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初心者向け軍事:銃の歴史(後)

前編はココから
中編はココから

さて、前回の記事では前編の補足として「拳銃」を
そして前編の直接の続きとして連発銃とライフルドマスケットを紹介した
今回は両者が使用されたアメリカ南北戦争を軸に話をしよう
以下ライフルドマスケットも含めライフルと表現することがあるので注意

射程の延長は危険距離の拡大

前回、銃が滑腔銃からライフル銃に変化したことで射程が伸びたと言った
射程が伸びると遠くから敵を撃てるから強い
当たり前だよなぁ?

が、射程の伸びた影響は歩兵の戦術そのものにも変化を与える
射程が伸びた影響がわかる有名な逸話にセジウィック少将の死がある
手っ取り早くwikipediaから引用させてもらおう

1864年5月9日、セジウィックはスポットシルバニア・コートハウスの戦いの緒戦に倒れた。その軍団は南軍防御陣の左側面の前にある散兵線を探っており、セジウィックは大砲の配置を指示していた。南軍の狙撃兵が約1,000ヤード (900 m)離れており、その銃撃を受けて参謀員や砲手達は遮蔽物の陰に隠れた。セジウィックは公然と歩き回り、「何だ?1発の銃弾をそんなふうにかわすのか?彼らが全線にわたって銃火を開いたらどうするのだ?私はあなた達が恥ずかしい。彼らはこの距離では象でも当たらない。」と言ったとのことである。部下達は恥じ入ってはいたが怯んだままだったので、セジウィックは「そんなふうにかわすなんて、あなた達が恥ずかしい。彼らはこの距離では象でも当たらない。」と繰り返した。その数秒後にセジウィックは左目の下に弾丸を受けて前に倒れた

wikipedia ジョン・セジウィック

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見事なまでの死亡フラグを残して死んだジョン・セジウィック少将
南北戦争で戦死した指揮官たちの中で最高位だった

敵の銃弾に狙われてるとわかっていて堂々と立ち続けて死んだ将軍
一見すると滑稽にも見える死に方だが、仕方がない側面もある
900mといえばライフル銃でも一人の人間を狙って当てるのは腕と運が要る
まして、有効射程たった50mから100mのマスケット銃ではまず当たらない
だから、マスケットの時代に慣れた将軍は驚異判断を誤ってしまったのだ
マスケット相手では安全だった距離が、ライフル相手は危険な距離になった
(まぁライフルドマスケット以前のライフル狙撃兵も似たような射程だった
 指揮官として部下を不安にさせる行動ができなかったという側面もある)

そうすると、歩兵の戦い方というのも変化せざるを得なくなる
なぜなら「マスケット相手では安全な距離」の存在を前提にしてたからだ

ここへん詳しく説明すると長くなる
なので次回の記事は歩兵の戦術変遷についてやります

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マスケット全盛期の典型的な戦い方を描いた絵画
目立つ軍服の密集隊形がいくつかの横隊になって固まっているのがわかる

大前提としてマスケット銃は射程が短い
100mくらいまで近づかないとなかなか有効打が出ない
本格的な射撃戦は50mまで接近して行われることもしばしばだったという

そして射程が短いということは
火力を集中するためには同じ場所に密集した方がいい

さらに言うと100mって実際かなり近い
走れば10秒以内にたどり着きかねない距離だ
50mなんて相手の顔がわかりかねない
(「相手の白目が見える距離で」というのが定型句だったらしい)

地平線は5kmくらいだから、目視範囲の殆どは射程外だったのだ
ということは、敵の目の前でも撃たれずに行動できる余地があったわけ
敵の攻撃が人と人の間をすり抜けるというのは密集するほど発生しにくい
だから密集すればするほど火力は高まる代わりに敵火力の影響もうけやすい
けれど、有効射程が短いので火力を増大できる利点が欠点を上回れる

そして密集していると銃剣を使った近接戦闘で有利になる
普通に考えて最後の一人が死ぬまでお互いに射撃戦なんてことはないよね
そのずっと前に、被害の大きさに射撃戦に付き合えなくなって崩れるとか
あるいはこちらの突撃を崩せるほどの火力を出せなくなってしまう
だから、そういったチャンスを見て銃をただの槍として突撃してたのだ
装填が長いから50mを走るまでに受ける射撃は大した回数でもないしね

歩兵にとって重要なことは可能な限り密集隊形を維持する
敵から射撃を受けても恐れずに密集隊形を崩さないで耐えること
そうすれば火力の高い状態で有利な陣形に移動して射撃戦に入れたし
敵との射撃戦で崩れなければ突撃でとどめを刺されにくかったのだ

戦列歩兵

ところが、全員がライフルを装備するようになると話は全然変わってくる
50mでようやく出せていた打撃が、500m離れても出せるようになった
従来の安全な距離で可能だった移動が、危険な移動になってしまう
そして敵の射撃の影響も大きくなるという密集のリスクも大きくなった

これは敵に向かって移動しなければいけない側≒攻撃側にすごく不利
南北戦争では攻撃側が移動中に大損害を受けて敗退する事例が多発した

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ピケットの突撃の絵画
この突撃を描いた有名な映画のシーンのyoutubeリンクをココに貼る

中でも有名な事例は1863年7月3日のピケットの突撃だ
南軍の12500人もの歩兵による一斉突撃が射撃のみで粉砕されてしまった
1.2kmの距離を移動中に北軍の歩兵や砲兵に撃たれ続けて大損害を受けた
ライフルの時代では密集隊形のままで敵の前を移動してるとボロボロになる

じゃあ、どうしよう?
敵の火力が危険なら、敵の火力が受けにくい状態になるしかない
そう、たとえば射撃戦時の密集度を下げるとか
あるいは敵の射撃から防御された状態になるとかだ

しかし、ここでライフルドマスケットだと限界がある
というのも前装式銃は立ったままじゃないと射撃戦しにくい
(伏せてると装填がしにくいから火力を出せない)
立ったままで敵の射撃から守られる都合のいい地形ってどこよ?
たとえば防御用に作られた構造物とかじゃないと難しいわけだ

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そういうわけで南北戦争では塹壕が作られた
深い穴を掘れば立ったままでも身を隠せながら戦闘できる
これで拠点で防御する防御側に関しては大丈夫だ
じゃあ攻撃側はどうするの?
という点にライフルドマスケットではあまり有効な対応ができないのだ
なので南北戦争は防御側がメチャクチャ有利な戦争になってしまった

一方で、後装ライフルは伏せながら射撃戦も圧倒的に簡単にできる
装填の動作がほとんど手元だけで完結してるからしょうがないね
伏せることができるなら身を隠す場所の選択肢は一気に広がる
しかも、平地であっても伏せてれば敵の弾丸が当たりづらい
相手から見た面積が狭くなるからマトが小さくなるからね
後装銃は火力だけでなく防御力の面でも優位だったのだ

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画像は1914年の歩兵
伏せて撃つだけで立っているより圧倒的に有利
こういう散開した歩兵の横列を散兵線という

すると、ボルトアクションのほうがレバーアクションより有利だ
何故かというとレバーアクションは銃の下方向にスペースが必要
つまり伏せてると地面が邪魔になってしまう
一方で、ボルトアクションは銃の前後方向の動きだから比較して楽

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他にもレバーアクションは構造上ちょっと弱くて強い弾丸を撃ちにくいとか
先進的な弾丸が使いにくいとかのデメリットが多くて廃れていってしまった
一般的な歩兵用の銃としてはボルトアクション銃がメインになっていく

1866年の普墺戦争でボルトアクション銃の優位性は一層明らかになった
プロイセン軍は30年も前にすでに開発されていたドライゼ銃を大量に使用
ライフルドマスケット装備のオーストリア歩兵に射撃戦で優位に立ったのだ
初期のボルトアクションはライフルドマスケットより射程はちょっと短かったし不良も多かったし高価いけど、それを補って余りある優位があったのだ

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ボルトアクション銃を使うプロイセン兵の絵

上記の部分はだいぶ単純化した姿で本当はもうちょっとゆっくりした変化
普墺戦争の段階ではまだ立ちながら撃ってたけれども
実戦の結果でだんだんと敵火力下での行動が危険と周知されていくにつれ
だんだん遠方で射撃戦に入るようになり(ので1000mとかの距離も刻まれる照尺が装着された)
そして射撃戦中は散開したり伏せるようにもなり
時間をかけて徐々に19世紀末期~20世紀序盤型の戦術(散兵線)に移行していった

当初は紙薬莢を使用した単発式のボルトアクション銃ばかりだったが
お互いにボルトアクション銃で戦った普仏戦争などを経て徐々に進化
レバーアクション銃のようにチューブ式弾倉や金属薬莢が採用されていく

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1871年型モーゼル小銃
金属薬莢でチューブ式弾倉とだいぶ完成に近づいていく

ところで、前回に金属薬莢のメリットを一つ説明し損ねた
後装銃が長いこと実現しなかったのはガスを封じ込めるのが難しかったこと
しかし金属薬莢はその難易度を低下させた
というのも、空薬きょうがガスの圧力で銃身に張り付いてしまうのだ
すると、閉鎖機構にとってガス漏れ用の蓋としても機能する
だから紙薬莢だったドライゼ銃などより信頼性が増したのだ

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そして銃の力の根源的な部分、つまり火薬にも変化が生じる
銃の誕生以来ずっと使われてきた黒色火薬を脱却したのだ
黒色火薬は問題が認識されていた
まず大きな問題として煙がメチャクチャ出る
これは自分の目の前で煙幕が出ているようなもので
しかも戦場で大人数が煙をまき散らすのだ
こうなると周囲の状況が分かりにくくなるし撃ちにくい

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黒色火薬を使うとこんな感じで白煙が生じる
これがまるで煙幕みたいにモクモクと戦場を覆うのが普通だった

もう一つの大きな欠点は爆発の勢いが早すぎることである
何が困るかというと説明する前に銃身の内部の圧力についてちょっと説明

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銃弾があまり動いてないのにガスが出すぎていると圧力が大きくなる
ガスがより狭い区域に詰まらざるを得ないのだから当然だ
あまりに強すぎる圧力は銃身を破壊してしまいかねないので困る
逆に、ガスがゆっくり発生すれば銃身に優しい
なので普通の火薬は銃に合わせて粒の大きさで燃焼速度を調整している
ところが、この調整方法には限界がある
だから黒色火薬よりゆっくり燃える(ゆっくりガスを出す)火薬が欲しい

この時代には「より細い弾丸をより高速で射出すれば射程は伸びる
ということはもう銃の設計者はみんな分かっていた
マスケット銃は18世紀には75口径(​19.05mm)もの大口径だったのが
この時代には口径12.7mmとか11mmへと徐々に小口径化していたのだ

だがこれ以上は黒色火薬の燃焼速度では無理というのもわかっていた
細い弾丸=細い(狭い)銃身はより大きな圧力がかかってしまうからだ

そこで登場した世界初の無煙火薬を採用したルベル銃は8mmに小口径化
戦場の視界を邪魔する問題解決と有効射程の延長を両方とも実現した

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8mmルベル弾 ある種の革命をもたらした弾丸だった
尖頭弾といって先端がとがった形なのも注目
こうすると空気抵抗が小さくなるので速度が下がりにくく射程が伸びる

そして19世紀も終わる最後の10年間にもう一つの変化が訪れる
これまでのチューブ式弾倉は今考えると弱点が多い
尖頭弾を使うと暴発しやすいとか(雷管を尖った弾丸が叩くので)
弾丸の列が移動するにつれて重量バランスが動きやすいとかね

なので、ボックスマガジン(箱形弾倉)という箱形の弾倉の利点がでてくる
前後ではなく上下に一列なんで後ろの弾丸が前の弾を突くなんておきないし
弾丸の列の移動が上下方向なので重心バランスの変化もそれほどではない

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そして最大の利点がこの時期に発明されたクリップ(clip)に適してることだ
これ以前は空の弾倉へは一発づつ弾丸を入れる必要があった
じゃあ、銃弾を弾倉の装弾数だけ束ねておいて一気に入れればいい
それを実現するために作られたのがクリップ(束ねる,clipからクリップ)だ
一つ一ついれるよりまとめて一気に入れられたほうが早い
弾倉を撃ちきってから再び弾丸を込めるのがスピーディになった

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初期のクリップであるGew88のもの
これをまとめて弾倉に入れればあとは一気に撃てる

ボルトアクション連発銃はこれでだいたい完成系にたどりついたのだ
歩兵用の標準的な武器としての小銃は第二次世界大戦まで基本形はこれ
1898年のGew98をもとにしたKar98kでドイツが1945年まで戦ったように
手動式の連発銃というのは19世紀最後の数年でだいたい「成熟」した



あくまで手動式はね
さて、連発銃がなにをどう「連発」なのか
手の単純な前後運動とかだけで再発射可能なメカがついてる

小銃用にはボルトアクションやレバーアクションが作られたが
それ以外にも大型で人一人では使えないようなメカも開発された
たとえばガトリング砲(1862年)とかエイガー機銃(1861年)
ノルデンフェルト式機銃(1873)などなど
(上の二つのリンクはメカの詳しい動きを解説したyoutube動画)
人間がメカを動かしていれば弾丸の続く限り連続発射し続ける銃
広い意味での「機関銃」が19世紀後半には発明されている
(外部にメカを動かす動力源が必要なので外部動力式の一種)

これは喩えるなら鉛筆削り用のナイフと鉛筆削り器の違いだ
ナイフは鉛筆を回したり刃の立て方を変えたり複雑な動きが必要
ところが、鉛筆削り器は中のメカを手で動かすだけで大丈夫
鉛筆を削るために作られたメカを手でくるくる回せば上手に削ってくれる
・・・じゃあ、手を動かさなくてもメカが勝手に動けばいいんじゃないか?
そういう人のために電動鉛筆削り器は電気の力で自動で削ってくれる

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連発銃も手を動かさなくてもメカが勝手に動いてほしい
手動ではなく自動で連発できるから自動式(オートマチック)連発銃

ちなみに引き金を1回引くごとに次の弾丸が発射できる状態まででメカの動きが止まる(1回引くごとに1発の)銃を半自動式(セミ・オートマチック
引き金を引いてるあいだメカがずっと弾丸を撃ち続けるのが全自動式(フル・オートマチック)…全とはつけないで単に自動式ということが多い

でも、どうやって?

まさか電気で動かすというわけにはいかない
電源ケーブルを引っ張ってないと動けない歩兵とか論外だ
それに当時は電気動力というのも今ほどは利便性があるわけじゃない

銃のメカを動かすのに適した人力以外の何らかの力・・・
それは大別すると3つが実用されるようになった

1.ガス圧式
そもそも銃はガスの力で銃弾を発射するんだろ?
じゃあそのガスをメカを動かすためにも使おうぜ!

2.反動式(リコイル式)
銃弾を発射すると反動がキツいじゃん?
あの反動でどうにかメカを動かせないかな?

3.吹き戻し式(ブローバック式)
金属薬莢を使うと火薬の燃焼ガスは弾丸と薬莢の両方に力を加える
弾丸はもちろん目標に飛ぶが、薬莢はその反対側に力が与えられる
この薬莢にかかる後ろ向きの力が利用できるはず

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世界で初めての実用的な自動拳銃は反動式(リコイル式)だった
1893年のボーチャードピストルだ
発射の反動は銃を射手の手ごと後ろに動かすほどの力がある
上手く使えばメカを動かせるんじゃないか?というのは自然な発想だ

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ボーチャードピストル

といっても、反動は人間の手ほど器用に力を加えてくれない
特にタイミングの制御ができないのは大きな問題だ
弾丸が動き出した直後から反作用は発生してる
(弾丸を動かすという作用が生じてるから必然的にそうなるよな)
だけど、銃身内で弾丸が加速されてる間に薬室が空いたら大変だ
盛大に発射ガスが漏れて射手にとって危険すぎる
どうにかして反動の発生と閉鎖の解除のタイミングをずらさなきゃいけない

そこでボーチャードピストルではトグルアクションという方式とっていた
反動が発生した直後ではトグルと呼ばれる部分が薬室を抑えてくれる
そしてしばらく力を受けたトグルは折れ曲がって薬室を開く
後は折れ曲がったトグル内のバネの力で元の状態に戻る
この前後運動が弾丸を装填したり薬莢を排出するメカを動かすのだ
(ちょっとわかりづらいの思うのでyoutube動画のリンク

ちなみにボーチャードピストルはグリップ(持ち手)に弾倉をつけている
これは現代のほとんどの自動拳銃が受け継ぐ構造で結構どころでなくすごい
一方で、遅らせる装置であるトグルのほうは現在ほぼ残ってない
少し遅れて生まれたティルトバレルという方式がメジャーだ
薬室を抑える部分(遊底)は銃身を覆うようについていて嚙み合わされてる
反動で銃身がスライドする途中でこの噛み合いを解除することで分離
薬室が解放されて後はメカが弾丸をうまいこと装填、バネで元に戻される
(これもYoutube動画のリンクを張っておく
 銃身上部の凸凹のかみ合わせに注目)
上のどちらもショートリコイル(短反動式)と言われるタイプだ
銃身が途中で止まる(遊底と結合されてる距離が短い)からショート

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M1900 ショートリコイルの原型めいた銃
ジョン・ブローニングというすごいおじさんが設計したすごい奴

これらの自動拳銃よりもっと早く生まれた自動火器がある
1886年に生まれた世界初の実用的な自動機関銃
水冷式のマキシム機関銃である

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マキシム機関銃:初期型なので不細工

マキシム機関銃もトグルアクションを使った反動利用式だった
折り曲がるトグルってのはある種レバーアクションに近いものがある
マキシムは1883年に「レバーアクションの反動で動かそう」と試作してる
半自動式レバーアクションとでもいうべき銃の設計経験も影響がありそう
自動レバーアクションの紹介記事リンク
ちなみに似たようなことはブローニングもやっていた
まぁたしかに今ある手動式を自動化というのは自然な発想だ

さて、ここでマキシム機関銃の図解youtubeリンクを張っておこう
反動で下がり始めた銃身は少しして固定フックが外れて遊底と分離
銃身から外れた遊底は勢いよくさらに後ろに下がって回転盤を回す
回転盤を回す力がスプリングに貯められて元に戻っていく
この前後運動で弾丸の排出やらいろいろな仕事をメカが行ってくれる


一方で少し遅れて天才として有名なブローニングも機関銃を作り上げた
コルト・ブローニングM1895重機関銃である
これは反動利用式ではなくガス圧式の自動火器だった
高圧のガスが銃身の先端付近に作られた小さな穴から分岐
その圧力でレバーが動いて連結されたメカが動く
(youtubeの図解動画リンク:レバーアクションにそっくりだ)

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コルト・ブローニングM1895
冷却についてあまり考えてなかったので過熱が酷かった

これらの実用機関銃は戦場を変える発明だった
毎分500発もの発射レートということは100発の銃弾を12秒そこらで撃ちきる
発射した弾丸が全部あたれば100人の戦士も20m走らないうちに全滅だ
そこまで極端ではなくとも、1発の銃が数十人の一斉射撃に匹敵する

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連射性に優れたボルトアクション銃リー・エンフィールド装備の歩兵隊
熟練兵は毎分20発もの連射ができたという
それでもマキシム機関銃に並ぶには25人で小隊ほぼ丸ごと必要だ
マキシム機関銃は文字通り小隊に匹敵するともいえる

そんなわけで機関銃はその連射力で徐々に各国に受け入れられていった
特に日本で有名な活躍は日露戦争
旅順要塞の戦いで日本軍の大規模突撃を粉砕したイメージが強い
まぁ機関銃ぬきでも近代要塞の攻撃そのものが高難易度なんですけどね

しかし、ヨーロッパの列強は自分たちがその脅威を目の当たりにする
1914年におきた第一次世界大戦で機関銃は一躍その象徴の一つとなった

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1917年、ヴィッカース機関銃を持つ兵士たち

一次大戦直前のヨーロッパが以前戦った戦争はまだ目視範囲のみだった
機関銃だって基本的に存在しない戦争が前回の戦争だった
大規模な戦闘も「戦場」というピンポイントな場所で起きていた

ところが、1914年から始まる戦争は全く違っていた
間接照準能力を手に入れた砲兵は視界の外から一方的に砲撃してくる
敵の防御陣地の主要な箇所には機関銃が据え付けられている
大西洋沿岸からスイス国境までの巨大な「戦線」が形成されている

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巨大な塹壕線の上空から撮影した写真

圧倒的に向上した戦場の火力の前に従来型の歩兵は全く無力だった
なんなら敵を見る前から相手の阻止砲撃で行動不能になった

一次大戦の戦術について私が以前作った動画を貼るのでどうぞ
20分あるから時間のある時に見てね

敵の火力が増大したときに対抗する手段はいくつかある
特に攻撃側は部隊をさらに分散させるのが有効だ
ライフルが普及して密集隊形から散兵メインになったのと同じだね

ところが、200人の中隊は3つの小隊にすでに分割されてる
その小隊をさらに分割すると困ったことになってしまう
部隊の規模が小さすぎると部隊全体の火力が小さすぎるのだ

じゃあ、機関銃を小規模な歩兵部隊ひとつひとつに持たせればいい
大型の機関銃は重すぎるから、一人でも扱える軽い機関銃ならなおよし
小規模な歩兵の火力の中心となるべき機関銃:軽機関銃

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FM mle1915軽機関銃 通称ショーシャ
信頼性は不安だったけどフランス軍の主力軽機関銃として確かに活躍した
歩兵に何が必要かという点を正確に見極めたコンセプトはすごい銃である
信頼性は不安だったけどな

10人程度の歩兵分隊(当初は小隊を半分にした半小隊)が最小単位になる
その分隊が機関銃の火力を中心に他の分隊を支援
支援される側の分隊は有利な位置に移動…などを相互に繰り返す
これを当時は戦闘群戦法といい現代の歩兵戦術につながるものとなった
ていうか現代歩兵は一次大戦がルーツといえなくもない
ここへんの話は以前の記事を参照

そして一次大戦ではもう一つの「機関銃」が登場した
どうにかして塹壕へ突入した歩兵は内部で閉所の戦闘をする
その閉所では数メートル先の鉢合わせした敵などが現れる
600m以遠の敵を想定した小銃とかけ離れた戦場だ

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塹壕の内部:こんな狭い戦場は開けた野戦と程遠い

そういう戦場では長射程のライフル弾を手動連発よりも
短射程の拳銃弾を自動連発式でばら撒く方が圧倒的に便利
そこで現れたのが短機関銃(サブマシンガン)である

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サブマシンガンの始祖 MP18
塹壕内の戦闘に特化した銃として大活躍した

第一次世界大戦は終わるころにはこれらが登場、普及するようになった
歩兵以外も戦車が登場するわ航空戦が行われるようになるわ
もう何もかもが変わった

ところが、意外にも歩兵の最も基本的な装備
小銃:歩兵銃は大した変化もないまま第二次世界大戦が近づいていく
あれ?歩兵銃も自動化したらいけないの?
もちろん自動化された小銃=自動小銃のアイディアは無いわけではなかった
たとえば一次大戦がはじまる前にはもう製作されていたりする
自動火器が実用化された後は自動小銃は技術的にはそれほど高難度じゃない
実際、大戦と大戦の間の期間にはいろいろな自動小銃が開発された

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ウィンチェスター M1907 半自動小銃
一次大戦前でも実現できた

ところが、小銃というのは歩兵で最大多数が持つ武器である
単純計算でも百万人の歩兵を持つ大国はほぼ百万の小銃が必要だ
するとボルトアクション銃に比べて高コストな自動小銃は辛いねんな
とんでもない数が必要だから少しでも低コストな方がいいに決まっている
それにボルトアクション銃も半自動小銃に致命的に劣るわけではない
特に600m先を狙い撃つとかだと実用上ほとんど差がないと考えられたのだ
(どうせ歩兵火力の根幹は軽機関銃だしな)

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兵士たちが持ついちばん基本的な武器だからこそコストが重い

そして自動小銃の連射力もかなり問題になる
連射力があると何が問題なの?
それは弾丸をいっぱい消費するとその補給が辛いのだ
たとえば1個師団の一万人の歩兵に100発の弾丸を渡す
それだけで100万発の弾丸が必要だ
小さな弾丸でも100万個も集まればその輸送の労力はものすごいことになる
その消費量が激しくなると?それはそれは大変なことだよなぁ

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世界大戦ともなると「砲弾」でさえこのレベルで消費する
馬車でトラックで列車で…どうにかして弾薬を輸送する労力は本当に大変

そんななかで、一足先に自動小銃を軍に採用したのがアメリカ軍だ
さすがアメリカは供給力も輸送力もスゴイですねこれは・・・
二次大戦では主力の小銃が自動化されていたのは米軍がほぼ唯一だった
(正確に言うとソ連も使ってたけど数的にはボルトアクションが多数派)

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M1ガーランド 二次大戦で米軍がよく使った自動小銃

とはいえ、自動小銃というのは根本的には自動化された小銃
性能的には従来のボルトアクション銃が連射力が良くなったみたいなもんだ
単に高性能な小銃…使い方からして違うわけじゃない

・・・ところが、新たなタイプの歩兵銃が必要とされつつあった
従来の小銃の想定していた戦場と現実の戦場は乖離しはじめていたのだ
実は一次大戦前くらいだと600m以内は近距離である
遠距離というと1000mとかそこ辺の距離だ
120人ほどの2個歩兵小隊が一列の横列を組んだりする想定だからな
相手もそんな集団なんで800mとかでも打ち合いが成立したわけ

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こんな感じなので1km先の散兵線の集団まるまると交戦できた

ところが一次大戦で歩兵の最小単位が分隊レベルにまで分解した
地形などを利用して敵の射撃をなるべく受けないように工夫して移動する
すると、敵から見つかって攻撃を受ける距離は一気に縮まってしまう
だから400m以内での戦闘が非常に増えていたのだ

これは従来の小銃ほどの有効射程は無駄なシチュエーションだ
しかし400mくらいは短機関銃には遠すぎる
帯に短し襷に長し
小銃よりは有効射程が短くていいけど短機関銃よりは長い銃が欲しい
そういった状況に応えることに成功したのが突撃銃(アサルトライフル)

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一般的に世界初の突撃銃とされるStG-44

突撃銃として初めて使用されたStG-44は7.92x33mm弾を利用している
口径が7.92mmで火薬を収める部分の長さが33mmという意味だ
小銃用の7.92x57mmより20mm以上も短い(≒火薬が少ない)
火薬が少ないから有効射程は小銃ほどじゃない
だが射程が短いぶんだけ連射したときの反動が小さくできる

突撃銃は近距離ではその連射性能を活かして従来の小銃を圧倒
中距離より遠くでは精密な射撃で小銃兵と同等に戦える
そして突撃銃が効果が薄いほどの遠距離戦闘はそもそも起きない
(どうしても必要なら迫撃砲なり重機関銃に助けてもらえばいい)

戦場で起きるほとんどのシチュエーションで活用できる新たな銃
突撃銃こそが二次大戦が終わった後の標準的な歩兵武器となったのだ
1949年に生まれたAK-47をはじめとして各国で突撃銃使われるようになる

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