将軍様とサングラス
NHKが「アナザーヒストリーズ」で2000年の北朝鮮と韓国の首脳会談の舞台裏を放送していた。
当時ソウルにいたので、その舞台裏について描いたこの番組は実に興味深い内容だった。韓国に来て3カ月ことばは覚束ないうえに、当事者としての熱狂の渦の中にいた。俯瞰で見ることは出来なかったのだから。
当日になるまで誰が順安空港に出迎えるかもわからなかった。金正日総書記が来るサプライズで北朝鮮側が一気に主導権を握った。
意地悪な言い方をするならそれは演出。ころっと韓国側はやられてしまった印象がある。平壌を行く自動車を迎える市民の熱狂ぶりはじめ、ホームの利を存分に北朝鮮は生かしていた。
今回この番組を見て気づいたのは、金総書記のかけるサングラスが変わっていたこと。空港で金大中大統領を出迎えた時は色付きのサングラス。それが色なしの眼鏡に変わった。
会談後、金総書記の韓国でのイメージは変わった。それまで一部の例外を除き公開されなかった肉声も、会談の想像以上の成果(韓国から見れば譲歩ともいえる)も。
サングラスから色なしの眼鏡へのかけかえも演出のひとつだろう。無類の映画好きとして知られた金総書記なら、その効果は織り込み済みだったに違いない。この会談で将来の金総書記のソウル訪問も明記されていたが、果たされない約束となってしまった。
だが、この約束は実現されなかったと見る。あの会談から20年経ち、金総書記は死去した。あの時のソウルの熱狂が再び巻き起こるか、ぼくは疑義と共に見ているが、金正恩委員長はソウルを訪れない気がする。2018年の平昌オリンピックでは、妹の金与正氏が名代を務め、トランプ大統領との会談は第三国で行われたが。ピョンヤン・マジックはソウルでは通じない。
ところで、写真は家庭訪問した時に飾られていた金日成主席と金総書記の肖像画である。北朝鮮の家には必ずある。万一火事でも起こったら、いの一番に持ち出さないといけないものである。
地下鉄の車内にもある一方で外国人のいるホテルの部屋や、食堂などには意外にない。外国人が行くところは、余り北朝鮮の人が訪れないこともある。見事に住み分けが出来ている。
この肖像画の眼鏡も色はついていない。眼鏡越しの眼は柔和にたたずんでいる。家庭訪問ではリビングで肖像画を見た覚えがあるが、さて寝室にはあっただろうか。
寝室にはなかったはずだ、確か。
■ 北のHow to その98
肖像画にはどきりとさせられます。一方で、ああ、平壌にいるのだなあと。肖像画の前では少し緊張した方がいい。指を指すようなことも避けた方がいいでしょう。
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