PBR3 解体新書 Day4 Snake
※各セクション間に内容のつながりはほぼありません。お好きなところからお読みください。
§0 プロローグ
魔王城が塵に還り、世界に平和が訪れたのもつかの間、パズル庁のもとには不吉な知らせが届いていた。魔王城跡地に現れた裂け目から、強大な闇のオーラが観測されたというのだ。
調査隊と研究員が調査を重ね、魔王城跡地に残された書物などからその原因を探ること数週間。
「魔王が創造したパズルの中には、その手に負えないものもあった。その存在を恐れた魔王はそれを城の地下に封印していたが、魔王城が消滅した結果その封印が解かれてしまった。裂け目に入り、少し進んだところに壊れかかった扉が見つかった。おそらくはその奥に元凶となる存在がある。」
それが調査隊らの出した結論であった。
魔王が御しきれぬほどの存在となれば、やがて世界に新たな災厄をもたらしかねない。王国はあらためて精鋭達を集め、裂け目の中に潜む脅威の除去を任じた。
パズラーの一隊は裂け目を訪れ、慎重に地下へと歩を進めていく。ほどなくして、調査隊の報告にあった扉に辿り着く。意を決し先鋒の隊員が扉を開けると、大きな部屋の中に見覚えのある魔物が一体。幻術使いの大蛇、Snakeだ。その姿は前に戦ったものより一回り大きい。一瞬にして、部隊に緊張が走る。こちらも精鋭揃いであるが、Snakeが危険な存在であることは先の戦いで痛感している。剣を構え、睨み合う時間。緊迫した空気を破ったのは魔物の声であった。
「地上の人間よ、無闇に挑みかかるような愚を犯さなかったことは誉めてやろう。我がチェックタイムは約15時間。人間どもの力の及ぶところではないわ。しかし安心したまえ。我はお前たちの命を脅かそうとも、町を滅ぼそうとも思ってはおらぬ。直ちに帰り、平和に暮らすとよい。」
ここに2つの選択肢がある。それでもこの存在に挑むか、それとも矛を収め、町に帰るか。
・挑む→問題はこちら
解けたならばEND1へ。
解けなければEND2へ。
・町に帰る→END3へ。
エンディングは最後にあります。
§1 挨拶
こんにちは、あーくです。
今回はパズルボスラッシュ3(以下PBR)にて、4日目のSnakeを制作しました。5日目にインストラクションレスを1題、8日目にハニカムバトルシップとハニカムプッテリアの小問、9日目にバトルシップの小問を提供していますが、この解体新書ではSnakeについての話しかしません。
まずはここに、解いてくださった全ての方、解けずとも挑戦してくださった全ての方への感謝の意を表します。
明らかに理詰めのないヒント統一の盤面、盤面を見た瞬間に作者の察しがついたのではないでしょうか。今回の問題は、「たとえあーくという作者を知らない人でもPBR2のLight and Shadowに挑んでいれば同じ作者であることが分かるようにしよう」という目標で作りました。作者達の一団と関わりの薄い人にも作者当てをしてほしいという願いですね。私を知っている方は、「ああ、いつものあーくだな」と思ってもらえたならば幸いです。私は今日も平常運転です。
§2 制作
今回の制作はなかなか難産でした。
まず盤面サイズとヒント制約の決定です。大きいサイズのパズルは考えたくないので盤面サイズは10×10で決定です。一辺10ということは、ヒント数字はその半分、5くらいにすれば個々の力が弱くて試行錯誤問を作るのによいでしょう。いろんな数字の挙動を逐一考えるのは面倒ですので(パズラーの発言とは思えない)、ヒント数字は揃えたいところです。こうして、ヒントは5に統一することが決まりました。
別の企画で過去に10×10で12ヒントのSnakeを出題していたおかげで12ヒントくらい置けば唯一解になる目が出てくることは把握しており、5を12個置いた配置で第1案を作ってそれを投稿しました。それがこちらになります。
ところがこの第1案は運営内で一桁分のタイムをポンポン出されてしまい、さすがに威厳無し。このままでは「奴はボスラッシュの中でも最弱」「6分で解かれるとはボスの面汚しよ」と言われるのが目に見えています。
チェックには1時間以上かかっており引きタイムは期待値にして全探索の半分という認識でいたので、タイムを出されたときには驚きました。しかしながら世の中にはナンバーリンクや数字つなぎなど唯一解チェックは大変だが引くだけならそれほどでもないパズル種がありますから、Snakeもいくらかその傾向があるパズルなのだと得心して、チェックタイム3時間程度を目指して作ることにしました。
その結果生まれたのが、冒頭のお話に出てきた12×12の問題です。チェックに15時間かかりました。これは没だろうと思いつつ提出してみたところ、没になりました。この時点ではまだ1ヶ月ほど余裕があり、他のパズルがまだ出ていない段階だったので遊び半分で提出しましたが、猶予がぎりぎりの段階でこれを出していたらクビになっていたと思います。
その後に生まれた第3案が本戦で出題されたものとなります。12×12にすると探索範囲が急に広くなることを学んだので10×10に戻し、数字の配置も固定して、頭としっぽの位置をいろいろいじりました。
しかしながら、このヒント数字の配置は実のところそこまで強くはなかったようで、結構複数解が出ます。4回続けて複数解の盤面を引き、6時間程度を空費しつつも、ついに5回目にして唯一解の盤面を引き当てたのでした。この時点で割と心が折れ気味であり、複数作って難度吟味をする気力はなかったので、これを本戦で出題することは確定とし、もし難度が足りないようであれば第1案とセットで2問出題しよう、と考えました。結果的にはこちらの問題の難度はそこまで低くはないようだとの判定をいただいたため1問での出題となりましたが、もし2問で出題していたらどうなっていたかは少し気になるところです。
ちなみに、デスタムーア右手左手みたいな感じにして3問セットで出す案は一瞬で否決されました。当然ですね。
§3 試行錯誤問を作る理由
どうして私は試行錯誤問を作るのか?
前回のPBR解体新書にもそれに関する内容を書いたのですが、あらためて書いてみましょう。
海で泳ぐといったとき、普通は海岸で泳ぎます。わざわざ船で海に出て行ってそこから泳ぐようなことはあまりないですし、その場合でも無節操に遠洋に繰り出しはしないものです。パズルの海も然り。多くの人は、理詰めという拠る瀬のあるところで泳ぎます。
しかしながらパズルの広大な海には、海岸沿いで泳いでいる限り見つけられないものがあると思っています。海のど真ん中まで出ていって泳げば、図鑑でしか見たことのない生物を見ることができるかもしれませんし、鮫に食べられる経験ができるかもしれません。
私はこれまで試行錯誤問の海に繰り出して、理詰めを放棄しなければ作られることのない美しい数字縛りの問題や成立自体が怪奇としか言えないダブルミーニング問題(2種類のパズルを見た目同一の盤面で成立させた問題)などに出会ってきました。この景色を多くの人に見てもらいたいのです。その景色は、根本的なところで試行錯誤問は性に合わないという人にまでは勧めませんが、それほど抵抗がない人にはぜひ推したいものです。また、私が知る景色はパズルの海の広さからすれば僅かも僅かであろうから、他の人が見た美しいものも見てみたいところです。そのためにはやはり、同志が多いに越したことはありません。
そんなゆえあって、私は数字縛りなどにこだわった試行錯誤問を出題しているのです。
まあ、これも所詮建前であって、本音はというと海の真ん中に泳ぎに来た人の足をつかんで海の底に引きずり込みたい…おっと。
§4 自動解きチェックの是非
制作中、あくまで手作業で解きチェックをしているのは何故か?と問われました。
その回答は二つあります。
一つに、試行錯誤問を出す以上自分が手で解きチェックをしていることは半ば礼儀であると考えていることがあります。
パズルは、少なくとも解答者は手で解くのが前提のものです。したがって、私がソルバーを使ってしまうと、私と解答者との間に条件の差が生まれてしまいます。私は試行錯誤問を出したときのみんなの様子を見て「闘技場で猛獣と戦っている剣闘士を見て楽しんでいる」みたいなことをTwitterで言っていますが、本当にそれをやってしまってはただの性格悪い人でしかないです。その辺で罠にかけて捕えた猛獣と剣闘士を戦わせるのは昔の人や兵藤会長(漫画「カイジ」シリーズの登場人物)の娯楽ではあっても、私の娯楽ではありません。自分がその手で剣を持ち猛獣に打ち勝って初めてその猛獣を他人に差し向ける権利がある、そう考えているのです。つまるところ、一種の自己満足です。
もう一つに、自分の手で難度を体感しておくことの重要性が挙げられます。
§2でお話ししたとおり、今回Snakeを出題するにあたり3問制作しましたが、どの問題もソルバーにかければすっと答えが出ます。だからといって12×12の危険物を出していたら、3時間での正解者はおそらく1桁、PBRの場に相応しくないものとなっていたでしょう。
ソルバーに頼っていると、ここに気付けない恐れがあるのです。ソルバーに難度評価がついていても、試行錯誤問に対し難度の判定を一任できるほどの信頼はおけないのが現状であると思っています。
一度自分の手で解いておけば、引きやすさの程度は分からずとも、自分と同じルートでチェックすればこのくらいの時間で全探索が終わる、という目安を知ることができ、難度判定にいくらかの自信を持つことができます。
そのために、私は手作業でチェックをしているのでした。
はっきり言って、こんなこだわりは多作を目指すならば非効率極まりないです。より美しい問題を目指す立場にしても、同じ時間で多く作れた方がより美しい盤面に当たれる期待は高いですから、余計なこだわりを持たずにソルバーに頼った方がよいです。
使える道具を使わずに避けられる苦労をわざわざしているわけなので、否定的な意見もあると思います。何なら私自身普段は「面倒なことをするのが礼儀とかバカらしいし使って楽できるものは使え」の見解で生きている人間ですので、何故パズルに関してだけわざわざ面倒な道を歩んでいるものか、自分でも疑問に思うところです。よく分かりませんね。
§5 エンディング
END1
幻術を駆使しその姿を捉えさせない魔物に対し、あなたは諦めずに剣を振り続ける。無謀な努力にも見えたそれはついに実り、剣が蛇の胴体を捉える。剣が蛇の胴体を両断すると同時に、蛇に湛えられていた邪悪な力が解放され、あなたの体に降りかかる。直後、あなたの心に抗い難い闇への渇望が湧いてくる。
「素晴らしい力の持ち主よ…!これからはお前が闇のパズルを作るのだ…!」
蛇の最期の言葉に頷き、あなたは新たな道を歩むことを決めるのであった。
HAPPY END
END2
幻術を駆使しその姿を捉えさせない魔物に対し、あなたは諦めずに剣を振り続ける。しかしその剣は全く当たる気配がない。捉えた、と思ったことは幾度かあったが全て幻影であった。周りを見れば、部隊はもう壊滅の様相だ。
あなたはそこに力尽きる。精神が蛇の中に渦巻く闇の中に吸い込まれていく。試行錯誤問を解けなかった無念は闇に取り込まれ、新たな闇を生む力となる。あなたは闇の連鎖の中に飲み込まれてしまったのだ。
BAD END
END3
魔物の提案を受け入れ、あなた達は踵を返す。町に帰り、国王にそれを報告する。
それから数か月。言葉の通り、蛇が町を襲うことはなかった。しかし、裂け目から噴き出すオーラは日々強くなり、霧となって町にまで漂い始めた。やがてそれは町に住む人々の心にしみこんでいき、作られるパズルからは理詰めが失われていった。もはや町にかつての光景はない。人々は先の見えない試行錯誤問を作っては、今日も隣人を苦しめるのであった。
BAD END
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クロスレビュー
(広瀬あつみ)
いつかの時に作成したpdfでは同じ盤面を9つ並べました。
そうしたら活用していただいている写真をtwitterでお見かけしました。
ということで、今回も同じ盤面を複数並べたpdfが生成されましたとさ。
(saki)
12×12の問題は20時間程全探索を続けていますが解を見つけることができていません......
(にょろっぴぃ)
統括の業務の1つに、「危険なものを出して人々を苦しめたいと思っている人を抑える」ことがあります。もう1人のゆずっこもどちらかと言えば抑えられる側なので、この業務は私がやらないといけません。
12×12の問題を運よく引いてしまったため(30分ぐらい)、その事実をしばらく伏せることで対策していたのですが、幸い、ほとんどのメンバーが解くのを放棄してくれたため、世に出ずにすみました。とはいえ、結果を見ると本番の問題ではなく、1問目で十分だったような気がします。まだまだ甘いようなので、反省しています。
(ふーなんとか)
PBR7あたりは救いのないストーリーにしてぜひ一緒に怪文書を書きましょう。
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