系統用蓄電池ビジネスに参入する企業の動向と事例解説
再生可能エネルギーの普及や電力需給の安定化を図る中で、系統用蓄電池ビジネスが注目を集めています。特に、電力市場やエネルギー関連の企業にとどまらず、異業種からもこの分野に積極的に参入する企業が増えています。系統用蓄電池ビジネスに参入している企業の具体的な事例をもとに、どのような企業がこのビジネスに取り組んでいるのか、各企業の狙いや背景について詳しく解説します。
1. 大手電力会社の先行事例
まず、系統用蓄電池ビジネスの主要プレイヤーとして注目されるのが大手電力会社です。日本の電力市場において、再生可能エネルギーの導入が進む中で、電力需給の安定化を図るため、蓄電池を活用する動きが加速しています。
関西電力と九州電力の取り組み
関西電力は、2022年7月にオリックスと共同出資で「紀の川蓄電所合同会社」を設立し、出力48MW・容量113MWhの系統用蓄電池を設置しました。このプロジェクトは、同社が系統用蓄電池市場においてリーダーシップを取る先駆け的な取り組みとなり、さらにその後、子会社である関電エネルギーソリューションが仙台市で出力約10MW・容量約40MWhの蓄電池を設置しました。
また、九州電力は、2022年8月に福岡県大牟田市で、使用済み電動フォークリフトバッテリーを再利用した系統用蓄電池を運用開始しました。こうした事例は、蓄電池を活用することで再生可能エネルギーの余剰電力を有効に活用し、脱炭素社会の実現に寄与する試みです。
四国電力や東京電力の参入
2023年に入ると、四国電力や東京電力もこのビジネスに参入。特に四国電力は、再生可能エネルギー導入が進むエリアとして積極的に蓄電池事業に取り組んでいます。大手電力会社は、既存の電力供給インフラを活かし、JEPX(日本卸電力取引所)や容量市場での取引を通じて収益化を図っています。
2. 電力市場取引ノウハウを持つ企業の動向
次に、電力市場取引のノウハウを持つ企業群が系統用蓄電池ビジネスに参入しています。都市ガス会社や石油元売り、総合商社がこのグループに該当し、電力事業に関する専門知識と資本力を持つため、大手電力に匹敵する存在として期待されています。
ENEOSの大型プロジェクト
石油元売り大手のENEOSは、2021年度に「再生可能エネルギー導入加速化に向けた系統用蓄電池等導入支援事業」の補助金を受け、北海道室蘭市で国内最大級となる出力50MW・容量88MWhの系統用蓄電池を設置しました。2024年4月には、充放電の遠隔制御を開始予定で、このプロジェクトは再生可能エネルギーの導入を加速させるための大規模な一歩となっています。
出光興産のプロジェクトファイナンス導入
また、出光興産は2023年8月に、レノバや長瀬産業、SMFLみらいパートナーズと共同出資し、姫路蓄電所合同会社を設立。ここで注目されるのは、日本初となる蓄電池事業でのプロジェクトファイナンスを導入した点です。これは、新しい資金調達手法として注目を集めており、今後の蓄電池事業における資金調達モデルの一つとして広がる可能性があります。
3. 太陽光発電事業者の参入
太陽光発電関連企業もまた、系統用蓄電池ビジネスに積極的に参入しています。特に、FIT(固定価格買取制度)を活用して太陽光発電で収益を得てきた事業者が、新たな収益源として蓄電池ビジネスに目を向けています。
パシフィコ・エナジーの事例
太陽光発電開発大手のパシフィコ・エナジーは、1.5GW以上の太陽光発電所を開発してきた実績があり、2022年に系統用蓄電池事業に本格参入しました。同社は北海道札幌市や福岡県糸島市で出力2MWの蓄電所を建設し、2023年6月に商業運転を開始しています。
FIT制度の影響
FIT制度による太陽光発電の買取価格が年々低下しているため、同様の収益性を持つ新たなビジネスモデルとして系統用蓄電池が注目されています。FIT開始当初は40円/kWhだった買取価格が現在では15円/kWhを下回り、これに代わる収益の柱として、蓄電池ビジネスが期待されています。
4. 遊休地を持つ異業種からの参入
最後に、遊休地を活用したい異業種の企業も、系統用蓄電池ビジネスに参入しています。電力事業の経験はないが、再生可能エネルギーの導入拡大やESG(環境・社会・ガバナンス)投資のニーズに応えるため、金融機関や自治体、物流業者、流通小売業者が蓄電池ビジネスに目を向けています。
生駒市の事例
奈良県生駒市は、地域新電力「いこま市民パワー」を2017年に設立し、地元の太陽光発電や小水力発電所から電力を調達しています。現在、再エネ100%供給を目指して系統用蓄電池の導入を進めています。これは、自治体が地域のエネルギー自給率を高め、地産地消を推進するための取り組みの一例です。
物流事業者や流通小売業者の利点
物流業者や流通小売業者にとって、系統用蓄電池の導入は土地の条件が比較的緩やかで、日陰でも設置可能である点が大きな利点となります。太陽光発電と比較しても、設置場所の制約が少ないため、狭い土地や景観を気にする必要のない場所でも活用できることが、これらの企業の参入を促しています。
まとめと今後の展望
系統用蓄電池ビジネスは、再生可能エネルギーの導入拡大や脱炭素化の流れを背景に、多様な業種からの参入が進んでいます。特に、大手電力会社や電力市場取引ノウハウを持つ企業は、自社の強みを活かし、積極的に蓄電池ビジネスを推進しています。一方で、太陽光発電関連企業や遊休地を活用したい異業種も、新たな収益の柱としてこの市場に参入しています。
今後、系統用蓄電池の運用や市場取引のノウハウを持つ企業が優位に立つ一方で、新規参入企業は、適切なパートナーシップの構築や運用ノウハウの蓄積が鍵となるでしょう。収益性が確保できれば、さらなる市場拡大が期待され、特に異業種からの参入が加速する可能性があります。
日経エネルギー NEXT
系統用蓄電池事業への参入企業は4分類、電気事業ノウハウのない企業も より
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00029/081300002/?P=4