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店長兼セラピストかすみの暴露 第3話 「霞ヶ関の官僚たち」




 生ぬるい雨が町を包む、煙い夜のことだった。





 かすみは二十歳の新人セラピストとカフェで落ち合った。


 彼女は働き始めてから一ヶ月程で、それ以前にメンズエステの経験はなく、まだマッサージの技術は伸ばさないといけないが、小柄で可愛らしい顔立ちの上に、愛嬌がよく、何より一生懸命に仕事に打ち込んでいた。


 リピート率もそれなりに高い。





 そんな彼女の近況を聞くために、かすみは彼女の仕事前に少し話をすることに決めた。






「仕事はどんな感じ?」



 かすみがきくと、



「楽しいです!」



 彼女は笑顔ではきはきと言った。



「そう。変なお客さんはいない?」



「お尻を軽く触ってきたり、セクハラ発言する人はいますけど、あまり酷い人はいないです」



「なら良かった。もし恐い思いをしたら、すぐに知らせてね」



「わかりました」



 彼女は、にこりと答える。


 そして、思い出したように、



「そういえば、ちょっと相談というか、ききたいことがあるんですけど」



 と、口にした。



「ん? なに?」



「この間、初めて来たお客さまのことなんですけど、僕が最後ならタクシーで送るから一緒に帰ろうって言われたんです。丁寧にお断りしたら、『じゃあ、これを使って』と一万円を渡されて……」



「そのお金は受け取ったの?」



「初めは断ったんですが、取っておいてと返されちゃって。仕方なく、一万円をもらったんです。そのお客さまが明後日また来るんです。ちゃんとお返しする方がいいですよね?」



 彼女は真剣な表情で言った。

 かすみだったらチップとして受け取るが、



「そのお客さまは施術中に変なことをしてくるような人だった?」



 と、きいた。



「いえ、ちょっと下ネタを言うくらいで手出しはしてこなかったです」



「初めてのお客さまだから何とも言えないけど、ただ単純にあなたを喜ばせようと思っていただけなんじゃないかな?」



 かすみは言った。



「でも、一万円ですよ! そんな気前のいいお客さんもいるんですか?」



 彼女は驚いたようにきいてきた。



「うん。まあ、金を渡したからサービスよくしてくれっていうようなのもいるけど、本当に変な気なしにタクシー代をくれるひともいたよ」



 かすみはそう答えながら、ある人物の顔が脳裏に浮かんだ。








 その男はかすみが毎週の様に接客をしていた、『福田淳一』という元財務省の事務次官であった。


 ある時彼は、「おっぱい触っていい?」や、「予算通ったら、浮気するか」など、夜の飲食店でテレビ朝日の女性記者に対して言い放ったとして問題となった。


 福田は「職責を果たすことが困難になった」として事務次官を辞任。



 その後、財務省はセクハラがあったと認定。



 減給の懲戒処分に相当するとして退職金を減額された人物だ。




 しかしかすみにとってこのセクハラスキャンダルはピンとこなかった。

 ただの公務員としか教えてもらっていなかったし、ちょっと変態気質ではあるとは思ってはいたがそれだけだ。




 福田は施術中触ることはせず、かすみとの会話とマッサージを純粋に楽しむ良い客だった。


 それに深夜に出勤して、帰りの電車がなく始発で帰るのを知ってからは、『ちゃんと家に帰って寝れる様に』とタクシー代として一万円をくれる気遣いをしてくれる、むしろとても優しい神客だったのだ。




 会話の端々に知性を感じられ、頭が良いひとなんだろうなと思っていた。



 週に一度はかすみに会いにきてくれていたが、ある日を境に音沙汰がなくなった。






 心配していた折、ワイドショーで福田のセクハラスキャンダルを知った。




 女性記者に対する音源も流れていたが、明らかに切り貼りしたとわかった。






 福田は嵌められたんだと思っている。



 かすみはスキャンダルの少し前、彼から施術中に仕事でやっかまれているということを聞いていたのだった。




 一方、政治の世界の人間でいうと、彼女の元に立憲民主党の海江田万里も来たことがある。


 かすみは海江田の選挙区(東京一区)に住んでいるので、すぐにわかった。





 政治家もこういうところに来るんだと、少しがっかりした気持ちになったが、かすみは普通の客と同じように接しようとした。



 しかし、海江田は普通の客よりもひどかった。




 赤ちゃんプレイをしたがるのだ。


 甘えてきて、乳首だけを触って欲しいと言ってきた。


 それに、ものすごく大声で喘いでいて……。








 そこまで思い出してかすみはブルっと一瞬身震いをした。







「かすみさん、どうかしました?」



  新人は黙ってしまったかすみを見て、心配そうに声をかけてきた。



(いけない、変な事思い出したちゃった)



「ごめんね。なんか冷えるなーって思ってた。コロナかなあ」



 そう冗談を返すと、新人セラピストはやめてくださいよー、と笑い、



「そうそう最近きた面白い客の話聞いてください。先週入ったフリーの松山さんって人が…」



 かすみは、にこやかな笑顔で相槌を打ちながら彼女の話に耳を傾け続けた。

 続く....

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