つくることをリサーチに取り入れてみよう。Critical Makingのススメ
こんにちは、国広です。株式会社ロフトワークでディレクターをしながら、大阪大学人類学研究室にも所属しています。
今日、伝えたいのは「つくることをリサーチに取り入れてみよう」です。11月に京都で行った「DIYエネルギー人類学」の展示。その中心となった手法がCritical Making(クリティカルメイキング)です。その体験をもとに書いていきたいと思います。
なぜつくること?
僕は、2016年からデザインリサーチに携わりはじめました。最初は高齢社会や家族のお財布事情といったアクセスしづらい辺境(物理的にも文化的にも)で生の声を聞き取る、というスタイル。しかし徐々に聞くだけの行為に疑問をもち、つくることを取り入れるスタイルをとるようになりました。
例えば、インフラ会社のスマートフォンアプリ開発のUX調査では、Cultural Probeを下敷きにして、モックアプリを日記のように10人に2週間使用してもらいFirebase Analyticsで分析する試みを行ったり。建設関連会社の新プロダクト開発では、Design by Peopleを合言葉に試作してもらった3つの作品を展示し、200人の回答と17件のメディア取材を下敷きに改善施策を検討したり。
その過程で、もっと広く、社会や環境といった外側にも目を向けるために、Critical Makingをリサーチに取り入れてみたいなと思うようになりました。
Critical Makingとは?
Critical Makingは、トロント大学のMatt Rattoが2008年に提唱した概念。端的に言えば、モノをつくる技術的実践を通じて、周縁にある社会システムなどを批評していく方法です。
ステップとしては、分析、拡張、内省という手順をとります。ある問いに対して、つくることを通じて、リフレクションすることが特長です。詳しくはRatto自身の論文「Critical Making: Conceptual and Material Studies in Technology and Social Life」や、久保田晃弘さんによる「ものをつくらないものづくり #6 」をご覧ください。
参加型デザインやスペキュラティヴデザインと違うのは、デザインやエンジニアリングの分野でなく、社会科学として派生していること。なので、作品としての完成度よりも、社会と技術の関係を探究することに重きが置かれます。ジョンマエダも2023年のDesign in Tech Reportで、AIによるデザインに対しての打ち手としてCritical Makingを改めて提唱しています。
オフグリッドウェブをつくってみた
今年、実験スペース「なはれ」を立ち上げ、「DIYエネルギー人類学」というプロジェクトを始めました。見えにくいエネルギーという存在を、 手を動かしながら実感していくプロジェクトで、その一貫としてオフグリッドで駆動するウェブサイトをCritical Makingしてみました。
詳しくはこちらに書いていますが、「24時間営業じゃないウェブがあっても良くない?」という内的な疑問と「これからエネルギーとどう付き合っていけばよい?」という外的な問いかけが根源にあります。特長は、3600秒ごとに発電量や給電量、稼働時間などをトラックしていることです。
「つくることに、データ収集の観点を取り入れてみる」こと、逆に「データ収集の観点に、つくることを取り入れてみる」こと、も大事にしています。
展示の様子は?
その計測データなども利用しながら、「DIYエネルギー人類学」の展示を行いました。会期は11月10日から23日まで。6営業日限定の小さな展示です。
会場は3部構成。1.オフグリッドシステム、2.計測した定量・定性データ、3.インスピレーションプロジェクトの紹介です(会場のラフな3Dスキャン by 宮本瑞基さん)。写真とキャプションでささっといってみましょう。
エネルギーを知るって?
この展示では「エネルギーを知ることにどんな意味があると思いますか?」という問いに対して、来場者の皆さんにコメントをもらいました。展示を見た後に内省してもらい、その結果をオープンに共有する試みです。
回答率は約半数。その43件の回答を、KJ法で統合して6つに分類しました。
無限じゃないことに気づく:限りがあって、いつか終わる。エネルギーに限らず、暮らしの当たり前の有限性に気づく。
エネルギーそのものとどう付き合うかを考えられる:エネルギーはどんな存在か。そこから理解が進んだり、愛着が湧いたりすることで、使い方を考えることができる。
ブラックボックスをひもとく機会になる:物質、技術、政治、経済。見えないものを見ようとするためにエネルギーが糸口になるかもしれない。
人間が地球でなぜ存在できるかを、客観視できる:過去から未来にいたるまで。自分たちの暮らしがどう成り立ち、どう続きうるのかを俯瞰できる。
自分の身体や能力の限界を知る:自分じゃない何かが働いてくれて暮らしが成り立っている。その恩恵に何を返せて、何を犠牲にしているのか。
依存からいかに離れられるかを考えられる:グリッドからいかに自由になれるか。例えばスマホをキャリアから格安SIMに乗り換えたときの開放感に近い。
有限であることに気づく。これが来場者のみなさんの多くに共通していた、エネルギーを知ることの基本的な学びかもしれません。
個人的には、なんといっても6つめです。エネルギーを知る(体感する、理解する)ことで、自分の生活が何に依存していて、どう取捨選択しながら生きていくかな、と考え直せる。何をDIYしていくか、です。
原点回帰や懐古主義ではなく、依存から少し離れて、現代に合わせた暮らしをつくる。次は、太陽光で動く麻雀屋台をつくろうかなと思案中です。
エネルギー中心のデザイン
最後にひとつ紹介させてください。今回の展示でも紹介したソーラープロトコルが謳うのは、エネルギーを中心に据えたEnergy-Centered Designです。(↓電力不足だと低解像度モードになり、og:imageは表示されない模様)
その姿は、地球上にオフグリッドシステムをいくつも配置し、最も日照時間の多い場所から電力供給を図るウェブプラットフォーム。カナダ、オーストラリア、ケニア、北京…。 トラフィックの送信先とサイトコンテンツ表示に関する意思決定は、季節、時刻、全世界の気象条件から導き出される環境ロジックに従って自動化されています。
つまり太陽のリズムに合わせた、実験的なデジタルデザインです。
彼らの共同論文「Solar Protocol: Exploring Energy-Centered Design」はおすすめです。作りながら考察し、そのプロセスを公開し、さまざまな人と対話しながら、探究していく。ここにはまさにCritical Makingの全てがつまっているように思います。
ソーラープロトコルのメンバーであり、アーティスト・環境エンジニアのTega Brainから、この展示のためにもらったメッセージで、この記事は締めたいと思います。明日は、NewsPicksのつづく(ひらい) ともこさんです!
では、みなさんよいお年を。