タイムパトロールの活動目的の考察
タイムパトロール.言わずと知れたドラえもんやT.P.ぼんで出てくる時間犯罪者の取り締まりをしている組織です.T.P.ぼんでは時間犯罪者の取り締まりだけではなく,歴史に影響しない人物に限って非業の死を遂げてしまった人を助ける仕事もしています.よく表現されている活動理由はこのようなものなのですが,ではなぜ時間犯罪者を取り締まる必要があるのでしょうか.
時間遡行と世界線
時間犯罪者を取り締まる理由は歴史に影響を及ぼし人類が滅亡しかねないからというのがよく言われる結論です.つまりF先生のタイムパトロールの出てくる作品では過去を改変した影響が未来にも現れるという前提になります.これは過去と未来が直接つながっており,過去を改変したところでパラレルワールドとして分岐することはないことと同義です.ここに並行世界論が否定されます.
一つ並行世界論を否定できる具体例をそれぞれの作品から紹介します.おそらくドラえもんの中で最も有名な時間犯罪者はドルマンスタインと恐竜ハンターでしょう.恐竜ハンターが犯罪者である理由,正確には航時法で過去の動物を殺したり捕まえることを禁じている理由を次のように述べています.
他にも実際に過去改変した結果として未来が変わったことがわかるのが鉄人兵団におけるリルルもそうですし,なんならドラえもんがのび太のところに来た目的がダメな先祖を助けて少しでもセワシの暮らしが良くなるようにするためだったはずです.
T.P.ぼんではヴラド公の話を取り上げてみます.ヴラド3世,通称ドラキュラ公は人をよく串刺しにすることから串刺し公とも呼ばれていました.この人に串刺しされる予定だった人物を助けようとしたところ大量の人物を助けてしまい,結果20世紀ではその近辺の村の人口が数十人だったか数百人だったかが増えただけで済んだというオチでした.ここでも過去のことが未来に影響を及ぼしています.
ついでにタイムパトロールは出てきませんが,『あいつのタイムマシン』なんかもそうですね.タイムマシンで過去を変えた結果未来が変わる.そんな話でした.
以上のように多くの藤子F作品で時間遡行は出てきますが,多くは並行世界論を否定した純粋に同じ世界線の過去に時間遡行をしている描写がほとんどです.
地球のお話
地球という星はすごいものでちょっとくらいの変化であれば耐えることができます.ちょっとくらいの限界点を便宜的に閾値と呼びましょう.この閾値を超えたとき地球は一気に変化してしまうということが騒がれたりします.
例えば氷河期.今が間氷期であるというのは有名な話ですが地球温暖化が叫ばれると同時にいつ氷河期に突入してもおかしくないと言われます.水は地面に比べると温まりにくいし冷めにくいと言えますが,少し寒くなると水は氷になり,その分海の水が減っていきます.そうすると地球の表面積における陸地の割合が増えていくので地球が冷めやすい星となっていき,これによってより冷え,また水がなくなりより寒冷化し,氷河期になる.
つまりはある閾値を超えるまでは大丈夫なのですが閾値を超えてしまったら大変化が起こってしまうわけです.このことは過去改変にも言えるのではないでしょうか?
ユミ子がT.P.ぼんの隊員になったばかりのときに「マリー・アントワネットを助けに行きましょうよ」と言うシーンがありますが,そんなことをすると歴史が変わっちゃうと言って一蹴されます.しかし,マラトンの海戦で勝ったことを報告する伝令のフィリッピデスは助けます.この違いがつまり閾値であるといえるのではないでしょうか.つまりT.P.ぼんにおけるチェックカードは閾値を超えるかどうかを判定しており,閾値を超えるときに警告を出す.
自分がなぜ閾値の概念を持ち出したのかというと先ほどの例に題したヴラド公の話にあります.ここで「歴史の修正力」という概念が出てきます.歴史は少しくらい変えられても大筋の話は変化せず,自然にあるべきストーリーに戻るというような概念です.いったいどこから見ての歴史なのかはわかりませんが,F先生の作品にはある程度共通してこの考えがあると見ても良いのではないかと考えています.
結局タイムパトロールの目的は?
先日フレンドとタイムパトロールについての考察で意見交換しました.そのときに言われたのが「タイムパトロールはタイムパトロールという組織が歴史改変によって消されないようその保身のために活動している」といったものでした.保身というのは自分には考え付かなった話であり,そう聞くと非常に人間らしい裏の顔を持っているようにも思えます.
一方,そのとき自分が言ったのは「世界や宇宙には人間を超越したところに大筋となるストーリーがあってそれから逸脱しないように取り締まっている」といった内容でした.
フレンドさんが言った保身はのび太の恐竜などにおける「人間の祖先となる動物を殺すと人間が生まれなくなる」という内容をより詰めたものじゃないかと想像しています.一方,自分の考えはそれこそ歴史の修正力というのが念頭に来ていたから出た話だったように思います.
そこで一日置いて考えた結果辿り着いた答えは両方じゃないかということでした.
歴史の修正力という概念からして歴史そのものを人類がどうこうできるものではないという考えが見受けられます.また,タイムパトロールが本当に保身をするのであれば人道反した行為も行う可能性があります.そういったものは描かれていないだけと言われればそれまでですが,保身の考えは可能性としてはありつつもやはり航時法を守らせるために存在している警察というのが結局のところ自分の認識なわけです.
ここまでをまとめると次のようになるのではないでしょうか.
航時法はそのときまでの歴史というストーリーから逸脱させないために設定されているものである
ある「閾値」を越えないのであれば「歴史の修正力」によって歴史は細々した変化はあれど大筋は変化しない
しかし閾値を超えた瞬間に大筋となるストーリーが変化してしまう可能性がある
タイムパトロールは非人道的行いはせず,あくまで過去改変を取り締まるのであってその先の未来については流れに身を任せるという立場
とすれば,この世界とタイムパトロールは以下のようなものと考えられるのではないでしょうか.
「宇宙はできたときからある程度のストーリーが決まっており,多少の過去改変が起ころうともその大筋のストーリーは変化しないが,ある閾値を超えたときにはその大筋のストーリーそれ自体が変化してしまう恐れがあり,航時法はこの大筋のストーリーそれ自体の変化によって人間やその文明・文化が滅ばないように設定されたもので,タイムパトロールはこの法が守られているかを取り締まる人道的機関」
以上が自分の今の結論です.
ドラえもんを取り締まらないのはなぜ?
タイムパトロールについて議論する上でこれについて考えないということはありえません.言ってしまえばドラえもんたちは過去改変をしまくる存在であると言えるでしょう.
いろいろ考え得ることはありますが,新恐竜で湧いて出た新設定としてドラえもんたちの活躍それ自体が大筋のストーリーに含まれているというものがありました.チェックカードが発動してしまいましたもんね.
湧いて出たと表現しているのはあくまで新ドラえもんの話で藤子F先生が考えた話ではない点です.こちらを抜きにして考えれることとしては「ドラえもんの影響は些細なものであること」もしくは「人類にとって益をもたらす存在なので捉えずに見逃している」というものです.鉄人兵団におけるドラえもんたちの活躍は星一つの歴史を丸ごと書き換えるもので,些細なものとは考えることができません.しかし,鉄人兵団から人類を守ったという点においては人類に対して益をもたらしているために取り締まりを逃れたというのは合致します.
新恐竜の設定を抜きにするとは言いましたが,人類にとって益をもたらすというのとストーリーに含まれるというのは似たようなことなのではないかとも考えることができます.あくまでタイムパトロールがチェックしているのは人類が存続している世界線から変わらないようにするためのものなので,人類の繁栄が約束される過去改変については考えようによっては「歴史に含まれる」と言えます.なんとなくこのあたりの考えがあったから新恐竜のことはあんまり反意なく受け入れることができたのかもしれません.
また,日本誕生であったようにのび太たちはタイムパトロールではないので時間犯罪者の警戒の目をすり抜けることがタイムパトロールよりは容易であるために,あえて泳がすことによってより重大な時間犯罪をしている人を取り締まっているというのも考えられますね.
やはりそう思うと航時法それ自体が人類の保身であってそのストーリーから逸脱させないように取り締まっているのがタイムパトロールで,ドラえもんたちはうまくタイムパトロールに取り入れる立場であるから航時法違反として捕まっていないといえるのではないでしょうか.
ところで…….
これは公式設定でも何でもない自分の妄想なのですが,ドラえもんはロボット学校を卒業しているのでここでもしかしたら渡航をするときには準タイムパトロール隊員ともいえる立場で動くような訓練なり教練なりを受けているなんて設定とか考えれないでしょうか.
終わりに
というわけで思うままに書いてきた時間遡行とタイムパトロールの考察でした.思いついたことそのまま出力したので,文章が冗長かもしれないのにここまで読んでいただいてありがとうございました.また思いついたらこういう考察もしていきたいですね.みなさんも自分のタイムパトロール観をアウトプットしていきましょう!
― 了 ―
pyocopel