ゆあの暴露 「ツケを払う時」
ゆあは白髪こそ目立たないものの、顔のシワやゆるみは隠せず、身長はそこそこ高いものの、ガリガリの体型が余計に老けて見える43歳だ。水商売の女性のような、どこか特別な雰囲気が漂っていた。
わざとなのか、舌足らずな喋り方に、妙に色気を出そうとしてくる目つきが少し物悲しさを感じる。
ゆあはメンズエステの業界に入ってまだ1年くらいだ。
はじめたきっかけは離婚して、一人で子どもを育てないといけなくなったことだ。
実家は埼玉、地主の令嬢で、東京の大学に入るまで埼玉で暮らしていた。
大学では商社マンやテレビ局、さらには芸能人やスポーツ選手などと合コンばかりしていた。
当時のゆあは、今とは違って丸みを帯びた女性らしい体つきで、アイドルフェイスで男好みの愛らしさがあった。
大学卒業後は、父親のコネで保険会社に勤めることになったが、まだ学生気分が抜けきれなかったのか、朝が怠いと会社に行かなかったりして怒られてばかりだった。
その会社は3ヶ月でクビになった。
父親はせっかく良い会社に入れてやったのに顔に泥を塗られたと怒って、もう口も聞きたくないと言い、ゆあもカッとなって喧嘩になった。
そして、両親どちらにも、「お前なんか娘じゃない」と言われ、勘当された。
それから、また就職先を探したが、どうも朝が弱く、起きられない。
起きるのはいつも昼過ぎだった。
それで、夜の世界なら働けるのではないかと思い、たまたま大学時代の友人が働いていた銀座のクラブに面接に行き、すぐに採用されて働くようになった。
銀座では色々な出会いがあったが二十代は将来のことを考えないで、男をとっかえひっかえして遊びまくっていた。
しかし、三十歳の誕生日を機にふと、このままでいいのだろうかと不安になり、当時言い寄ってくれていた香川県にある建設会社の若手社長と結婚することになった。
結婚してからしばらくは子どもを欲しいとは思わなかったが、周囲の友人が会う度に、子育てを楽しそうにゆあに語って聞かせてきた。
何度も聞いているうちに、香川にいても気が合う友人が出来るわけでもないので、子どもがいたら楽しいのかなと思うようになり、それから不妊治療に励み、ようやく子どもを授かる事ができた。
夫は子どもを愛していたが、家庭の外で女を作った。
そして、その女との間にも子どもが出来た。
だから離婚して欲しい、
とある日突然言われたのだった。
ゆあは離婚すれば、こんな田舎で暮らさなくてもいいと思ったが、何も考えずに贅沢が出来たのは彼がいたからだ。
でも、こんな裏切り者の男と一緒に暮らしていくなんて、絶対に嫌だ、とも思った。
離婚の話が上がってから数日悩んでいたが、もしこの男と離婚しても他にも拾ってくれる良い男がいるのではと考え、離婚に踏み切った。
子どもの親権はゆあが持つことになった。
離婚したので、東京で暮らそうと思ったが、息子が香川から離れたくないとごねた。
ゆあの説得も虚しく、ついには息子の言うことに折れ、結局は香川で暮らすことに決めた。
それから、慰謝料と養育費で生活をしながらエステの資格を取り、自宅でエステサロンの経営を始めたが、子供もいるのでそれだけでは生活費が足りず、 また就職しようにも雇ってもらえるのはスーパーのパートタイムくらいで、どうしようか考えた末に、去年、知り合いの紹介でメンズエステ業界に入ってきたのだ。
いま働いているのは、いわゆる熟女店だ。
店主導の裏オプがあって、客に聞かれたら教えてあげる決まりになっている。
内容は手コキやフェラだ。
生きていくためには仕方ない。
若いセラピストが溢れる業界の中で、ただの熟女店に誰が行きたいと思うだろうか。
客の目的は、気持ちいいことが出来るのが暗黙のルールであるからだ。
一日12時間入って3~4万円。裏オプの料金は店と折半である。
風俗と違って、嫌な雰囲気の男なら、裏オプなんてないと言い張ればいいから、嫌々することはない。
ゆあに嫌な客はいない。
もうここで働くしかないのだからそんな事も言ってられない。
「どのような方でも癒して差し上げるのが私の仕事ですから。こんな良いお給料がいただけるのに文句なんてありません」
ゆあはだんだんと心からそう思うようになっていた。
そして、若いセラピストにはこういう言葉をかけたいと言った。
「男の人が見ているのは所詮若さだけなんだから、若いうちに遊んでばかりいないで、しっかり手に職をつけ、良い男性とめぐり合って欲しい。自由奔放に暮らしているツケは、四十過ぎてからやってくるんだから」
ゆあの暴露 〜完〜