まどかの暴露 「メンズエステが男をクズにするのか」
客たちは自分の裸を鏡で見たことがあるのだろうか。
自分の体臭を嗅いだことはあるのだろうか。
世間の女性からどのように思われているのか知っているのだろうか。
大宮のメンズエステで働くまどかは、客たちと接して常々そういう疑問が生じる。
客は自分勝手だ。
口コミサイト、掲示板、有料ブログでは、セラピストの容姿をデブだとかババアだとか、こき下ろしている。
だが、大抵そういう客たちに限って、他人のことを指摘できないような容姿の持ち主なのだ。
悲しいことに、そういう客は少なくない。
ネットで陰口を叩くだけでなく、直接セラピストを罵ってくる場合もある。
まどかが言われたことがある暴言には、
「お前みたい乳だけデカい女は脳味噌に栄養がいかないで、乳ばかりにいったんだな」
というのがある。
これはまどかが胸を執拗に触ろうとする客に対して注意をしたところ言われたセリフだ。
自分の思い通りにならないからセラピストを罵るなんてとんでもない奴だ、と思ったが、そういうことを言われる度に、世の中の大半の女性たちから『お前はクズだ』と思われているだろうということは伝えるようにしている。
実際の恋愛、もしくは高級クラブやキャバクラなどとは違って、メンズエステのセラピストは出会って数分であられもない格好、スケスケのベビードール姿になるから、客たちは自分が偉くなった気にでもなるのだろうか。
クズな男が客としてやって来るのか。
それとも、メンズエステが男をクズに変えてしまっているのか。
そもそも、客にクズじゃない男がいるのだろうか…。
まどかはよくよく考えてみると、あの人はクズじゃないという客が思い浮かんだ。
その客は痩せ型の70代で、小ぎれいにしている老人である。
この客は年に一度だけ、やって来る。
まどかがセラピストを始めた6年前から6年連続で会っている。
老人は言葉遣いも丁寧で、
「こんな老いぼれを相手をしてもらってすみません」
と、毎回施術の前に頭を下げてくる。
「いえ、とんでもないです。むしろ、私もこんな素敵な紳士に施術させてもらえるなんて嬉しいです」
まどかはお世辞ではなく、本心からそう思って言う。
すると、老人はにこりと笑って、喜ぶ。
純粋な笑顔が可愛い。
いつも目にしているいやらしい笑顔とは全くの別物だ。
鼠径部になると、老人は若者のように勃起する。
『男は、体のどっかで、二十代。』
という昔の伊勢丹のキャッチコピーがまどかの脳裏に過る。
「まどかちゃん以外の女性ではこんなことにならない。ありがとう」
老人は嬉しそうな顔で感謝し、毎度帰り際にお礼と言って綺麗な花柄の封筒に5万円を包んで渡してくる。
もちろん施術中も施術後も絶対にまどかに手は出さない。
本当に愛おしい人だ。
まどかはこの仕事を続けている限り、毎年この老人に会って、死ぬまで男としての自覚を持たせてあげようと決意している。
まどかの暴露 〜完〜