![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/54639738/rectangle_large_type_2_ca896c484ec9eb48c943e280164ba662.jpeg?width=1200)
オーナー原田の暴露 「泥棒」
三軒茶屋のメンズエステ店オーナーの原田はつい先日雇った紗理奈というセラピストのことで頭を抱えていた。
以前、数か月だけメンズエステで働いていたとのことで、そこそこ綺麗な女性だったので採用を決めた。
紗理奈は結婚しているとも言っていた。
ただ残念なことに、今まで二度研修を行ったが、あまりセンスがないようで、頑張って努力はしている様だが上達の見込みは薄そうであった。
原田は彼女に店を辞めてもらおうか悩んでいたが、まだ店も新しく、セラピストが揃っていないので、彼女が上達するかもしれないという淡い期待を込めてしばらくは置いておくことに決めた。
原田は諦めずに外部講師を呼んで、紗理奈に何度もマッサージの研修を続けさせた。
それが功を奏してか、少しずつではあるが上達していき、本指名の客を取れるようになっていったのだった。
ある日、
面接に来た女性が「沙紀さんと同じお店で働いてまして、ここで働いてると知って来ました」
と言って来た。
これでひと安心と思った矢先のことであった。
「沙紀さんって?うちにはそんな子いないけど」
「藤村沙紀さんです。紗理奈って源氏名でやってると思います」
「紗理奈って、この?」
原田はスマホで自分の店のホームページを開き、紗理奈のプロフィール画像を見せた。
「そうです」
女性は深く頷いた。
「でも、彼女はほぼ未経験だって聞いてますけど」
「いえ、中目黒で今も働いてますよ。もしかして、言ってなかったんですか? すみません、てっきり知ってるものかと……」
掛け持ちをしているとしても、中目黒の方はシフトを出さないで、事実上の退店扱いになっているかもしれないと思った。
面接の時に、紗理奈は掛け持ちしていないと言っていたからだ。
しかし、面接にきた女性に詳しい話をきいてみると、その週も紗理奈は中目黒のメンズエステに出勤していたという。
面接した女性に教えられた店のホームページをその場で調べてみた。
身長とスリーサイズが紗理奈と同じ、サキという名前の紗理奈に似ているセラピストが載っていた。
スケジュールを見てみると、原田の店で働いていない時には向こうに出ていた。
原田は紗理奈に対する不信感が湧いてきた。
面接が終わり、原田はすぐさま紗理奈に連絡を取った。
ちょうど出勤前で、すぐの予約がなかったので、話したいことがあると言って原田は紗理奈の出勤するルームを訪ねた。
部屋に入り、
「さっき面接をした子から、中目黒のお店で働いてるって言われたんだけど」
原田が単刀直入に言うと、
「え? 誰ですか? そんなこと言うのは」
紗理奈は慌てた口調できき返してきた。
「それより、掛け持ちしてないって言ってたよね?」
「はい……」
「中目黒の店で働いてるってのは本当?」
原田はきいた。
「してませんよ」
「本当にしてないの?」
「もちろんです」
「じゃあ、中目黒のXXって店の、サキって子は?」
オーナーはスマートフォンでホームページを開いて、紗理奈に突きつけた。
「別人じゃないですか」
紗理奈は首を傾げる。
「写真といい、スリーサイズといい、一緒じゃない?」
「たまたまですよ」
「スケジュールもうちの店と完璧なまでに被ってないんだけど」
原田がそう言っても、紗理奈は知らないの一点張りであった。
原田はいくら問い詰めても白状しないだろうと思い、それ以上のことを聞くのはやめた。
すると、今度は紗理奈の方から、
「オーナー、面接に来た子は誰なんです?」
と、きいてきた。
「……」
原田は答えないでいると、
「教えてください。向こうが一方的に言ってくることを信用して、私には何も教えてくれないんですか」
と紗理奈が捲し立てた。
いずれにせよ、原田は面接に来た女性は断ろうと思っていたので、名前を告げると、
「あの子、私に嫉妬してるんです。だから、いい加減なこと言ってるんですよ」
紗理奈は責めた。
「てことは知り合いなんだね?」
原田は確認した。
「まあ、昔の店のときの…。前仲良かったんですけど、ちょっと色々あって……」
紗理奈は少しバツが悪そうに視線を逸らして答える。
やはり紗里奈は未経験ではなく、嘘をついていた。
それから、紗理奈の部屋を出て、原田は事務所に戻り、面接に来た女性に不採用の電話をした。
「やっぱり彼女のことがあるからですか」
女性はイライラとした口調で突っかかって来た。
「いえ、そういうわけではありませんが…」
原田が答えると、女性は諦めたように「わかりました」と言った。
「そういえば、数週間前にお店のBluetoothスピーカーが紛失しませんでしたか」
女性が改まった声できいてきた。
「えっ……」
原田は言葉に詰まったが、覚えがある。
ちょうど、紗理奈が出勤していた部屋であった。
その日出勤したばかりの紗理奈が、「スピーカーがないんですけど」と連絡を寄越した。
「前日にその部屋を使ったセラピストが、盗んだんじゃないですか」
と紗理奈は口にしていたが…。
たしかに前日にその部屋を使っていたセラピストは少し態度に問題のある子で、盗みかねないと思っていた。
原田はそのセラピストが怪しいと思いながら問い詰めてみたが、彼女は
「知りません。私を疑うんですか? 最低です! もう辞めます!」
と、それきり店に来なくなった。
そういう経緯を紗理奈に伝えると、「やっぱりあの子だったんですよ」と確信を持った口調でそう言い切った。
原田もそう思っており、紗理奈の仕業だとは露ほども思わなかったのだが。
「あと、紗理奈さんは風俗行為もしてるんで、ちゃんと調べた方がいいですよ。人に嘘つくのとっても上手い人なんで信用しちゃダメです」
面接を受けた女性はわざわざそう言い残して、電話を切った。
そこまで言われたからには調べ無いわけにもいかず、原田は知り合いを紗理奈に内緒で入らせることにした。
すると、面接が来た女性が言う通り、ヌキどころか本番行為をしている事まで発覚したのだ。
ということは、スピーカーも彼女が盗んだ可能性が高いのでは……。
だがなぜその事をこの女性は知っているのだろう…。
その翌日、原田は紗理奈を店から追い出した。
スピーカーのことを問い詰めたが、最後まで認めることはなかった。
風俗行為については、相手が無理やりするように強要してきて、恐かったから断れなかったと言い訳をした。
しかし、原田は彼女の言うことには耳を傾けなかった。
もう気づかれた方もいるかもしれない。
紗理奈とは、夫のメンエス通いをきっかけに今井の店(参照:オーナー今井の暴露 中編 「夫公認セラピスト」)で働きはじめた藤原沙紀と同一人物である。
彼女はあれから、どっぷりとメンズエステの世界に浸かっているのだ。
オーナー原田の暴露 〜完〜