
脱炭素への挑戦と新たな農業の形-ベトナムのサトウキビ畑から始まる地球の未来
近年、地球温暖化は深刻な問題となっており、世界中で脱炭素化に向けた取り組みが加速しています。その中で、農業分野も温室効果ガス排出削減の重要な対象となっており、革新的な技術と持続可能な方法論が求められています。
今回ご紹介するのは、出光興産株式会社、Lam Son Sugar Cane Joint Stock Corporation(Lasuco)、サグリ株式会社の3社がベトナムで展開する、まさに未来を見据えた脱炭素貢献プロジェクトです。
このプロジェクトは、単に温室効果ガスを削減するだけでなく、地域経済の活性化や持続可能な農業の実現にも貢献する可能性を秘めています。
1. プロジェクトの概要 衛星技術と環境再生型農業の融合
このプロジェクトは、ベトナム・タインホア省のサトウキビ畑を舞台に、サグリ株式会社の持つ最先端の衛星解析技術と、環境再生型農業の手法を融合させることで、温室効果ガスの削減とカーボンクレジットの創出を目指しています。
具体的には、Lasucoの契約農家が耕作する広大なサトウキビ畑において、衛星データを用いて土壌の状態や作物の生育状況を詳細にモニタリングします。この情報をもとに、施肥の種類、量、タイミングなどを最適化し、化学肥料の使用量を削減すると同時に、有機肥料の適切な使用を促進します。
2. 環境再生型農業とは「土壌と環境への配慮」
ここで重要なキーワードとなるのが「環境再生型農業」です。これは、単に農作物を生産するだけでなく、土壌の健康を維持・改善し、生態系への負荷を最小限に抑えることを目指す農法です。具体的には、以下の点に重点が置かれます。
土壌の健康維持・改善 有機物の投入や適切な耕作方法により、土壌の微生物活動を活性化し、土壌の肥沃度を高めます。
化学肥料・農薬の使用削減 衛星データなどを活用し、必要な場所に、必要な量だけ施肥することで、無駄な使用を削減します。
生物多様性の保全 農地周辺の生態系にも配慮し、生物多様性の保全に貢献します。
この環境再生型農業は、従来の農業に比べて環境負荷が少ないだけでなく、長期的に見れば土壌の生産性を向上させ、持続可能な農業経営を可能にします。
3. 衛星解析技術の活用してデータに基づいた精密な農業
このプロジェクトの大きな特徴の一つが、サグリ株式会社が提供する衛星解析技術の活用です。衛星から取得したデータを分析することで、以下の情報を高精度に把握することが可能になります。
土壌の状態 土壌の水分量、栄養分、有機物量などを把握し、施肥の最適化に役立てます。
作物の生育状況 作物の成長速度、健康状態などを把握し、適切な管理を行います。
温室効果ガスの排出量土 壌からの温室効果ガス(特に一酸化二窒素)の排出量を推定し、削減効果を評価します。
これらのデータを活用することで、経験や勘に頼る従来の農業から、データに基づいた科学的な農業へと転換することが可能になります。
4. カーボンクレジットの創出として環境境貢献の見える化
このプロジェクトでは、環境再生型農業の実施によって削減された温室効果ガスの量を「カーボンクレジット」として認証し、取引することを目指しています。カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出削減量を数値化し、市場で取引できるようにしたものです。この仕組みを利用することで、環境貢献活動が経済的な価値を生み出すことになり、さらなる脱炭素化への取り組みを促進する効果が期待できます。このプロジェクトで創出されるカーボンクレジットは、世界最大手のカーボンクレジット認証機関であるVerraの認証取得を目指しており、認証されればベトナム国内初のVM0042によるクレジット登録となります。
5. 各社の役割と強みを活かした連携
このプロジェクトは、出光興産、Lasuco、サグリという異業種の企業がそれぞれの強みを活かして連携することで成り立っています。
出光興産 プロジェクトへの投資、ベトナム政府機関との折衝を担当し、プロジェクトの推進を支えます。
Lasuco ベトナムの製糖企業として、サトウキビ畑の提供、農家との連携、環境再生型農業の実施を担当します。
サグリ 衛星データ解析技術の提供、プロジェクト全体の管理、カーボンクレジット認証手続きを担当します。
このような異業種連携は、それぞれの専門知識や技術を融合させることで、単独では成し得ない大きな成果を生み出す可能性を秘めています。
6. プロジェクトの意義、多角的な貢献
このプロジェクトは、単に温室効果ガスを削減するだけでなく、以下のような多角的な意義を持っています。
地球温暖化対策への貢献 温室効果ガスの削減を通じて、地球温暖化の緩和に貢献します。
ベトナムの持続可能な農業発展への貢献 環境再生型農業の普及を通じて、ベトナムの農業の持続可能性を高めます。
地域経済の活性化 カーボンクレジットの取引などによって、地域経済に新たな収入源をもたらします。
技術革新の推進 衛星データ解析技術などの活用を通じて、農業分野の技術革新を促進します。
SDGsへの貢献 気候変動対策、持続可能な農業、パートナーシップなど、SDGsの複数の目標達成に貢献します。
7. さらなる展開への期待
このプロジェクトは、2025年から実証実験を開始し、2026年以降の事業化を目指しています。将来的には、対象農地の拡大だけでなく、他の作物やベトナム国内の他の地域、さらには近隣諸国への展開も視野に入れています。このプロジェクトが成功すれば、ベトナムだけでなく、世界の農業における脱炭素化のモデルケースとなり、持続可能な社会の実現に大きく貢献することが期待されます。
この取り組みが、より多くの人々に知られ、共感を呼び、持続可能な社会の実現に向けた大きな力となることを心から願っています。