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アカデミズム絵画または近代のイラストレーション① La Pucelle -Frank Craig

1907年、油彩、オルセー美術館所蔵

ヴェルサイユ宮殿の「Cheval en majesté (堂々たる馬)」展で展示されていた一枚に目を奪われたので、ここで紹介したい。

本作は、1908年に、「(オルレアンの)処女!」というタイトルで、パリの美術展「サロン」にて展示された。フランスの国民的英雄ジャンヌ・ダルクを描いているものの、作者のフランク・クレイグはイギリス人。

鮮烈な赤色の槍が、ジャンヌ・ダルク率いる兵士達の進軍の勢いを強調し、ダイナミックで大胆な構図を作り出している。一方、馬を追い立てるジャンヌ・ダルクは、灰色の兵士達の中で白い軍旗をはためかせ、白い衣服に身を包み、白馬に乗り、主役としての存在感を見せている。その白さは、神の使いとしてのジャンヌの聖性と、処女性を強調しているのだろうか。左端に描かれる敵兵は、彼女の勢いに押され、弓を持つ一人だけが立ち向かい、他のものはただ慄く者、呆然とする者に分かれている。

特別展「Cheval en majesté」ウェブサイト
 https://www.chateauversailles.fr/actualites/expositions/cheval-majeste

参考:
ヴェルサイユ宮殿特別展「Cheval en majesté 」解説キャプション
https://www.rit.edu/artoncampus/frank-craig
https://artsandculture.google.com/asset/goblin-market-frank-craig-artist/-QEO1rml9nV5KA?hl=en

※画像は投稿者撮影

・作者フランク・クレイグについて
クレイグは主に雑誌のイラストレーターとして活躍し、歴史や、道徳的な物語をよく主題とした。そして、44歳の若さで、結核でリスボン近郊の町で没する。

・英雄から、「異端者」になったジャンヌ・ダルク

ジャンヌ・ダルクは、1430年にコンピエーニュ包囲戦での撤退中にブルゴーニュ派に捕らえられ、1431年にフランス国内、ルーアンで火刑に処された。クレイグは、異端審問にかけられた後のジャンヌ・ダルクも描いている。

画像出典元:https://tate.org.uk/art/artworks/craig-the-heretic-n02071


The Heretic(異端者) イギリス、Tullie House Museum and Art Gallery
所蔵

このジャンヌには、サロンに展示されたジャンヌのような勇猛さはない。不安げに辺りを見る弱々しい少女として描かれている。黒い服を身にまとい、祈りを捧げる聖職者が、重々しく陰鬱な雰囲気を漂わせる。ジャンヌの白い衣装とは対照的に、ジャンヌの隣にたたずむ、執行人らしき男は真っ赤な服に身を包んでいる。この絵の中でも、画面にアクセントをつけるために使用されている赤色は、ジャンヌの運命、火刑を暗示していたのだろうか。それとも武力や権力、王権など、もっと抽象的な何かを表しているのだろうか?

・背景の歴史と英仏関係について
ジャンヌが活躍したのはイギリス、フランスの間で15世紀前半に起こった百年戦争の最中で、作者クレイグの故国の兵士は、画面左端に描かれている敵兵である。もっとも、百年戦争の時代にはまだ主権国家の意識は薄く、ジャンヌ・ダルクが戦った後期百年戦争の際は、イギリス・ランカスター朝のヘンリ5世とフランス・ブルゴーニュ公 with ヘンリ6世(ヘンリ5世とフランス王シャルル6世の娘の子供) 対  フランス・オルレアン公派 with シャルル7世(シャルル6世の子供)という、複雑な様相を呈していた。

英仏は仲の悪いイメージが強いが、この絵が展示された1908年の4年前には、力を増すアメリカとドイツに対抗する2国として英仏協商が結ばれている。1908年には、フランス・イギリス展示会が、ロンドンで開かれている。イギリス人であるクレイグがジャンヌ・ダルクを主題とする絵画を描き、フランスの官展に出展したのも、この良好な英仏関係が背景にあるのだろうか。

今年2024年には、英仏協商調印120周年を祝う式典がバッキンガム宮殿で開かれ、マクロン大統領も現地を訪れた。2023年にはチャールズ国王がフランスを訪問しており、イギリスのEU離脱後も、良好な関係は維持されている…と思われる。
(式典の様子:https://www.youtube.com/watch?v=vpdRe_ZHle8

他方で本作が制作された1907年は、英露協商、日仏同盟も成立。ハーグ密使事件が起きた年でもある。植民地支配がさらに拡大している時代だった。

※この記事は精細な調査なく執筆されています

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