北の国の忘れ得ぬ人々 #6 運転技師さまに敬礼を!
学生のころ「電波少年」の影響を受けてヒッチハイクで東京から実家まで帰った。東名高速の東京インターのある用賀まで歩き、そこでトラックを捕まえた。運転手さんは気さくで「俺はほとんど毎日ここら辺流してるから、また見たら乗せてやるよ」と言ってくれた。大型トラックの座席から見る風景は高くて眺めがよくどきどきした。
大型トラックかバスの運転手、あるいは電車の運転手さんは男子なら一度でも憧れた職業ではないだろうか。
北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国でも運転手さんはかなり人気の職業と聞く。案内員は免許を持っていない。免許の保有率は相当少ない。理由は私用車がほとんどないことと厳しいエネルギー事情がある。北朝鮮では現在のところ、自動車がぶんぶん走るのは難しい。
運転手さんの多くは軍隊で様々な車両を運転するために免許を取り、退役後運転手さんをしている人が多いと聞く。
全国を移動できて、便乗させることで副収入も期待出来ることが理由と聞く。在日コリアンの人も話す。「実は運転手さんと話すのが面白い」と。案内員だとやっぱり公式見解が多い。その点運転手さんからは生の話が聞けるという。生の話と言っても隠された北朝鮮の裏側、というおどろおどろしいものではなく、地方都市の様子や隠れた冷麺の名店などそういった話をたくさん知っているのだという。情報通なのだ。
とはいえ運転手さんは訪朝団のぼくたちとはあまり接点がない。朝鮮語しか話せないし、相手からこちらを避けている、敬して遠ざけているという印象がある。
北朝鮮の運転手さんはすごいという話をひとつ紹介しよう。北朝鮮にも免許の種類があり、日本における普通免許と大型免許、第一種免許と第二種免許というようなものがあると推測される。だいたい日本人の訪朝団についてくれる運転手さんは「一級免許」を持っている。この一級免許がすごい。ぼくのように年数回しか運転しない、妻のように自動車学校卒業後20数年近く運転していない、山口百恵に「ハァッ!ハァッ!ハァッ!イミテーションゴールド!」と罵倒されるべきドライバーは驚愕する。
一級免許の条件=自分で車を直すことが出来る。
すごくない?
この事実は案内員も知らなかった。「すごくないですか!」というと案内員は免許を持っていないせいか「そうですねぇ」と反応は薄かったが、運転手さんは少し得意げだった。ぼくはジャッキ上げてタイヤ交換。出来ない。チェーンなんて巻けない。このことを知って以来北朝鮮では運転手さん、なんて気軽に呼ばず「技師同志」とよぶことにした。ここには最大限のリスペクトが詰まっている。
2015年の訪朝では、開城に赴いた際バスのタイヤがパンクしたのだが、さすがは一級免許保持者、ぼくたちが昼食を食べている間にタイヤ交換を済ませてしまった。案内員が横で「おまえら見るなよ!絶対見るなよ!」と怖い顔をして立っていたので、遠くからちらちらと見ていたのだが、その手際はさすが一級免許保持者、実に見事なものだった。
■ 北のHow to その39
今日は南の話。運転手さんという表現は日本では別に問題ない表現ですが、韓国では問題となり得ます。そのため韓国語では「運転技師様」(운전기사님)と呼ぶ必要があります。手、ではないのです。技師ということばに様までつけて敬意を込めて呼びます。かつて漫才師の横山やすしがタクシー運転手のことを「雲助」と呼んで大問題になりました。韓国語で運転手ということばにそこまでのニュアンスはないと思いますが、韓国滞在中はよくタクシーの運転手さんと言い合いになったので、気をつけています。
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