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【定点観測】ニデック 夜明けは訪れるのか?
しばらくニデックの記事を書いていなかったので、2Q決算の振り返りもかねて、簡単に現状を整理したい。
まずは株価の状況。ひどい。10/23の2Q決算は市場の期待に十分応えたものだと思うが、決算後大きく続伸したものの、10/31に大きな上髭を付けて(いつも通り)本日まで下落し続けた。本日でちょうど決算後の上昇を吐き出して帳消しにした格好だ。さすがにもう少し上で下げ止まると思っていたので、本当にがっかりしている。2800円が抵抗線になってきたが、ここで反発しないと、また下値を模索することになる。
23年11月の悪夢の決算からちょうど1年だが、株価はほぼ同じ位置にいる。市場はニデックのこの一年を全く評価していないということだ。イーアクスルの赤字が止まったことで、事業自体はかなり好転した。後継者問題も解決した。永守会長はもはや決算説明会に登壇すらしない。多くの懸念事項のかなりが解決したと感じているが、それでも評価されない。私にかなりの絶望を感じている。出来高も細っており、市場の関心が薄れている。思いつくカタリストは出尽くした。期待はすべて出尽くした、ということが唯一の希望である。
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次に、最近のトピックを眺めてみたい。ここ数カ月は、様々なIRやニュースが出た。まずは、つい最近の、ルネサスと共同で進めていた8in1イーアクスル用電装部品のPoC(概念実証)について、ルネサスから発表があった。
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ルネサス、ニデックと共同でEV向けのE-Axleとして世界トップクラスの機能統合を実現した「8-in-1」のPoCを開発 | Renesas ルネサス
せっかくの朗報ではあるものの、EVシフトが減速する中、その魅力が陰ってしまっているのは事実だ。しかし、まずはこのPoCが実現したことで、ニデックの競争力は一段と増したといえよう。ただ、これは実機投入のステージではニデックもルネサスから部品を購入するわけでもないし、ルネサスもニデックだけに供給するわけではない。今回のPoCがニデックにとってどんなメリットが今後あるのかはよくわからないのが正直なところ。もちろん、ルネサスがこの8-in-1イーアクスルを自動車メーカーに提案してくれればニデックの採用可能性は高まるだろうが、自動車メーカーが駆動部を内製したいと希望すれば、その仕事はニデックには来ない。電気部分と駆動部がどう密接に結びついているのか(それとも分離可能なものなのか)そのあたりはどなたかにご教示頂きたいものである。
次に、EV関連ではインドの商用車大手アショクレイランドとの提携。これも今後期待が持てる内容だった。
当社米国子会社とインドの自動車メーカー アショク・レイランド(Ashok Leyland)の 供給パートナーシップ契約の締結について | ニデック株式会社
・米国子会社のニデックモータ(NMC)が、2024 年9 月 11 日にインドの商用車メーカーであるアショク・レイランドとの間で、電気モーターコントローラシステム”E-Drive”を提供する供給パートナーシップ契約を締結。
・NMCは2010 年以降、世界中で 10 万台以上の CEVに電気モーターコントローラシステムを供給。
・NMC はインドにおいて戦略的投資を行いNMCの新工場は、2025 年末から CEV、データセンター、再生可能エネルギーや一般産業など様々な分野向けの製品の供給を行う。
アショクは年産20万台のメーカーなので、ボリュームは望めないものの(EVに限れば、数千台というところか)、ニデックがインドで着々と地歩を固めていることがうかがえる。特に、このE-driveというのはモーターのような駆動部品ではなく、制御部品で、こうした制御部品に米ニデックモーターは強みがある。ニデックは制御技術にも注力しており、ぜひ次の飛躍につなげてほしいと思う。
次に、最近は工作機械関係の記事がちょくちょく出ていた。明らかにメディア露出を意識している感じがしている。
最近発表されたものを、ざっと並べてみた。そんなに投資して大丈夫なのかとまた心配になるが、生産設備の高度化ニーズは大きいのだろう。この辺はイーアクスルやEVの領域とは異なり、ニデックがこの調子でビジネスを展開すれば、競合に負けることはないだろう。欧州では売上高500億円規模のメーカーを買収することを検討しているようで、その進捗も楽しみだ。2030年度までに売上5000億円を目指す。今1200億円規模なので、買収を活用するとしても6年間で2~3倍の規模にするということだ。この欧州での買収については、ツイッターでは「やはり日本のメーカーは買収に応じないのだろう」と悪態をつくものもいるが、そうやって日本メーカーは競争力を失っていくのである。ニデックに泣きついてくるのは倒産間際。救えなくなる前に、対局を見てニデックに合流していただきたいものだ。
デジタルツインの導入も興味深い。デジタルツインは、工作機械事業だけでなく、ニデックグループとして力をいれている技術だ(と私は見ている)。工作機械やモーターといった、ハード面だけでなく、デジタルツインやDXといったソフトウェア分野で今後の飛躍が期待できる。
当社グループ会社の工作機械におけるデジタルツインプラットフォームの開発について(ニデックマシンツール) | ニデック株式会社
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「500億円以上の買収狙う」 ニデック系社長、欧州企業など候補 工作機械5000億円へ - 日本経済新聞
ニデックが工作機械の展示施設 滋賀・栗東、米中インドにも:東京新聞 TOKYO Web
当社グループ会社の中国 平湖工場本格稼働開始について(ニデックマシンツール) | ニデック株式会社
カナダ プレス機周辺装置メーカーLinear Transfer Automation Inc.他2社の 株式取得に関する譲渡契約締結のお知らせ | ニデック株式会社
最後に、悪い話。ニデックはパートナーシップを結ぶことで事業を拡大しているが、最近はそれが裏目に出ている。まずはステランティス。
・ステランティス、通年の利益率予想引き下げ 競争激化やコスト増で | ロイター
・また電動アクスルを下方修正、ニデックが苦しむEVシフト傾注の後始末 | 日経クロステック(xTECH)
ステランティスに限らないが、自動車業界の景気が悪い。全体的にも悪いし、EVに限っても当初の見込み通りEVシフトは進展していない。ステランティスとの合弁ではイーアクスルの販売見通しを2度下方修正することになった。ニデックがすごいのは、この販売台数の水準でも利益を出せる体制を整えたという点だ。減速しているとはいえ、EVシフトは今後も進んでいくし、ここからさらに生産台数が減っていくということは考えにくい(考えたくもない)。合弁会社は100万台の生産キャパを持っており、当面は追加投資はない。これは、大きな安心材料だ。ステランティスは、ハイブリッドも今後投入していく(合弁会社のHPにはPHEV向け製品の記載もある)。このあたりは期待していきたい。
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最後に、AIサーバ向けで提携しているスーパーマイクロの上場廃止懸念問題について。次から次へと、笑えるぐらい災難が降ってくる。イーアクスルで手を広げすぎたことの反省から、基本的にスーパーマイクロに顧客を絞り、スーパーマイクロとの開発案件に専念してきたところで、そのパートナーの不祥事である。
スーパー・マイクロ、上場廃止とS&P500除外の恐れ-監査問題で
監査法人のEYもスーパーマイクロを見捨て、スーパーマイクロの株価は暴落。スーパーマイクロが仮に上場廃止になったところで、彼らが倒産するわけではないので、ニデックに対する影響は最終的には大きくないと思っている。ただ、どうなるかわからないし(スーパーマイクロの仕事が競合のDELLに流れているという観測、またNVIDIAもスーパーマイクロ向けに卸す予定だったチップを、リスクヘッジのために他社に回すことを発表している)、この問題が片付くまで、ニデックを触りたくないという人も多いだろう。
ニデックのAIサーバ向け冷却装置の売り上げは、今期でも400億円程度で、事業全体から見れば、仮にそれが吹っ飛んだとしても影響は軽微だ。ただ、利益率も高く、来期以降は大きく伸びていくことが期待されていた分野だっただけに、来期以降の計画に大きな影響を与える可能性はある。
個人的にはスーパーマイクロが上場廃止になったとしても、製品がしっかりしていれば、顧客はスーパーマイクロの製品を買うと思っている。しかしながら、粉飾疑惑など財務に大きな問題があれば、発注を控える会社は出てくるだろう。早くきちんと計画を提出し、疑念を払しょくしてほしいものだ。
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まとめ
決算の話題に触れる前にだいぶ長くなってしまったので本エントリーはここまでとしたい。株価は低調ながら、改めて書いてみると期待の多い会社である。特に、工作機械の段で触れた「デジタルツイン」やアショクに提供する「制御技術」はこれまでの部品メーカーとしてのニデックにはなかった分野であり、今後の成長は、質の変わったものになっていくはずだ。
岸田さんも言っているが、ニデックは製造に力を入れた、メーカーらしい、メーカーだ。日立のようにモノづくりからソフトウェアへ大きく事業を転換した会社もある中で、ニデックは製造に軸足を置きつつ、その強みを生かしたソフトウェア・DXソリューション展開していく会社になる。それもただの効率化、というレベルではなく、設計の仕方から変えるような、設計から製造、検査まで一貫したソリューションを提供するようなモーターに関わるプラットフォーマーになると思っている。
だいぶ妄想と願望が入っているものの、今後のニデックに「やはり」期待をしていきたいと思っている。