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DIYと(環境)の修復 / Distributed Design

グローバルにデータは行き来し、材料と知識はローカルで生成される。

PITO (Product In, Trash Out)から、DIDO (Data In, Data Out)へ、を掲げたスペイン・バルセロナのFabCity構想に端を発し、2017年に設立されたのが、Distributed Design Platform。メイカームーブメントとデザイナーの感性が交差するところに出現したDistributed Design(分散デザイン)は、ファブラボ、大学、市民、行政などを巻き込み、持続可能な世界をつくるためのひとつの道標を示している。

今日、私たちが購入した製品は、通常、何千キロも移動してから楽しむことができます。それらは、工場に到着するまでに長距離を移動しなければならないことが多い材料から、超大規模な工場で組み立てられます。これらの工場では、大量生産され、高度に標準化された製品を生み出します。これは、個々の顧客のニーズや地元のリソースや知識を使用する余地を残しません。

このシステムを変更できたらどうでしょうか?製品のエコロジカル フットプリントを削減し、高品質のデザインへのアクセスを民主化し、デザイナー、メーカー、メーカーの市場を拡大できるとしたら?

分散デザインは、製品ではなくデータを移動するためにグローバル接続を利用するデザインの新しいアプローチです。このアプローチでは、顧客と製品との関係を強化することを目指しながら、商品がどのように、どの素材から製造されるかを再考します。

https://distributeddesign.eu/about/ より

特に注目したい言葉が、DIYとCircularityだ。↑の動画(58秒〜)をご参照あれ。ファッションデザイナーのミカへレスが100年前に発表したオープンソースワンピース「Tuta」を思想の源流に据え、User Oriented, Open Access, Do-it-yourself, Circularityというキーワードを抽出している。そのうち、後半の2語について、彼らの4年間の活動をまとめた本「THIS IS DISTRIBUTED DESIGN」を土台にしつつ、発展させて解釈してみたい。

コスモローカリズム

この本では、多くの事例からコンセプトを表出させている。例えば、植物の医療的側面に着目しながら高齢者施設や難民コミュニティでの活用方法を探るデザインラボHenkeや、小規模マーケットで販売されるパンなどのパッケージをローカルで試作し不平等や搾取といった問題に焦点を当てるIIDEAS、発酵食品を作りそのプロセスのツール類をオープンソース化しながら食料システムの透明性や公平性を再考するDomingo Clubなどがある。

感銘を受けたのは、デザインスタジオEchostreamが行うインド・ラチェン村の解説センター(Mobile Interpretation Centre)構築プロジェクトだ。ヒマラヤに近く、気候変動に左右されやすいこの村の、先住民族の医療知識、伝統工芸、神話や歌、絶滅危惧種保全や野生動物の違法取引、氷河や湿地保護などの問題を取り上げた空間を、土地の人々と共につくり上げている。

先住民を「自然の」生態学者として枠にはめ、彼らの回復力を理想化したり、慣習や知識を先住民のオントロジーから切り離すといった落とし穴を避け(Nadasdy, 2005; Chandler and Reid, 2018; Houde, 2007参照)、当センターは知識共同創造に地元の関係者全体を巻き込むことを目的としている。

これらの活動の特長を一言で表すのが、コスモローカリズムだ。分散システム上に構築された、生産と消費を近づけるインフラを通じて、ローカルとグローバルのコミュニティを結びつけるソーシャルイノベーションアプローチである。環境学・社会学者のサックスが提唱し、デザイン研究者マンジーニが近年コモンズの文脈で引用するキーワードで、言い換えれば巨視⇔微視。MDDIの言葉を借りればGlobally connected, local changemakersである。

ここで冒頭で注目したいと書いた、DIYとCircularityの2語に戻ってみる。Circularityは直訳すれば循環性や環状だが、ここまでの事例を見ると、クルクル回るというよりも、いびつなものを「修復」していく、それも広い対象 = 環境に対しての修復、という言葉を当てられるのではと提案してみたい。

また、ここまでの話は必ず優秀な「デザイナー」が介入している。そして事例もこんな先進的な取り組みをまずやってみた、が多い。穿った見方をすれば「トップダウン」の思想をやや感じるため、もう少し現地のプレイヤーたちの視点でCiucularityという言葉を考えてみたいなという理由もある。(もちろん、この本では強烈な脱・西欧中心主義が掲げられてはいるけども)

環境問題は恵まれた人たちのもの?

ここで取り上げたいのが、DIY修理コミュニティとサーキュラーエコノミーの関係性を取り上げた、都市研究家ブラッドリーの「Community repair in the circular economy – fixing more than stuff(2022)」という論文。

2003年から始まる修理コモンズiFixit、2009年から始まる修理コミュニティRepair Cafe、近年だと2021年にフランスで導入された「修理可能性指標」などを背景に、サーキュラー・エコノミーを推進するためには持続可能な消費を行い、市民を共同創造者と捉える必要がある時代に突入していると語る。彼女の問いはこうだ。

修理オーガナイザーはどのような社会的ビジョンを発信しているのか、またその中で市民・消費者はどのような役割を担っているのか?これらのビジョンや役割は、循環型経済の言説との関係でどのように理解することができるのか?そして最後に、DIYやコミュニティによる修理をめぐる動きは、循環型経済における力の配分や公平性との関連でどのように理解されうるか?

特に面白い論点は「力の分配や公平性」だ。まず、彼女は「持続可能な消費は、主に環境志向で、教育を受けた中産階級の民族的多数派が関与するものであるという枠組みを作る傾向がある(Bradley 2009; MacGregor, Walker, and Katz-Gerro 2019)」、と警鐘を鳴らす。

そして、「修理、再利用、共有を中心に構築され、ますます自己組織化し、低賃金でも十分に生活できるようになった市民が力を持つ社会という明確なビジョンは、循環型経済に対するグリーン成長の解釈よりも脱成長やポスト成長の視点に類似している」と語っているのだ。

なるほど、Climate Justice(気候正義)に代表されるように、環境問題につきまとう階級や格差といったネガティブさを見事に言い表してくれている。これが前項で「穿った見方」として書いた部分にもつながる。ちなみに彼女は、DIY修理のしごとを「ポストワーク」(Graziano and Trogal 2017)の概念にまで広げて考察しているのがおもしろい。

ちなみに彼女が使うRepairは、修理なのか修復なのか、それともまた別なのか、までは読み取れなかった。印象としてはやや修理寄りなのだが、やっぱり修理は「モノ」だけを対象としているイメージに狭まる。

修復による維持のデザイン

Circularを「循環」じゃなく日本語でどう言い表すか?で捉え方が変わる、という話は、先日のCircular Design Praxisで田中浩也さんも語られていた。そして上記に書いたように、修理がモノっぽいな…と思っていたところ、昨日、文化財保存修復の研究者、朽津信明さんの「日本における近世以前の修理・修復の歴史について」という論文に出会った。ここではこう書かれる。

端的に言えば,損なわれた機能を回復する行為が「修理」に相当し,損なわれた状態を回復する行為が「修復」に相当すると考えられる。

こう捉えると、最近の自分の関心は、やはりモノに留まらない、DIYと(環境の)修復のような領域なのかもしれない、と思い直した。バニーニの言うRegenrative Life Skillsであり、デューイの言う「更新によって自己を維持する」デザインだ。(前回note参照

ここで2つ例を挙げてみようと思う。

ひとつは「登山道の整備」だ。昨年、portlaというWebメディアで取材させていただいた、近自然工法を用いて登山道を自然な状態に戻していく、大雪山・山守隊の岡崎哲三さんの活動である。2021年から、雲ノ平山荘の伊藤二郎さん、ハイカーズデポの勝俣隆さんと共催されている「雲ノ平登山道整備プログラム」も、どんどんと参加者が増え、ムーブメントとなりつつある。

もうひとつは「野生動物の保護」だ。NHKの「世界自然遺産やんばる いのちの玉手箱」という再放送が昨日あったのだが、米軍の訓練地開発と、幹線道路の交通事故により野生動物が危機に瀕している。後者はロードキルと呼ばれ、特にヤンバルクイナの交通事故が多い。それらの野生動物の怪我を直したり、保護をするヤンバル動物病院の大城院長の活動に感銘を受けたのだ。

さいごに

DIYと(環境)の修復、については、他にもいろいろありそうだ。少し角度は違うかもしれないが、美学研究者・庭師の山内朋樹さんが書かれた、「庭をつくる、そのための基準のDIY」という、人間や自然をつなぐ「結束」との不思議な関係性の話も、示唆に富むものだった。庭つくりたい。

ということで、このあたりどんどん掘り下げていってみよう。

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