見出し画像

「I Believe In Joe Hendry」-英チャート1位を獲得し、テイラー・スウィフトに挑んだプロレス入場テーマ曲-


記事中に出てくる翻訳文は翻訳サイト『DEEPL』を基に、一部修正し転記しています。

まえがき

ジョー・ヘンドリー。
2024年、プロレス界のみならず世間から大きな注目を集めたプロレスラーである。


ジョーは1988年スコットランド生まれ。音楽活動を経て2013年にデビューした中堅キャリアの持ち主で、様々な団体での活躍を経て、2024年現在はTNAに所属している。

そんな彼が世間から注目を浴びるキッカケとなったのは、今年の春にリリースされた彼の入場テーマ曲「I Believe In Joe Hendry」が英iTunesシングルチャートで1位を獲得したニュースである。その他にもOCC(Official Charts Company イギリスの公式チャート)が集計するチャートにも登場し、彼の注目度は飛躍的に上昇した。


今回のnoteでは、様々なインタビュー記事を元に、プロレス入場テーマ曲の歴史に残るサプライズ・ストーリーを深堀りしていきたい。

「I Believe In Joe Hendry」ができるまで


元々ジョーは、入場テーマ曲とエントランスVTRを、自前で用意するユニークな選手だった。
曲の大半はQUEEN、OASIS、マイリー・サイラス、フィル・コリンズ等といったポピュラーソングの替え歌であり、エントランスVTRはそのアーティストやMVのパロディ。
ジョーはこれらを試合のたびに制作し、対戦相手をおちょくりながら入場する行為を繰り返していた。


こうして膨大な数のパロディ入場テーマ曲を作っていたジョーだったが、ROHに移籍後の2019年より自身のオリジナル入場テーマ曲を用意した。それが「I Believe In Joe Hendry」である。

2019年版「I Believe In Joe Hendry」MV

1分強というかなり短い曲ながらキャッチーさに溢れた内容で、ハンドクラップが印象的なアップテンポな前半部分と、ギターソロから始まる比較的スローで壮大な後半部分の2部構成になっている。

インタビューによると2012年頃から原曲が存在しており、歌詞に出てくるロンドン・パリ・東京などの地名も当時のアイディアをそのまま引用したとのこと。

「I actually wrote the melody to my theme song probably in 2012! It was a joke song that I used to sing because I said “it seems to be artists nowadays get huge by just mentioning places!」
「So I would just go “London and Paris and Tokyo!” We were just joking instead of trying to do the music we’re doing, we should just name places! And that’s how that piece of music started. Then it was 2019 when I realised that actually that’s quite catchy and it’s been in my head for about 10 years, so maybe I should do something with it…and then I did!」

実は2012年にテーマ曲のメロディを書いてるんだよ!元々は『最近のアーティストは、地名を言うだけでビッグになれるようだぜ!』と言って、よく歌っていたジョークソングだったんだ。
『ロンドン、パリ、東京!』って感じでね。僕らは、自分たちの本来やりたいの音楽よりも、ひたすら地名を挙げようってジョークを言っていたんだ!そうしてあの曲が始まったんだ。
それから2019年になって、せっかく約10年間も頭の中にあるんだから、何かやってみようかなと思って、とりかかったんだよ。

SOUNDSPHERE「Joe Hendry Believes In A Number One – Exclusive Interview」より


作曲で影響を受けた楽曲として、ジョーはQUEENとPitbullを挙げている。

「…So 『Say his name and he appears…』 and you will see the two claps. Whichever version of the song I’ve had, there’s always been a visual of the two hand claps.」
「Then I literally tell the audience to wave their hands from side to side, and it comes from I heard Queen talk about how they structured We Will Rock You and how they found the perfect BPM for how they wanted people to stomp and clap and then I looked at the BPM they used for the slower moments and I went for 120 BPM for the faster which is the kind of hypnotic pop timing.」

・・・だから歌詞の『彼の名前を言って、彼は現れる..….』部分では2つの拍手が起きるのさ。この曲のどのバージョンでも、必ず2つの手拍子する姿が存在してる。
これは、クイーンが『ウィ・ウィル・ロック・ユー』における構成や、足踏みや手拍子のやり方について完璧なBPMを見つけたという話を聞いたことに由来していて、彼らがスローな瞬間に使っているBPMを参考に、催眠術のようなポップなタイミングである速めのBPM120にしたんだ。

Youtube「I Believe In Joe Hendry! NXT & TNA Crossover, His Catchy Theme Song, John Cena, Cody Rhodes」より


Pitbullに関しては、前述の『曲中ひたすら地名を挙げる』アイディアの元ネタにもなっていることも示唆されている。
(「International Love」は曲中に多数の地名が登場する)

「The song I had before people liked and it was catchy but I just felt like it needed a bit more energy. So I wanted something a bit faster. So the first section is a little bit like International Love by Pitbull.」

「I mentioned this when we were driving over, I was a musician for a long time before I got into wrestling. And this melody was me saying, 『Oh God, we’re never gonna make it with this rock music, we should just be like Pitbull and just name places.』

前に作った曲はみんな気に入ってくれて、キャッチーだったけど、もう少しエネルギーが必要だと感じたんだ。だから、もう少し速い曲が欲しかった。だから、最初のセクションはピットブルの『インターナショナル・ラヴ』のような感じ。(略)
それで、このメロディーは僕が『 おい、こんなロックじゃ俺たちは成功できないよ、 ピットブルのようにただ地名を挙げればいいんだよ』と言ったんだ

Youtube「I Believe In Joe Hendry! NXT & TNA Crossover, His Catchy Theme Song, John Cena, Cody Rhodes」より


「I Believe In Joe Hendry」は発表当時、音楽配信サービスなどで商品化されず、自身のYoutubeチャンネルでMVを発表するに留まっていた。2023年春になって、TNAの選手としてキャラクターを確立したジョーは、新撮したMVをYoutubeに投稿。強烈な見返りスマイルをフューチャーしたサムネイルは、後に彼自身の躍進のアイコンとなる。

2023年版「I Believe In Joe Hendry」MV



SNS上でのミーム化、そしてリリース開始


2024年4月初旬、ジョーは自身のinstagramで、名作映画に「I Believe In Joe Hendry」の楽曲と、サムネの顔画像を使用した雑コラMAD動画を次々と投稿。


特に映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を取り上げたMAD動画(ディカプリオが「I Believe In Joe Hendry」に合わせてリズムを取る内容)はinstagramで「いいね!」が1万件を超えるなど大きな反響を呼ぶ。

I Believe In Joe Hendry」を用いたネタ動画は程なくして、instagram以外のSNSにも広まっていく。TikTokで投稿されたネタ動画の中には50万再生を達成するものもあったとのこと。そうしたTikTokでの盛り上がりを、ジョーがたまたま見たことから事態は大きく動く。

「It all started when there was a rumbling on TikTok. I kind of heard that I was starting to go viral but I hadn’t used TikTok in a couple of years.” Said Joe Hendry」
「So I went to check it out and I noticed that fans were posting videos about me and they were getting half a million hits and it was mostly about the song」
「I thought to myself, well I should probably just release this, so I did that. I filled out the paperwork, jumped on Adobe and spent an hour just doing the artwork that I adapted from the YouTube thumbnail and uploaded it.」


きっかけはTikTokで動画散策していた時。動画が流行り始めていることはなんとなく聞いていたけれど、TikTokはここ数年使っていなかったんだ。それで調べてみたら、ファンが僕に関する動画を投稿していて、それが50万ヒットしていることに気づいたんだ。

それで、これはもう曲をリリースした方がいいんじゃないかと思って行動に移した。書類に記入し、Adobeを立ち上げ、YouTubeのサムネイルから転用したアートワークを1時間かけて作り、アップロードしたんだよ。

SOUNDSPHERE「Joe Hendry Believes In A Number One – Exclusive Interview」より


ジョーは以前より「I Believe In Joe Hendry」のリリースのタイミングを伺っていたが、SNSで話題になっている今がベストだと直感し配信に踏み切る。

そして、ジョーは「I Believe In Joe Hendry」のシングルを全英シングルチャートTOP 40入りさせることを目標に設定した
TOP40入りを果たせば、BBCラジオ番組The Official Chart on Radio 1」で「I Believe In Joe Hendry」が流れるのだ

※「The Official Chart on Radio 1」はBBC RADIO 1で50年以上続くチャート番組。毎週金曜日に放送され、その週の全英シングルチャートTOP40を発表し、上位の楽曲をはじめ、新譜や急上昇の楽曲がオンエアされる。


全英シングルチャート(Official Singles Chart)は、CD・レコード・デジタルミュージックだけでなく、動画を含めたストリーミング配信も累計されるため、チャート入りは至難の業。ジョーはチャートインを狙うため、かつてセインツロウのプロモでYouTuberが匿名アーティストとしてチャート入りを目指した動画を参考にしつつ、2024年4月29日の月曜日に配信することを決定した。


「The funny thing is the charts run from Friday to Thursday, but I didn’t know that. I just thought well, I’ll release it on Monday. So this all kicked off, this is where the luck came in, this all kicked off because there was no release competition on the Monday because all artists released on the Friday.」
面白いことに、チャートは金曜日から木曜日まである。だけど月曜日にリリースしようと思ったんだ。全アーティストが金曜日に楽曲をリリースするから、月曜日はリリースの競合が無いんだ。

「I Believe In Joe Hendry! NXT & TNA Crossover, His Catchy Theme Song, John Cena, Cody Rhodes」より


こうして「I Believe In Joe Hendry」のリリース日が正式決定。彼はチャートインを成し遂げるために、SNSで延々と宣伝ポストを投稿し続け、ファンに支援を呼びかけた。


英iTunesチャートで1位を獲得の快挙


イギリスでは全英シングルチャート以外にもいくつか音楽チャートが存在しているが、iTunesのシングルチャートに関しては、ダウンロード数がほぼリアルタイムで反映されるため、動向の速報性が非常に高く、こちらでのランクインも注目されていた。
ちなみにリリース前日4/28の英iTunesチャート上位には、錚々たるアーティスト達が名を連ねていた。

・1位 Teddy Swims - 「Lose Control」
・2位 Hozier - 「Too Sweet」
・4位 Disturbed - 「The Sound of Silence (CYRIL Remix)」
・5位 Taylor Swift - 「Fortnight」 (feat. Post Malone)
・6位 Perrie - 「Forget About Us」
・7位 Beyoncé - 「TEXAS HOLD 'EM」
・11位 Sabrina Carpenter - 「Espresso」

iTunesCharts「英itunesシングルチャート4/28」より


そうして迎えたリリース当日。地道な草の根活動の甲斐あって、「I Believe In Joe Hendry」が全英itunesのデイリーチャートでいきなり20位と好スタートを切る。

ジョーは思いの外、高い順位に驚きつつ、更なる高ランクに向けてサポートを呼びかける。

ここからチャートの勢いは急上昇する。

数時間後にはテイラー・スウィフトとビヨンセを抜き4位にまで上昇。


そして…

英国のiTunesシングルチャートで「I Believe In Joe Hendry」が初登場1位という快挙を達成。

I Believe In Joe Hendry」の英iTunesシングルチャートの推移


更にイギリス以外の世界中のiTunesチャートでも高ランクインを果たす。


英iTunesシングルチャート1位を記録したものの、目標に掲げている全英シングルチャートの発表日は5/3の先日付。ジョーは各国ランキングの新着状況をこまめに投稿し続けながら、引き続き楽曲の宣伝を行った。


突如チャートを脅かす存在になったジョーは、全英チャートを集計するOCCの目にも留まり、公式Xにフォロー+特集ポストが投稿されるというサプライズを受ける。


こうしてジェットコースターのような日々を過ごす中、ジョーは36歳の誕生日を迎えた。(彼は1988/5/1生まれ)


テイラー・スウィフトへの対抗心、そして全英チャートの結果は・・・


ジョーはチャートインを目指すに当たり、ある大物アーティストに対してライバル心を燃やしていた。

そのアーティストは、テイラー・スウィフト

「I Believe In Joe Hendry」がリリースされた同じ週に、テイラーは最新アルバム『THE TORTURED POETS DEPARTMENT』からの新曲シングル「FORTNIGHT(ft.POST MALONE)」を発表。

アメリカにおいては全米チャート(Billboard Hot 100)で初登場1位を飾り、4/30の時点で1位から14位までのチャートを全てテイラーが独占するという偉業を成し遂げた。

前述の英iTunesシングルチャートでは「I Believe In Joe Hendry」に1位を明け渡す期間もあったが、ストリーム含め・様々な媒体から集計する全英シングルチャートでは、高チャートが確実視されていた。

イギリスでも驚異的な人気を誇るポップアイコンに対し、ジョーはSNSで「Don't let Taylor Swift Win」という題名の弾き語り動画を投稿。まさかの泣き落としで全英チャート入りを懇願した。


テイラーへの隠し切れぬ対抗心。
テイラーについてジョーは、5/3のチャート発表日直前のインタビューでこのように語っている。

「Yeah it was one of those moments where I was about to press share and I thought ooh this could go wrong, this could get an interesting reaction, because I know there’s a lot of Swifties out there! I have friends who are serious Swifties.」
「But I thought you know what? Taylor is super talented. Taylor Swift is, I believe, the number one artist in the world, but I think it would be nice for her to have a week off and take the pressure off a little bit!」
「So why don’t you let me step in and I’ll take the number one spot for a week and then she can have it right back you know!?」

スウィフティーズ(テイラーのファンの名称)が大勢いることは知っているからね!自分の友人にもガチスウィフティーがいるよ。
でも僕はこう思う。テイラーは非常に優れた才能がある世界最高のアーティストだからこそ、1週間くらい休暇を取って、プレッシャーから少しでも解放されてもいいと思うんだ!
だからテイラーの休んでる1週間は僕が1位の座を奪って、その後に彼女が1位の座を取り戻せばいいじゃないか!

SOUNDSPHERE「Joe Hendry Believes In A Number One – Exclusive Interview」より

STVニュースによるインタビュー映像



彼の目的はTOP40入りから、いつの間にか全英シングル1位獲得へと飛躍していた。


そして迎えた5/3。

英Official Chartによる4/26~5/3全英シングルチャートが発表された。

主な結果は以下。

・1位 Taylor Swift - 「Fortnight (feat. Post Malone)」
・2位 Hozier - 「Too Sweet」
・3位 Taylor Swift -「The Tortured Poets Department」
・4位 Taylor Swift - 「Down Bad
・5位 Sabrina Carpenter - 「Espresso」
・9位 Beyoncé - 「TEXAS HOLD 'EM」
・14位  Drake - 「Push Ups」
・19位 Dua Lipa - 「Illusion」

「Official Singles Chart TOP 100 26April 2024 - 2 May 2024」より


テイラーが圧巻の首位。
そして「I Believe In Joe Hendry」はTOP40チャート入りを逃した。休んでほしいというジョーの声も、全英シングルチャートという摩天楼のタワーの頂上に立つテイラーの耳にまでは届かなかった。

結果的には「I Believe In Joe Hendry」がBBC RADIO1でOAされることは叶わなかったが、「I Believe In Joe Hendry」は全英シングルチャート以外で素晴らしい成績を収めた。

全英シングル”セールス”チャート(Official Singles Sales Chart)(ストリーム数を除いた、ダウンロード・CD/レコード等の販売数のみを集計したもの)では、堂々の6位にランクイン。
全英シングルダウンロードチャート(Official Singles Downloads Chart)では4位にランクインする偉業を果たした
これらの順位は、オリジナルのプロレス入場テーマ曲としては最高位とされる

OCCとは別の英チャートBIG TOP 40でもチャート4位を記録。ここではテイラー・スウィフト「FORTNIGHT」(6位)を超える快挙を成し遂げた。


SNSでのミーム化から始まったサプライズ・ストーリー。
多くのファンからの支援、英iTunesチャート1位、テイラーへの挑戦、BIG TOP 40・・・ジョーはTNA公式のSNSで、率直な感想を述べた。



その後の反響

一躍時の人となったジョーはチャート入り後、様々なメディアから取材を受けた。その中には(RADIO 1ではないが)BBCからの取材も含まれていた。
(BBC RADIO Scotlandのラジオ番組『Mornings with Stephen Jardine』に出演)



大手音楽メディアの老舗NMEのインタビュー記事。ジョー自身の音楽趣向、作曲で使用するアプリなど、かなり音楽的素養に満ちた深い話題に触れられており、他の記事とは一線を画している。

「To be honest with you, it’s so crazy that, in life, you have to let go of the thing that you want to get the thing that you want. I completely moved on from music and entered professional wrestling, then here I am with a wrestling song in the Top 40. I’ve achieved both of my dreams in one – it’s almost unthinkable.」

正直に言うと、人生において、欲しいものを手に入れるためには、欲しいものを手放さなければならないというのは、とてもクレイジーなことなんだ。私は音楽から完全に離れてプロレスの世界に入り、そして今こうしてプロレスの曲がトップ40に入っている。私は両方の夢をひとつに達成したんだ。

He said that he thinks he 「found his sound」 on ‘I Believe in Joe Hendry’ and that was 「very proud of it.」

彼は『I Believe in Joe Hendry』で「自分のサウンドを見つけた」と思っており、「とても誇りに思っている」と語った。

「TNA wrestler Joe Hendry on his theme song charting: “I’ve achieved both of my dreams in one」より


Chris Van Vlietの番組にゲスト出演した際のインタビュー動画。



スポーツ界では、NHLのスタンレー・カップ決勝のTV中継において、フロリダ・パンサーズのカーター・ヴェルハーゲ (Carter Verhaeghe)選手をジョー・ヘンドリー化させた応援ボードが映し出される。


そして本業のプロレスにおいても、ジョーは大きな躍進を果たした。

今年6月には世界最大手の団体であるWWEのブランド「NXT」にサプライズ登場。他団体とは長らく鎖国体制をとるWWEでは異例中の出来事だった。(近年はHHH体制もあってか割と緩和ムードではある)


ジョーはあれよあれよとNXTのリング上で実績を残し、初登場から約2ヶ月後の2024年9月1日には同団体のビッグマッチPLE(Premium Live Event) 『NXT NO MERCY』で最高峰の象徴であるNXT王座をかけてタイトルマッチに出場した。
「I Believe In Joe Hendry」が流れた途端、会場はまるでホーム化のように沸き立った。


「I Belive In Joe Hendry」がもたらしたサプライズ・ストーリーはこれからも続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?