大叔母さんの思い出
(ブログ「今日手に入れたもの」より移転)
2006年7月28日
私には、小さいころから私をかわいがってくれている、大事な大叔母さんがいる。
つまり、母のおば、祖母の妹に当たる人だ。
子供がいないので、
まず母を、その次は私を、さらには私の娘を
自分の娘のようにかわいがってくれている。
もう83歳だ。
料理と裁縫が上手で、(いや、手に何かを持たせると何でも上手)
そもそも洋裁学校の先生を若いころはしていたらしい。
小学校の運動会、母の手作りの弁当のときは
みばも悪く、だれもよってこなかったのに、
大叔母さんが作ってくれたときは、とってもきれいな素敵なお弁当で、
みんながちょうだいちょうだいと、よってきた。
小さいころから洋服もたくさんつくってくれた。
母のウェディングドレスまで縫った人だ。
さて、もう83歳。
さすがに物忘れも激しく、火を使うのは危ないので、
ヘルパーさんに毎日家に来てもらって、食事の用意をしてもらっている。
大叔母さんの旦那さんは、数学の先生だった。
碁が得意で、よく碁会所に行っては、大会では優勝していた。
小学生のころの、わたしのオセロの挑戦相手でもあった。
わたしは数学が得意だったので、大叔父さんがだす問題に挑戦したりもしていた。よくかわいがってもらった。
その大叔父さんは、7-8年前に亡くなった。
老衰、である。
胃がんになって、それは手術だけで完治したのだが、
そのあと食がほそくなって、
大叔母さんはせっせと、消化のよいたべやすいご飯を毎日作っていた。
朝早く起きて散歩し、碁会所に行って、家ではテレビを見て
大叔母さんのからだにやさしいご飯をたべる、
それが大叔父さんの毎日だった。
亡くなる少し前から、だんだん弱ってきていたそうで、(でも家で普通に過ごしていた)定期的に病院で診察は受けていたらしいが、
亡くなる前日に意識が朦朧として、家で倒れたらしい。
大叔母さんが「病院へいこうか?」と聞いたら、
「いやだ、行きたくない」というので、
家で休んでいたそうだ。
そして、いつものように、床を並べて夜眠って、
朝起きたら大叔父さんは亡くなっていたそうだ。
いまどき、病院にいかず、
こんなに安らかに妻の隣で寿命をまっとうできる人間はどれだけいるだろう?
おじさんは本当にうらやましい死に方をしたなあ、と
一族口をそろえて言った。
大叔母さんは、伴侶を失って、しばらく欝になっていた。
食事ものどを通らない、どこにもいきたくない、と
どんどんやせていった。
子供がいないので、主に私の母が家によんで面倒を見ていた。
おいしいものや旅行や買い物が大好きな大叔母さんが
すっかりしぼんでしまって、
私も母も、心配していた。
向精神薬も処方してもらったりとか、
腸の調子がわるく、下痢して脱水になって倒れて救急車をよんだりとか、
とにかく病院ばかりに行っていた。
そういう状態が1-2年続いただろうか。
私が結婚することになった。
医局とかなんとか、めんどうくさかったので、
ハワイで家族だけで結婚式を挙げることにした。
私の結婚を大叔母さんはとても喜んでくれた。
「もう結婚しないのかと思っていたら、あらまあ!」
でも、ハワイなんか行けない、という大叔母さんに
「花嫁姿をどうしてもみてほしい、ハワイなんかハワイ県、っつーくらい
日本だしさ」、と口説き落としてむりやりハワイに連れて行った。
そしたら、あらまあ。
まるでぽとりとつき物が落ちたように、おばさんはハワイで復活した。
きれいな海、穏やかな時間の流れ、
広い空、教会でのコーラス、
あらゆるものが、大叔母さんに命を注ぎ込んだみたいに。
すっかり元気になって
「ハワイ、また行きたいわー。もうどうせ残り短い命なんだし
楽しい思いをたくさんしなくちゃね!」
と、それ以来、買い物も、おいしいものも、旅行も
私の母を引き連れて毎日楽しんでいる。
さて、もともと腸の弱い、しかも便秘もちのおばさんだが、
最近また腸の調子が悪いと言う。
「病院にいったら、バリウムで検査をしましょうといわれたけど、
今日から下剤を飲まないといけないけど、大叔母さんは嫌がっている、どうしよう?」と母からメールが来た。
おばあさんは以前調子が悪かったときに
さんざんいろいろ検査をしていて、そのときもバリウムがなかなかでずに
結構心配した。
もう83歳だしなあ、、、
がんとか見つかっても、どうするよ?と思い、
「本人が嫌がっているなら、しなくていいんじゃない?」とメールした。
そしたら
「ぴょん吉がそういってくれて、踏ん切りがついたわ!」と
おばさんはすっかり元気になってしまった。
それでもまだ腸はしくしくと気になるらしいんだけど、
それでいいらしい。
母も「いまさらがんとか見つかって、手術って言われても
おばさん嫌がるだろうしねえ、、、、。まあぴょん吉にいわれて気が済んだみたいよ」と言う。
がんやなにかがあっととしても、もう寿命でいいそうだ。
ああ。
診察も何もしていない、海外に住んでいる私が
大叔母さんの命に責任を持つことになってしまった。
寿命でいい、つったって、
がんとかになっちゃったら、症状がでてくればしんどいわけで、
小児科医の私には
どういう選択がトータルとしていちばん体に負担がないのか
わからないんだけど。
私が医師として患者さんの前にいたら
検査を勧めるかも。内科の先生のスタンダードはどうなんだろう?
でも、大叔母さんの「腸がしくしくする」は今に始まったことではないしなあ。
ほかの症状はなにもないし、
元気にもりもりおいしいレストランめぐりをしているし、
まあ、検査することないよねえ。
医療費節約に貢献しました。
っつーか、
やっぱりこれでいいんじゃないかなあ、と思う。
年も年だし、不定愁訴もそれなりにずっとかかえてるし。
そんなもんでしょう、きっと。
過剰医療のなかに、こういうのを垣間見ると
(まあ身内だからなんだけれど)
ちょっとほっとするというか。
と同時に、
信頼のおける人、ほかならぬ、かわいい姪が、これでいいよといえば、
それで死んじゃってもいいと
大叔母さんは思ってくれているのだと思う。
このことの重大さを、しっかり受け止めておこう。
大叔母さん、
ぴょんちゃんの花嫁姿は、、、ちょっと無理かなあ。
でも、元気でいてね。
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