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蝶野正洋の入場テーマ曲『クラッシュ』の歴史

※この記事は2023年2月に投稿したBloggerの記事に加筆・修正を加えたものです。


プロレス界を代表するレジェンドの1人、蝶野正洋。

入場テーマ曲である「クラッシュ」は様々なビッグマッチをはじめ、TV番組のBGMとしても流れたことにより、人口に膾炙した一曲である。

今回はこの名曲『クラッシュ』の知られざる歴史を紐解いてみた。

意外と知られていない各種バージョンや、紆余曲折を経た使用遍歴を改めて振り返っていこう。


まえがき ~クラッシュあれこれ~

そもそも「クラッシュ」はデンマークのネオクラ・HRバンド、ROYAL HUNT - 「Martial Arts」の別称。


Martial Arts」の初出は1992年(日本やUSでは翌93年)に発表されたROYAL HUNTの1stアルバム『Land of Broken Hearts』。

『Land of Broken Hearts』

その後1995年、テイチクから発表された入場テーマ・ミニアルバム『蝶野正洋 21世紀への序曲』に収録された際、「クラッシュ~戦慄~」に改題された。これが現在まで蝶野のテーマ=クラッシュと称される所以である。

『蝶野正洋 21世紀への序曲』


「クラッシュ~戦慄~」と「Martial Arts」は演奏自体は同じ音源なのだが、曲の長さに下記のような違いがある。

「Martial Arts」・・・1:51(CDでは1:52)
「クラッシュ」・・・2:58

・タイムコード比較

「クラッシュ~戦慄~」のほうが尺が長いのは、「Martial Arts」のAメロ部分を1ループ編集しているため。
正確には「Martial Arts」0:00~1:19と「Martial Arts」0:11~1:50部分を繋げると、「クラッシュ~戦慄~」と同じ尺+内容になるのだ。

また意外かもしれないが、蝶野選手が基本的に入場で使用している音源は「Martial Arts」で、元から1ループ編集が入っている「クラッシュ~戦慄~」は試合における使用が確認されていない。

しかしながら新日本プロレスや各種メディアでは上記の差異に関わらず蝶野の入場テーマ曲を「クラッシュ」と総称・表記しているケースが多い。

まえがき2 ~クラッシュが選ばれたワケ~

使用のキッカケに関しては、Wikipediaによると
「蝶野が海外滞在中にROYAL HUNTのメンバー、アンドレ・アンダーセンと知り合った縁で楽曲提供に繋がった」という記述があるものの元ソースは不明

後年、蝶野自身がYoutubeチャンネルで選曲の経緯について語っている。

それによると、白から黒へイメージチェンジを図るにあたり、オリジナル曲も検討される中、Royal Huntの楽曲から選ぶこととなり、その際にコスチュームデザイン等を担当していた蝶野の妻マルティナ夫人が選曲したという

蝶野がテーマ曲を変更する1994年当時は、新日本プロレスが入場テーマ曲を販売するレコード会社を、キングレコードからテイチクへと変更する転換期でもあった。

テイチクは『Metal Mania Label』というHR/HM専門のレーベルを抱えており、当時契約を結んでいたバンドの1つにROYAL HUNTが含まれていた。後に他の楽曲がワールドプロレスリングで使用されたり、入場テーマ曲集CDのブックレットにアルバムの宣伝広告が掲載されたことから、タイアップ的側面が強かったとも言える。

①1994 ~使用~

「クラッシュ」は1994年G1 CLIMAX後、これまでのコスチュームカラーだった白色から黒色にチェンジした所謂”武闘派宣言”から使用された。

黒蝶野

初使用は1994年9月G1 CLIMAX スペシャル 金沢大会 vs 馳浩。G1シリーズ後、8月シリーズ全休を経て、初めて”黒蝶野”スタイルに変貌を遂げた試合だった。

G1 CLIMAX スペシャル 蝶野 vs 馳


翌95年3月にはイメージ・ミニアルバム『蝶野正洋 21世紀への序曲』が発売される。

この時期はクラッシュ以外にもROYAL HUNTの楽曲が新日本プロレスで台頭。天山の凱旋帰国テーマ曲に「Bodyguard」を原曲としたインスト曲、武藤選手のテーマ曲にアンドレ・アンダーセンが作曲した「Triumph」、ワールドプロレスリングのテーマ曲には「Last Goodbye」が起用され、RH TYPHOONが巻き起こっていた。


②90年代後半 ~nWo~

1997年2月、1大ユニットとなるnWoジャパンが始動。このタイミングにあわせて「クラッシュ」は前奏にnWoサウンドロゴ加えたnWo仕様「クラッシュ」にマイナーチェンジを遂げる。このバージョンは1997年のSGタッグリーグなどで使用が確認されている。

97年SGタッグリーグ蝶野・武藤組


翌1998年にはnWo公式入場テーマ曲アルバム『BLACK SYMPHONY』発売され、nWoサウンドロゴを新録版に差し替えた「nWo Crash」が収録された。この新録版「nWo Crash」は98年~99年の期間で藤波とのIWGP、98年のG1など蝶野選手の入場で使用されている。

『BLACK SYMPHONY』

ちなみに「nWo Crash」発表以前まで使用されていた旧録版nWoサウンドロゴのnWo仕様「クラッシュ」は現在まで未商品化である。


また1999年4月東京ドーム大会における、vs大仁田ではデジロック感溢れるエレキギター演奏の君が代「君が代クラブミックス」を前奏に加えた君が代仕様「クラッシュ」でハマーに乗りながら入場するという粋な演出をお披露目。(メインパートは「nWo Crash」の音源を流用)

後年、エレキギターの君が代パートを弾いたのはギタリストの戸谷勉だったことが本人のインタビューで明かされている。

蝶野さんがスタジオに遊びに来たとき、本人かプロデューサーが言ったのかな。「今度、東京ドームにハマーで登場するから、君が代をギターでガーンってジミヘンみたいにやってくれよ」と言われて、その場でギターだけで君が代をバーって弾いたことがあります。

武藤敬司ら名レスラーの“入場テーマ”生み出したギタリスト、副業のつもりが「全部肥やしに」

この君が代仕様「クラッシュ」は2000年代に入り、vsジョーニー・ローラー、vsハルク・ホーガンといった”日本vs世界”のシチュエーションにおける入場でも使用された。


③2000年代 ~T-2000~

2000年、nWoジャパンのお家騒動により新に立ち上げたユニット『TEAM2000(T-2000)』が誕生。総帥となった蝶野は「nWo Crash」を封印し、T-2000仕様「クラッシュ」を使用する。

このT-2000仕様「クラッシュ」は、前奏にDiddyの「No Way Out」と「Victory(Nine Inch Nails Remix)」の台詞部分(意訳:「なにがやりたいんだコラ!」)をmixさせた代物となっている。

「No Way Out」0:00~0:20部分を引用。

「Victory(Nine Inch Nails Remix)」5:30~の台詞を引用。

「Victory(Nine Inch Nails Remix)」はnWo時代から「ワールドプロレスリング」の蝶野選手のアイキャッチ等で使用されており、蝶野選手のイメージテーマ的側面も持ち合わせている。

このT-2000仕様「クラッシュ」はT-2000消滅後も引き続き使用されており、現在まで続く蝶野選手の入場テーマ曲スタイルを確立させた存在となっている。

ただし先ごろDiddyが大規模な犯罪の容疑に問われ逮捕されたこともあり、今後の使用に関しては未知。

④2002 ~新録~

2002年12月に新日本プロレス入場テーマ曲CD『BATTLE CITY ~新たな超戦士ヒーロー~』が発売され「クラッシュ」初の新録カバー版が収録された。その名も「HARD CRASH」。

BATTLE CITY ~新たな超戦士ヒーロー~

CD発売に先駆け、2002年11月トライアスロン・サバイバーシリーズでは蝶野の入場も「HARD CRASH」に変更。今まで前奏や編集の変更はあったものの、入場に使用していた「クラッシュ」音源そのものが変わるのは「クラッシュ」の使用遍歴史上、初めての出来事であった。
(使用が確認されているのは2002年11月藤沢大会、天山・蝶野・藤波 vs魔界1号・柳澤・安田)

しかし長期間の使用には及ばず、約2ヶ月後の2003年の1.4東京ドーム大会ではT-2000仕様「クラッシュ」に戻すことになる。
(しかしながら、6日後の1月のNOAH日本武道館大会に参戦した時には「HARD CRASH」が一時的に復活している)

⑤00年代中・後期 ~特別~

T-2000消滅後、新日本プロレスではBNJ、LEGENDなどのユニットを結成した蝶野だが、テーマ曲は基本的に前述のT-2000仕様「クラッシュ」が流用された。
しかし周年大会や特別な試合においては、例外的に特製仕様の「クラッシュ」を使用することケースがみられた。

2004年1月の東京ドーム大会では『ULTIMATE REMIX』に収録された 「CRASH/ DJ Remo-con REMIX」を使用。

『ULTIMATE REMIX』

2004年11月両国国技館でのデビュー20周年記念大会では、蝶野選手本人のナレーション入り「君が代クラブミックス」前奏+T-2000仕様「クラッシュ」(20周年仕様「クラッシュ」)が使われた。

翌2005年は闘魂三銃士にして盟友だった橋本真也が急逝。直後となるG1 CLIMAX優勝決定戦では、橋本の入場テーマ曲前奏をmixした破壊王仕様「クラッシュ」を使用し、会場ならびにテレビの視聴者を興奮のルツボに突き落とした。

橋本選手の入場テーマ曲前奏が収録された映画「TOYS」サントラ


25周年となった2009年10月両国大会では、歴代旧入場テーマ曲をメドレー形式で前奏に加えた25周年仕様「クラッシュ」を使用。使用された歴代テーマ曲は以下。

「Fantastic City '92」
「nwoサウンドロゴ」
「Victory(Nine Inch Nails Remix)」
「君が代クラブリミックス」
「No Way Out」

2009両国大会


⑥新日退団後 ~現在~

2010年に新日本退団。フリーランスとして一時期は入場テーマ曲を蝶野本人のラップ曲「FIGHT&LOVE」を使用していたが、この頃には、大晦日のTV番組「絶対に笑ってはいけない」シリーズの2007年から始まった人気コーナー『蝶野ビンタ』における蝶野出囃子BGMとして「クラッシュ」はお茶の間にすっかり浸透していた。

2014年以降、蝶野は試合を行わずセミリタイア状態となったが、大会ゲストとして会場に登場する際は引き続き「クラッシュ」を使用することになる。
2015年の新日本プロレスG1 CLIMAX 25にゲスト解説で登場した際は、第2回、第4回のG1を制覇した「Fantastic City '92」を前奏にした「Victory(Nine Inch Nails Remix)」台詞付きのG1ゲスト仕様「クラッシュ」が流れる粋な演出がみられた。

2018年には武藤選手が主宰する大会「プロレスリング・マスターズ」に、2020年には”杉浦軍最高顧問”としてNOAHにゲストとして参加、この際もT-2000仕様「クラッシュ」で入場した。しかし新日時代に使っていたものと聞き比べると、マスターズで入場した版とNOAHで使用した版でそれぞれ微妙に編集が異なっており、再度mixし直していることが判明している。


そして2023年2月東京ドームにおける盟友・武藤敬司引退大会。ゲストに呼ばれた蝶野選手はT-2000仕様「クラッシュ」で入場。

この日が蝶野選手が現役として大会場に流れる最後の「クラッシュ」になるのだろうか。それとも・・・?