奈良出張記(3)
昔、金屏風の前で離婚会見をしたおめでたい女性がいて、それを見てぼくは「バカだなー」と笑っていたのだけど、よくよく考えたら金屏風なんてそもそも結婚式くらいしか縁がない。あとは大関や横綱に昇進するか。
年一回呼ばれていた新年会で、毎年見事な金屏風をバックに会長がスピーチをしていた。時間も内容もぽつぽつと雨が降り始めたように始まり、最後はざんざか雨が降るような拍手で終わる。やんごとなきご身分の方がやんごとなき挨拶をすると、ビシーッと金屏風がハマるのだ。ピカーッと輝く気がする。
結婚することも当たり前でなくなり、大相撲にも縁がなく好角家でもなく、金屏風の出る幕なんてあるのかしらと思っていたらあるのである。
あろうことか自分の講演会に金屏風。奈良ホテルの金屏風ともなれば、これまで数多くの晴れ舞台を踏んできたことでしょう。ぼくなんかの講演会に申し訳ないですねぇと頭をカキカキする暇は実はなく、スライドが用意されていないことに気づき大慌てで用意していただくことに。
HDMIケーブルが繋がらない。ピンケーブルは?という騒ぎもなんとかおさまり、お弁当を食べ、司会者の紹介と拍手をいただき壇上に上がる。ここでちらりと後ろを見ると金屏風。
金屏風は見るものではない。後ろに従えるものだということに気づく。これほど力強い味方もなかなかあるまい。
聴いている人はみなさんお静かで、ソーシャルディスタンスの影響もあり、以前のように講演前に円卓で食事をしながら会話をすることもない。これが結構、エンジンを温めるのに役立っていたのだけど。ただこちらが話すだけで反応がないというのは、ちょっと寂しい。けれど奈良講演は過去最高レベルで絶好調だった。
完全にレジュメもパワポも作り直し臨んだ新作はハマった。練習の時から手ごたえはあったので終わった時にはやり切ったぜと舞台の上でひと息ついた。最後に拍手をいただき、司会者にお礼を伝え、奮闘してくれたホテルマンの方にも感謝を伝えるとふたりほど制服姿の男性が。
自衛官の方。「面白かったですよ~」と名刺交換をしながら感想をいただく。「多面的な角度から北朝鮮を見る大事さ。しっかり伝わりました」とことばをいただき「それが伝わればもう何も申し上げることはありません」と頭を下げる。
今回は航空の人。毎回自衛官の方は食いつくように講演前に雑談をしてくれるのでそれに甘えてしまう。海上自衛隊の方が白の制服でピシッと決めてこられたのに「カレー厳しくないですか」と言ってしまい「ナポリタンも実は厳しいです」と笑って返してくれたこともあった。
無事に講演を終えて金屏風に一礼して、鹿をタクシーの窓越しに見て京都に向かう。
■ 北のHow to その150
金屏風体験は結構、北に行ったときに役に立ちます。北に行くと私たち日本の訪朝団は先生様。やんごとない扱いに慣れていないとあわあわするものですが、金屏風体験があると「うむ。苦しゅうない」と落ち着いた態度を示せるのです。実は海外に行ったときにこういう態度を取るべき時に取れない日本人が多くて、むしろ外国人が困ってしまうという話はまた今度書きます。
サポートいただけたら、また現地に行って面白い小ネタを拾ってこようと思います。よろしくお願いいたします。