【投資眼】明電舎 ニデックによる買収はあるか?
今回は明電舎をニデックによる買収の観点から見てみます。先日の決算の中でニデックが今後「変電」の分野に注力するという話がありました(スライドの左下の部分。別のスライドではパワーグリッドというキーワードも出てきました)。ニデックはNidec ASIという欧州の発電機、蓄電システムの子会社を持っており、これを強化したいのではないかと想像します(ただし、このスライド中のインバーターは車載用です)。
データセンター用途ではニデックは水冷冷却ユニットで有名ですが、発電機・蓄電システムは、データセンターでも使用されます。様々な理由で電力重要は高まっており、スマートグリットのような電力インフラへの投資が増えていく。ニデックはそこに商機を見出しているものと思います。
話は「変電」に戻ります。決算の中で「変電」というキーワードが出てきたのは今回が初めてです。先述の通り、スライドのインバーターは車載用であり、これが混乱させるのですが、文脈から言って変電というのはやはりインフラ向けを想定しているように思います。Nidec ASIは電力変換設備も手掛けているので、これをより強力に展開していきたいのでは、と思います。
本題に入りますが、この分野で思いつくのが明電舎です。完全に思いつきなのですが、ニデックが明電舎を欲しがる理由はいくつか思いつきます。
・日産、三菱自動車向けに駆動モーターやイーアクスルを納入しており、ニデックのEVトラクション事業とのシナジーが見込める。
・インバーターについての高い技術を持っている。
・電力やインフラ向けの設備を手掛けている。
・電力、水処理、製鉄など様々なインフラ顧客を持ち、発電機や産業用モーターを納入していることから、ニデックの事業とシナジーがある。
・時価総額1500億円と、重電メーカーの中では手頃。
というわけで、明電舎について少し調べてみました。
明電舎の事業
まずは明電舎の事業についてです。こちらは23年度決算のセグメント毎の状況です。ざっくりですが売上比率と利益率は、以下の様な感じでしょうか。
会社全体 100%/3-4%
電力インフラ 25%/6%
社会システム 35%/2~3%
産業電子モビリティ 25%/2%
フィールド 15%/15%
※売上比率/利益率、赤字の事業は22度実績を見て平時の目安利益を想定
売上規模が3000億円弱。営業利益120億円のうち、約半分の60億円をフィールドエンジニアリングが支えていることがわかります。その他の事業がなぜここまで収益性が低いのかわかりませんが「設備は安く納入して、サービスで稼げばいいや、それで全体の利益が4-5%出ていればOK」という感覚で経営しているように想像します。次に、決算に各セグメントの説明があったので、簡単に外観していきます。
まずは電力インフラ。電力会社向けの設備と理解すればよいと思いますが、6割を占める変電の顧客は海外が多いのだろうか?(国内外、ではない)。この点が少し気になります。
次に、社会システム。水インフラが半分を占めています。無停電電源装置は、データセンターでも使用されており、ニデックが持っていない製品なので、ニデックからすると、これは欲しい。
最後に、産業電子モビリティです。EV(HV含む)が、半分以上を占めているのは驚きでした。また、自動車産業向けの試験装置は、ニデックアドバンスドテクノロジーがモーターベンチを手掛けており、シナジーが見込めそうです(明電舎もモーターベンチを手がけている)。電子機器以外はニデックの製品群と重複します。重複はシナジーなのか?は置いておいて、製品群の強化は見込めそうです。
明電舎を買収するメリット
ここで、ニデックが明電舎を買収するメリットを整理してみます。
①ニデックが強化したいインフラ向けの電力設備(発電、変電、配電)の製品群や技術を持っている。
②水インフラを中心に様々なインフラ顧客と接点があり、ニデックの産業用モーター、発電機の売り込みができる。Nidec ASIの製品をニデック単体で日本に売り込むのは厳しく、明電舎の顧客基盤を活用したい。
③車載用モーターについては、日産、三菱などの顧客を持ち、ニデックが持たないハイブリッド用のモーター、パワートレインの製品群を持っている。ニデックが2019年にイーアクスル事業に参入してから、早5年が経つ。中国市場をメインに活動していたとはいえ、日系OEMに入り込むのは困難を極めており、明電舎を買収することで、日産、三菱に納入することができるのは非常に大きい。
また、インバーターに関して高い技術があり、ニデックが強化を急いでいるインバーター事業とシナジーがある(これは産業用、車載用問わず)。明電舎側からみると、同社は中国でイーアクスルの工場建設を計画していたが、中国の価格競争の激化により建設を見送っている。一方、ニデックはイーアクスルの中国工場でモーター部品の供給をしており、この工場を活用してシナジーが出せる(明電舎のイーアクスルを中国で作り、顧客に売ることもできると思う。ニーズがあれば、だが)。いずれにせよ、明電舎の車載事業の採算向上には貢献する。
ざっとこんなところです。商品群が重なっているものも多いため、この辺りがシナジーが出るかどうかは気になるところではあります(商品カテゴリーが重なっていても、具体的な個々の商品が、サイズ、性能、出力や分野、顧客などで重なっていなければ大きなシナジーが見込めると思います)。
後述しますが、明電舎は良い技術を持っているが、利益に結びついていない、という印象があります。ニデックグループになることで、利益になっていない技術を収益化できるのでは、という気もしています(妄想)。
明電舎のバリュエーション
次に、明電舎のバリエーションです。バフェットコードやネットの情報を見ながら、ニデックとの比較をしてみました(ニデックの情報は、一部記憶による概数です。イメージを掴むためのアバウトな数値だと理解してください)。
まず、時価総額は1500億円と手頃(とは言ってもニデックが過去手掛けたM&A案件と比較すると大きい。手頃というのは、三菱電機や富士電機など他の重電メーカーと比べれば、ということ)。
EVITDA倍率は7未満とこれはニデックの買収ラインに入ってきそうです。PBRは昨今の株高もあり、1倍を超えているので、TAKISAWAの買収のようにPBR1まで引き上げてぐうの音もでないTOBを仕掛ける、というのは難しそう。
低収益とはいえ、赤字で再建が必要、という会社でもなく、TOBを仕掛けるなら、かなり割高なTOBを仕掛けざるを得ないが、果たしてそこまでのメリットがあるのか?がポイントになるでしょう。
虎狸ですが、ニデックが経営し収益を改善した場合、どのぐらい収益増が見込めそうでしょうか。現在の売上を3000億円、営業利益を120億とします。フィールドエンジは売上の15%、利益率15%、営業利益60億は買収後も固定とします。残りの事業85%は利益率8%まで改善できると仮定すると、営業利益は200億。配当は30億がニデックに入るとして、60+200+30=290億円までは持っていけるとしましょう。そうすると、仮に今の時価総額の2倍の3000億円で買収しても、PER11ぐらいで買えることになる。あとは両者の売上増につながるか、明電舎の持つ技術力で、ニデック側の事業をどこまで強化できるか、というところがポイントになりそうです。
できなくもないけど、リスクは高い
ニデックによる買収を明電舎側は望まないでしょうし、買収後リストラや工場縮小という経営手法は使えない。商品群も、重なりが多いため基本的に調達の見直しと、Nidec ASIとのクロス販売ぐらいしか手段がない。インフラという、半導体やITとは違う旧態依然とした顧客に対し、コストダウン提案や、競合のシェアを奪うことができるのか。保守的な業界のため、ニデックが買収しても思う様にいくか、という心配はあります(だからこそ明電舎という看板が欲しいわけではあるが)。
あとは、買収価格の問題でしょうか。2000億円で買収できるならメリットは大きくありそうですが、30%程度のプレミアムではTOBを勝ち取れるかどうか。何か明電舎側で株価が下落するようなイベントが欲しいところです。
まとめ
明電舎について、ニデックの買収余地があるかという観点で調べて見ました。結果はイマイチでしたが、面白いので、もう少し時間を見つけて調べてみたいと思います。TAKISAWAのTOBでニデックが開示した提案書は非の打ち所がないほどシナジーがハッキリと理解できました。ニデックが持っている工作機械事業と、TAKISAWAのそれは商品群においても、またグローバルな地域でみても重複がなく補完関係にあり、こんな完璧な組み合わせはないだろうとさえ思いました(永守会長自身、完璧な提案、と評していた)。それと比べると、明電舎とニデックは重複する分野が大きく、違うストーリーでシナジーを説明しなければならないと感じました。
明電舎それ自身は、メインとしているインフラという事業領域は、市場が拡大するとは思えず、今の株価は割高だと思います。かといって、新規参入があるような業界でもなくしずかに衰退していくのかなという印象です。
成長エンジンはほぼありまえせん。ハイブリッド車の増加によって車載が成長できるかどうかですが、いかんせん利益率が低くて驚きました(2%)。車載の利益率が低いのは三菱電機なども同じで、本当に車って儲からないんだなと驚いています。なんでだろう?ニデックが車載事業で10%近い利益を出しているのは本当に凄いことだと改めて思いました。一番現実的なストーリーは、明電舎の車載事業だけニデックに売却する、などでしょうか(まあ利益はかろうじて出ているし、明電舎からするとそんなことをする必要もないが)。
ニデックによる買収の可能性はないとはいいませんが、やはり今の明電舎の株価は割高なので、まずは明電舎の株価がある程度調整してから、購入を検討したいと思います。
以上、いかがでしたでしょうか?もし面白いと思ってくれたら、スキ、をお願いします。