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北朝鮮に日本はない #8 付記として。眠れぬ夜に
ここまで北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国において、日本が既に存在感を失っていることを述べて来た。
さてそれをどう取り戻していくかが目下の大きな課題で、また訪朝団の役割でもあるとぼくは信じているが、非常に残念だったエピソードを2つほど書いておきたい。
朝は8時頃にホテルを出て、夜ホテルに帰って来て夕食を食べれば夜8時。体力的にも精神的にもクタクタになるがここからが本番。
普通江ホテルではBS放送が映る。日本のNHK‐BSも映る。技術的なこと、権利関係のことはよくわからないがともかく映るのだ。
ある訪朝団のメンバーは毎晩、平壌で日本のBS放送のニュースを見て、翌朝その内容をつまびらかに話してくれるのが常だった。北朝鮮滞在中は敢えて日本の情報をシャットダウンしているところもあったし、クライマックスシリーズの結果など正直どうでもよく、得意げに話す様子に反応に困った。平壌まで来て売店で買った大同江ビールを飲みながら見る日本のニュース。この人はいったい北朝鮮まで何をしに来たのだろう。嘆息した。あるいは公安の関係者かも知れないとまで考えた。営業時間は夜8時まで。あとは俺の時間というわけだ。
ある講演会では「北朝鮮に行こうと思っていますが、現地で何をするべきですか」と問われたので「ぜひホテルのバーに行ってください。日本代表として。朝鮮語が出来なくても大丈夫。ブロークンな英語で必死にコミュニケーションをしてください。これは北朝鮮に限らず、その場に居合わせた世界中の人に日本人と日本をイメージ、アピールするという意味でも大事なことです」と答えたところ「無理だわー、ホテルのバーなんて無理だわー」と言下に否定された。
悲しいことに自分が懸命に伝えたいことほど伝わらない。
北朝鮮滞在中は脳内麻薬が大量に出ていたのだろう。その反動かなかなか寝付けない夜もあった。窓を開けて耳を澄まし、波の音と共に眠るかのように平壌の音と共に寝ようとしたが寝付けなかった。窓の外を見て平壌の夜の風景を見ようとしたが、ちょうど木が邪魔をしてよく見えなかったのでしょうがなくテレビをつけた。朝鮮中央テレビでは映画が流れていて、しばらく眺めて眠気がやって来るのを待った。朝鮮中央テレビは1日の報告書を書きながら見た。連続ドラマを見たり国民的アニメ「少年将帥」を見ながらインスタントコーヒーを飲み、報告書をカリカリと書き進めた。
日本でも眠れない夜が来ると平壌の深夜に見たテレビ番組のことを思い出す。途中からで全然ストーリーの追えない映画やドラマと、なぜか昨晩と同じ回が放送されているアニメの記憶―――。
■ 北のHow to その21
北朝鮮で1日の日程を終えたあとどう過ごすかという問いは、放課後をどう過ごすかという問いにも似ている気がする。ぼくの場合は明らかにドーパミンが出ていたし、北朝鮮にいる間は覚醒状態なのでとことんアクティブに過ごしたけれど、体調に留意して早めに休むのも実は大切なことだったりもします。
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