【銘柄素描】サンデン(カーエアコンメーカー)
前から気になっている銘柄があるので紹介します。今回はカーエアコンメーカーのサンデンです。2019年頃から業績が悪化していた同社は、コロナ禍が追い打ちとなり、2020年6月に私的整理(事業再生ADR)を申請。その後、630億の銀行団による債権放棄、中国の家電大手ハイセンスの出資を受けて、現在再建中の会社です(事業再生ADRに至る経緯はこの記事が詳しいです)。再建中ということもあり、割安に放置されている印象がありますので、少しレビューしてみたいと思います。
まずは、チャートを見てみましょう。10年前、3500円をつけていた株価は、2024年現在160円台にまで下がっています。2019年に業務用冷蔵システムのサンデンリテールを売却しており、過去の株価を一概に比較はできませんがひどいチャートです。
3年間のチャートで事業再生ADR後の推移を見てみると、200円まで下がったあと、一度300円まで上がって、思い切り売られているのがわかります。2024年6月7日現在の株価は163円、時価総額182円。ちなみにハイセンスが出資した時の取得単価は256円、総額214億円で75%の議決権を取得しています。控え目に言って大損していますね(笑)
直近の業績
次に業績を見てみましょう。売上高は1800億円で、この売上高から考えると、180億円という時価総額はちょっと安すぎる感じがします(だから注目しているわけですが)。当期利益は23年12月期が30億円の赤字、来期予想も16億円の赤字ということで、赤字企業です。ただし、赤字は解消の方向に向かいつつあります。
サンデンは今年2月に新中計を出しています。これによれば経常ベースではCY25から黒字化とのこと。この数字をそのまま達成できるとは信じれませんが、売上の増加は今後高まる電動化需要と、実際に獲得した商権を根拠としており、そうした受注活動をベースに作って入るものと思います。新中計の説明では、商権獲得から3年は、設計、設備投資の期間があるため赤字、その後量産で取り戻すビジネスモデルとなっています。CY25以降急激に伸びていくのは、そういうビジネスモデルを反映してのことでしょう。
果たして、利益は?
新中計を信じるなら先々は明るそうです。が、問題は利益です。新中計では最終的には経常3%を想定していますが、かなり利益率が低いです。参考として、競合の韓国のHanon System社を見ると、同社も非常に利益率が低い(純利益は23年1Qが1.9%、24年1Qにいたっては0.4%。遡っても4%程度が上限といった感じ)。そもそもカーエアコン事業は利益率が低いということが想像されます。実際、Hanon Systemは売上が1兆円弱ありますが、時価総額は2700億円(2.7兆円)とかなり低調。売上1兆円、純利益3%を仮定すると、PER9ぐらいで推移という感じですね。
新中計ではCY26の経常が20億円なので、経常と当期利益の違いはいったん置いておくと、PER9で評価するなら概ね今の時価総額180億円となります。今の株価はすでにCY26迄を織り込んでいることになります。そのまま順調に利益が伸びていくと仮定するなら、今の株価は割安ですが、あくまでも3%程度の利益率を確保できているという前提になります。
電動化は、追い風か、逆風か
EVシフトの進み方については、様々な見方がありますが、現実的にはBEVとHV/PHEVが並行して増えていくことでしょう。サンデンにとってありがたいことは、HV/PHEVも含む電動化が進んでいくことは間違いなく、その点で見通しは確実ということです。この点はニデックが注力するイーアクスルとは状況が異なります。イーアクスルの場合は、純粋なBEVが増えてくれないと基本的には量が増えません。この点、サンデンの投資は報われる確率はかなり高いと言えます。
一方、電動化は自動車業界に大きな変化をもたらしています。一番大きな変化は、中国メーカーを中心とした新しいプレーヤーの登場です。新興自動車メーカーは、従来のレガシーメーカーの牙城に少しずつ、浸食し始めています。中国メーカーが台頭するとういことは、中国系のコンプレッサーメーカーも現れてくることは予想されます。サンデンがそうした新たな競合と十分に戦える技術を持っているかを良く注視する必要があります。
コンプレッサー自身、ガソリン車用と電動車用では構造が異なります。ガソリン車の場合、エンジンのエネルギーをベルトを用いて駆動しますが、電動車用は、電気でモーターを駆動させます。技術的なことはわからないのですが、モーターで直接駆動するほうが、構造的には容易に思えますし、モーターに関する技術力が、今後のコンプレッサーの性能改善に効いてきそうです。
ニデックというダークホースへの期待
自分が実は密かに期待しているのは、ニデックによりサンデンの買収です。ニデックが車載事業を拡大していくにあたり、熱マネジメントは重要な要素になります。実はニデックは2019年からサンデンと熱マネジメント(モーターの排熱を空調に利用する)の共同開発をやっていたことがあり(結果が出たのかは不明)、ニデックが車載空調に関心を寄せていたことが伺えます。コンプレッサーの電動化に従い、モーターが重要になるのは先述の通り。ニデックのモーター事業に対しても大きなシナジーがあるはずです。サンデンの再建の際は、ニデックも関心を示していたという話もありニデックがサンデン買収するシナリオはあり得ない話ではありません。ただ、結果的にはハイセンスが買収することになり、現在75%の議決権を持っている以上、ニデックが買収するシナリオは可能性としては低い状況ではあります。
個人的には、未だにハイセンスによる買収の意図がよくわかりません。サンデンからすると、少なくとも中国事業においては、ハイセンスの資金力、調達リソースなどを借りれるのでその点はサンデンにとっては有難い話ですが、ハイセンス側からするとどうでしょうか。ハイセンスは車載ではスマートコクピットを提供しており、熱マネジメントを含むパッケージとして売り出したいのかもしれませんが、自動車メーカーから見てそういうニーズがあるのか、私にはよくわかりません(ハイセンスの買収目的に関するリリースはこちら)。大手の自動車メーカーと接点を持つハイセンスを買収することは長期的にはハイセンスの車載事業に貢献するのかもしれませんが、個人的にはサンデンとニデックの方が即効性のある事業、技術のシナジーがあると感じてしまいます。技術的な提携でもよいので、ニデックとの協業が実現するとよいなと思っています。
日本でカーエアコンをやっている会社は、私が調べた限りだと、豊田自動織機(+デンソー)、サンデン、三菱重工サーマルシステムズ、パナソニック?(研究開発だけ?)といったところでしょうか。外資系だとマーレを良く展示会では見ます。三菱重工サーマルシステムズは2019年に中国での工場建設を進めており、このリリースでは年産50万台としていますが、果たして今利益は出ているのか。サンデンは独立系としてカーエアコン業界で重要な位置を占めていると思いますが、今後さらなる再編があるのではと思っています。独立系として、サンデン、ニデックが非トヨタ系のカーエアコンメーカーを統合しながら陣営を作っていくような世界を妄想しています。
まとめ
長くなりましたが、上記で書いたことを踏まえて、投資対象としてサンデンに対する評価をまとめてみます。
・2025年12月期には黒字化予定。黒字転換のカタリストはありそう。
・サンデンの事業モデルから、2026年以降売上、利益が大きく成長する。
2028年に売上3000億円、当期利益率3%を仮定すると、当期利益が90億円、PER10を想定すると、時価総額900億円を上限として、それをどこまで織り込みにくか。
・短期的にみると、今後2~3年で30億円程度の当期利益が出ると仮定すると、PER10で評価して時価総額300億円程度までは妥当か。そう考えると今の水準で買っておけば2倍になるポテンシャルはある。
・ただし、カーエアコン事業は競合含めて利益率が低い。当期利益は3%私の中ではベストシナリオ。こんなにうまくいくとは思います。利益率が低いだけでなく、債務も未だ多いサンデンは、経済的な変動に弱い。
・電動化は基本的にはサンデンのビジネスに追い風だが、中国勢の台頭、価格の低下により、厳しい利益率を余儀なくされるかもしれない。
そもそも、2026年からの黒字化と考えると、株価上昇イベントはもう少し先になります。今の水準よりさらに下がる可能性はありますが、時間をかけて買い付けておくと、将来大きく化ける可能性はあるのかなと、少々期待してしまいます。ただ、日々の出来高が1500万円程度で流動性が低いのと、ハイセンスが75%を保有しており、流動比率が低いことに注意です。スタンダード市場が求める流動比率は25%であり、これはほぼクリアしていますが、プライムに再び戻ろうとすると、10%程度公募売り出しが発生する可能性があり、これは下落の要因になります(ただ、もしこの公募売出しを通過したなら、これは買いのチャンスと見ます。もっとも、プライムに戻る気があるのかはわかりませんが)。
見えないリスクについては、サンデンの企業体質と技術力です。そもそもコロナ禍で倒産寸前になっているあたり、経営力に問題があると思われます。また、企業体質も過去の栄光から脱却できない田舎(群馬)の名門企業、という(勝手な)印象があります。経営については、ハイセンスが参画したことで良くなっていることを期待しますが、根本的にスピード感をもってできるタイプの会社ではないのではないかなとも思っています。
そのあたりをニデックが経営参加すれば、ガラッと変わるのにな、と妄想してしまうのですが、企業体質については総会などに参加して、確認をしていく必要がありそうです。展示会で社員さん(技術系)の方とお話ししましたが、丁寧に説明をしてくれて、いい印象を持っています。一方、最近だと下請法違反で話題にもなってしまい、殿様体質も垣間見えてしまう事案でした。