるし、よほどのメリットがない限りは新規のメーカーをなかなか採用しない。実績や信頼が大事な分野なのである。故に競争が起きにくく、ベンダーロック(サプライヤーの切り替えができない)が起こりやすい分野でもある。

こうした分野では、いくらニデックが新製品を作っても検討に時間がかかり、なかなか採用されない。時間がかかるのだ。であれば、M&Aで既存の企業を買収し、商流ごと買ってしまうのが効率が良い。新製品を売り込むにしても、実績のあるメーカーから提案するのと、全く商流もない状態で提案するのでは顧客の受け入れ方も異なる。

はっきりと昇竜の拡大を明示した買収は、アメリカの産業用モーターのメンテナンス会社であるホーマー社の例だ。

ニデックが切り売りのビジネスだけでなくメンテナンスの強化にも力を入れていことがわかる事例でもあるが、いずれにせよ、ニデックは産業用分野においてはM&Aで商流を拡大し、その商流を太く強くすることで成長しようとしていることが伺える。

 もちろんこれまで通り技術の獲得という理由もある。牧野フライスについては、工作機械の自動化連携に関する技術の獲得も大きな理由のようだ。これまで無かった研削盤、放電加工機などのラインナップの補完もある。しかし、根っこにあるのは、新製品を一から作って追い上げるより、買収した方が確実で迅速な成長を得られるということだ。

ニデックが強みを活かせるのは、新しい市場で、顧客がスピードを求めている市場だ。早く、早く新製品を出したい。供給量を拡大したい。そういう顧客は新しい要求をとにかく満足する提案を出してくれるサプライヤーが必要なのだ。それこそがニデックの活路であった。

しかし、産業用の分野は全く逆だ。とにかく意思決定が遅い。スピードを求めていない。スピードよりも信頼性、安全性なのだ。これは必ずしも悪いことではないし、業界の特性によるものだ(産業用設備は壊れたらとんでもない損害が出るのだ。壊れて良いものはないとはいえ、パソコンやスマホが壊れるのとは訳が違う)。保守的な業界というのは変換を嫌うメンタリティが染み付いている。とにかく変化を嫌う。こういう世界でニデックがシェアを高めていくにはオーガニックではなかなか難しい。やはり成長の原動力はM&Aということになるだろう。

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