初心者向け軍事:火力の基本(歩兵)
はじめに
戦争は火力で決まるとか火力が不足してるとかよく見るよね。
でも、実際のところ火力って何?という人は多いと思う。
そこで、火力というものについて機動力を絡めて解説したいと思います
ただし内容はごく基本的な部分にとどまります
まず1on1から考えてみる
究極にシンプルな状況から考えてみましょう。
西部劇で決闘と称して拳銃で早打ち勝負をするシーンがありますよね。
どちらもお互い見えていて、遮蔽物もなく、お互い射程内という状況。
そんな中で互いが銃という遠距離攻撃の能力(≒火力)を持っています。
かなり極端な状況
このような状況下では
隠れられないので高確率で射撃が当たってしまう
銃弾は高確率で致命傷になる(火力の持つ殺傷能力としての側面)
よって
「先に撃って当てた方が生き延びる」
という一種のギャンブルめいた戦いになります
「決闘」だからこその状況なわけですが
戦闘でそんなギャンブルはしたくないですよね。
なので普通はもっと堅実に勝てる状況で戦いたいわけ
そう、たとえば
自分は銃弾が当たりにくい状況で戦うとかね。
どんな状況か考えてみよう
自分は銃弾が当たりにくい状況とは例えば
敵方向が銃弾を通さない遮蔽物で守られているとか
敵に対する投影面積が狭い(身を大きく晒さない)のが一般的
銃弾を通しそうにない岩で敵側から身を隠すイメージ
こういう状況はつまり「自分の当たり判定が小さくなる/なくなる」
確率的に銃弾が当たる確率が下がるわけだ
だから銃撃に晒された兵士は伏せたり隠れて身を守る
また、伏せることで小さな起伏でも身を隠しやすくなる効果がある
これは砲弾の例だが銃弾でも同じ、身を隠す遮蔽物のサイズも小さくて済む
しかしデメリットもある
伏せていると立って歩くより圧倒的に移動しにくい
そして、地形のような遮蔽物と一緒に動くこともできない
あくまで防御的な行動であって能動的に動くには都合が悪いのだ
また銃撃を受けている最中は反撃のために体の一部を晒すのもリスクがある
反撃のために頭を出して撃ち抜かれたら死んでしまうからな
逆の視点から見るとこうも考えられる
火力を投射すると相手の動きを制限できる
銃撃に晒されたままの状態は危険なので防御行動を強要できるのだ
火力で敵の行動を妨害する射撃を「制圧射撃」と呼ぶ
(敵の火力で行動が抑制されている状態を「制圧」と呼ぶ用法もある)
この火力による敵の行動の抑制は人数が増えると重要になってくる
もう少し人数を増やして考えてみる
1対1でお互いが火力に制圧されてなかなか身動きが取れない状況を考えよう
ここで、味方側にもう一人いればどうすればいいだろうか?
同じ場所で射撃に加わって火力を2倍にするか?
だが、同じ場所に固まってると一度に両方とも制圧されかねない
味方同士が近すぎると敵の火力に対して脆弱になるリスクがある
それよりも、せっかく敵が制圧されてるのだからそれを活用したい
制圧された敵が対応できない間に側面を突くなど優位な位置に移動するのだ
火力を投射して制圧する役割と、有利な位置に移動する役割に分かれる
両者の役割は臨機応変に交代して、それぞれがそれぞれを支援して戦うわけ
この連携をファイア・アンド・ムーブメントと呼ぶ
ファイア・アンド・ムーブメントの基本的な考え方
これが歩兵戦闘の基本であり、小部隊であってもこれで戦う
歩兵分隊という10人前後の集団があるが、一人は軽機関銃を装備している
軽機関銃はライフルよりも銃弾をいっぱい発射するのに向いてる武器
つまり制圧射撃がしやすい武器で、歩兵分隊の火力の中核だ
10人前後の分隊と分隊が軽機関銃を火力の中心として相互支援
この形態が現れるのは第一次世界大戦が半ばを超えたあたりからになる
逆に言うと一次大戦の終わりごろには現代と同じような歩兵の動きなんだな
もちろん、相手側にも連携する相手がいる場合がほとんどだ
敵の側面を守るような位置にも敵がいたらどうだろうか?
つまり片方の敵の側面を撃てる位置に出ると撃たれてしまう状況だ
さっきの状況より格段に難易度が高くなってしまう
相互支援には互いが互いの弱点に火力を向けられるのが理想的なのだ
特に防御する側は事前にそういった理想的な状況に近づけやすい
これは防御側が攻撃側に対して持つ大きな優位点の一つだ
攻撃側と防御側
ある地点を守る敵一人と、攻めようとする自分一人がいたとしよう
火力が同等ならば防御側のほうが有利なことが多い
第一に、防御側はある程度準備してることがほとんどだからだ
例えば銃弾を通さない隙間から銃だけ出せる場所があるとする
そんな場所は自然にはほとんどない
だが防御側は時間が許すならば「そういう場所を作る」という手が使える
スコップで穴を掘ったり土嚢を積み重ねたりして敵の攻撃から身を守るのだ
これを野戦築城とか言う場合もある
時間的な都合がつかず簡単な穴しかなくても効果は大きい
こういった敵の銃撃や砲撃からある程度守られた状態を「掩蔽」という
遮蔽と隠蔽
一方で、攻撃側は敵陣の前にある天然の地形で戦う必要がある
「都合のいい場所で戦える敵」に対して圧倒的に不利なのだ
更に、防御側はその場所から移動できなくても多少はどうにかなる
そこの場所を守るために、しかも都合のいい場所に居座ってるからだ
逆に攻撃側は敵に近づかないといけない
しかも近づけば近づくほど敵の火力から逃れにくく、殺傷されやすくなる
制圧されたまま動けないようでは攻撃は失敗してしまうわけ
さらに悪いことに
時間があれば防御側は「攻撃側に都合の悪い地形」を作ることもできる
踏むと爆発して兵士を殺傷する武器をご存じだろうか?地雷だ
地面が地雷だらけだったら(地雷原)兵士は安心して移動できない
つまり地雷原は歩兵が移動を妨げられる人工の地形(障害)なわけ
攻撃側が地雷原で前に進めない間に敵の射撃が降り注いだら?
なかなか動けないまま多くの犠牲が出てしまうのは明らかだ
地雷除去は射撃されながらみたいな状況は辛い
障害物の足止めは火力が連携すると大きな効果を発揮されてしまう
地雷原以外にも鉄条網がメジャーな対人障害物として利用されやすい
こういう理由があるので
陣地攻撃というのは歩兵の火力だけだと非常につらいものがある
迂回したり無視できたりしたら一番なのだが常にそういうわけにはいかない
どうしても陣地攻撃の必要があるなら、火力を活用するのが一番だ
そう、砲兵火力の出番である(次回へ続く)
「ここの補足とか必要だろ」とか 「ここは事実誤認」とかあるときはコメント是非ください
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