見出し画像

初心者向け軍事:火力の基本(砲兵)後

前回の記事
1.初心者向け軍事:火力の基本(歩兵)
2.初心者向け軍事:火力の基本(砲兵)前

前回のおさらい

前回は砲兵火力の話をする前置きみたいな感じになってたね
・歩兵部隊などの中に火力の中核となる部隊がいる
・最前線に一番近い火砲といえば中隊の迫撃砲
・砲の射程を長くすると大型化するので本格的な砲は師団の砲兵あたりから
要点だけ抑えるとこんな感じのことを書いたはず

詳しく振り返りたい人は素直に前回を読んでほしい

砲弾は威力が大きくて強い

歩兵火力のところで「あっさり流したけど実は重要なポイント」があった
それは「人間は銃弾にあたると高確率で死傷する」ということだ
いやそりゃそうだろう・・・
と、思われるかもしれないが逆に考えてみよう
銃弾が一切効果がない人間がいたら歩兵火力を恐れる必要はない

命中すると死傷するからこそ銃は武器として効果があるし
射撃を受けてると危険だからこそ制圧射撃も成立する
だからファイア・アンド・ムーブメントみたいな戦法が行われる
銃が武器として優秀だからそれを前提とした戦いになるわけ

砲も同じように、砲は強いからこそ砲が活用されるわけだな
というわけで、まず砲の威力ってのがどんなもんかわかりやすく見てみよう

現代で迫撃砲や榴弾砲がよく撃つ砲弾といえば「榴弾」だ
爆発する火薬が金属に包まれたような形状をしている
中の火薬が爆発で生まれた圧力と爆炎が人間を殺傷する
同時に爆発で引き裂かれた金属が周囲にまき散らされ殺傷する(破片効果)
そして破片がもたらす殺傷力のほうが広範囲に作用する

画像1

こちらの図を見ると81mm迫撃砲の砲弾は直径34mの危険範囲を生ずる
(この外側でも死傷の可能性はある。高確率で殺傷できるのがこの範囲)
中隊の81mm迫撃砲で3秒に一発の全力射撃するとする
すると4門で秒間1.2発、ほぼ毎秒この致死範囲が生じるわけだ
(ちなみに迫撃砲は砲弾重量に比べて破片効果がかなり有利な特性がある)
何の防御態勢も取ってない歩兵部隊は大打撃を受けてしまう

もちろん、銃弾と一緒で砲弾も防御態勢をとってると死亡率が大きく下がる
破片はあまり重くないので土などでかなり止められてしまうのだ
伏せるだけでもかなりの効果があるが…
前々回の「穴を掘って作った防御に都合のいい地形」を作るのも効果的だ
塹壕とか掩体壕とか呼ばれるものだね

画像2

一次大戦の塹壕に入ってる兵士
この狭い穴の中に落ちないとなかなか効果がない

簡易的なタコツボ程度でも大幅に死亡範囲を狭めることができるし
基本的に時間をかけて作った防御陣地ほど防御が固い
掩体の時間のかけ方によっては直撃も(砲弾の威力によっては)守れる
最近はFRPで形成した屋根をかぶせるFRP掩体なんてのもある

防御陣地にこもった歩兵というのはある意味で戦艦並みの防御力を発揮する
砲撃だけで防御陣地を(完全には)無力化することはできない

最前線を支援するための砲火力

もちろん、砲弾の力はすごい
銃弾ではどうしようもない防御された地形も砲弾なら破壊できる場合が多い
だから一次大戦でトーチカ(火力投射できる掩体)破壊に歩兵砲が登場した
トーチカが目視できる範囲から精密に榴弾を投射する狙撃砲でもあったのだ
前回の通り、現在はこの役割は歩兵の対戦車無反動砲が兼任してるぞ

それに、防衛線のすべての点を砲撃から万全に防御というわけにはいかない
直撃には対応してないレベルの掩体なら兵員ごと撃破できる可能性もある
だから直撃したら危険な場所の兵士は安全な場所に避難したりする
(そのための場所として退避壕という場所が用意されてたりする)

画像3

迫撃砲の発射地点:直撃には耐えられないのは一目瞭然

砲撃中は出られないし塹壕や掩体や退避壕から周囲の観測も難しい
また退避中の歩兵は射撃位置に出ることもできない
つまり、砲撃は機関銃より広範囲を一度に制圧できる(砲撃の制圧効果)
しかも銃弾では制圧しにくい防御された敵も制圧しやすいのだ

画像4

この図は迫撃砲弾の制圧効果の図だが致死範囲より広いのがわかる
この大火力で広範囲が一気に火砲に制圧されている間にどうにかしたい

歩兵火力と砲火力を活用しながら敵の火力に晒されにくくする
そのまま地形などを利用してどうにか敵陣まで近づくわけだ

そのためには煙幕弾を使うのも効果的だ
煙幕は何のために使うかというと視線を切る(遮蔽する)ためだ
視界が煙幕で包まれてると敵の位置が分かりにくい
(だから敵を正確に撃てなくて火力の効果が下がる)
地雷原が人工の障害物のように、煙幕は人工の遮蔽物(ただし視線だけ)

ここで注意してほしいのは
必ずしも煙幕が自分たちを覆う"だけ"が煙幕の使い方ではない
相手から見てこちらが見えなくなる位置に煙幕を張ればいい
つまり、むしろ敵を煙幕で覆うという手もある
敵の目を目隠しでそのままふさいでしまうわけだ
もちろん敵と味方の間に煙幕を展開もできる
要するに、前線のいたるところに煙幕が貼られるわけだ

画像5

歩兵だけだと展開できる煙幕の範囲に限界がある
煙幕手榴弾ではせいぜい数十メートルしか届かないからな
だが、火砲なら敵の目の前に煙幕を展開するのも簡単だ

こうして敵陣目前まで近づいた後は陣地攻撃のクライマックスだ
敵陣まで最後の数十メートルを生身で走らなきゃいけないのだが…
この距離まで近づくと敵陣からの射撃はメチャクチャ効果的になる
ちょっと訓練した人間なら簡単に当てられる近距離だから当然だ
全力で突っ込む(立ち上がってる)から射撃から守られてないのも困る

それに敵陣目前はある程度は最初から
「とりあえずこの方向に+ここに撃てば間違いはない」
みたいな場所を予測・設定してあって効果的な射撃ができるようになってる
(それで複数の射撃ポイントからの攻撃が集中するようになってたりする)
なのでそこに機関銃や迫撃砲弾が降ってくると大打撃だ
そういう敵の突撃を粉砕するための射撃を突破破砕射撃という

というわけで、可能な限り制圧されて万全じゃない敵に突撃したい
そこで可能な限り近くから+可能な限り砲撃の直後に突撃する
つまりどういうことかというと
(誤差も込みで)砲撃のギリギリ範囲外で準備して
砲撃の最後の砲弾が着弾した直後に突撃するわけ

創作物とか戦記物で「最終弾弾着まで何秒!」みたいなシーンあるでしょ
あれはその直後に突撃するから準備しろとという意味もある

なんでそれが成立するのかと言えば
突撃側は突撃開始のタイミングを事前に知っているからだ
(いつどこに攻撃をできるか決定できることは攻撃側が持つ優位点の一つ)
だから防御態勢に入ってる敵が配置に戻り始める前に突撃できる

場合によっては銃剣を装着した小銃で敵陣内に突入
そのまま防御側と近距離で交戦して排除する
…というのが防御陣地への正面攻撃の理想的プロセス
こんな感じで突撃そのものを直接支援する射撃の事を突撃支援射撃と呼ぶ

で、こういうことをするためには砲撃が正確に着弾してるかの観測が重要
前方観測班(forward observer,FO)という役割の人たちの担う仕事だ
いくら砲撃の制圧効果が高いとは言っても正確じゃないと効果低いからね
そして、攻撃する敵陣をよく見れる位置に観測班がいる必要がある
たとえばわかりやすいのは周囲より地形が高いところとかだね
(その最たるものが空中でつまり航空偵察は怖い)
なので、防御側は観測しやすい場所を取られないことが重要になる
そしてその観測点になる場所をめぐって血みどろの戦いになる例は多いのだ

画像7

双眼鏡で見ている観測班
砲を撃つ人たちとの間に射撃指揮所とかが挟まって効果的な砲撃をする

これで砲兵火力の重要性がわかったね!
…で終わらないのが砲兵の大切なところ
歩兵が直接交戦する敵に砲撃するだけが砲兵の仕事ではない

戦場全体を支援するための砲兵火力

二次大戦頃は師団レベルだと榴弾砲よりも射程が長い野砲があったね
さらに軍団レベルだとさらに大型長射程のカノン砲とかも準備されていた
砲兵が最前線だけを支援するんだったら射程はそんなになくていい
どうして長射程の砲なんか必要なの?といえば最前線以外も攻撃するから
言い換えれば、砲兵は最前線の敵のさらに向こう側も役目があるのだ

わかりやすい役割は敵の砲兵を打撃する任務(対砲兵戦)
敵の砲兵火力は怖い…だからこっちの砲兵火力で潰すね!
攻撃側は敵の砲兵を潰さないと簡単にこっちの攻撃がつぶされてしまう
防御側も敵の砲兵を潰さないと敵の攻撃の成功率が高まってしまう
だから砲兵と砲兵がお互いに戦わなきゃいけなくなるわけ

敵の向こう側にいる砲兵をどう探すかと言えば砲撃から辿るのが一般的
メジャーなのは砲撃の発射音を複数地点から聞くという手口(音響観測)
地図上にそれぞれの地点から聞こえた方向に直線を引けば1点で交わるはず
現在では対砲兵レーダーで砲弾の動きから逆算して高精度に特定できる
あるいは直接的に発射地点が見えてるなら話は早い
航空偵察機が事前に砲兵の展開場所を察知できていれば大助かりだ

つまり砲兵は砲撃してると場所がバレる
場所がバレると相手の砲撃が降ってくるわけでして・・・
だから砲撃したらすぐ逃げる(陣地転換)のだ
砲兵はすぐ撃ってすぐ移動してまた別の場所で撃つことになる
そして、射程の短い砲しかないと対砲兵戦でメチャクチャ不利
短射程の側は一方的に撃たれるということになりかねない
もちろん、長射程が好ましい理由は別にもある

実は普通は全戦力が最前線に張り付いてるということはあまりない
何故かというと不測の事態に対応する戦力(予備戦力)が必要だから
たとえば防衛線のある地点が突破されそうになったときに穴を塞ぐとか
もうちょっと戦力があれば攻撃が成功しそうな地点に加勢させるとかね
だから一般的には予備隊として直ぐ動かせる戦力を後方に留めておくわけ

師団には師団の予備戦力が(たとえば師団の3個連隊のうち1個連隊とか)
軍団には軍団予備が、同様に軍から上にもそれぞれの予備選力がある
そういった予備戦力は多くの場合は最前線から一歩離れてる
(より上位の部隊の予備戦力ほど後ろの方に控えてることが多い)

それに前線も奥行を持っている
防御線のさらに奥にもう一つの防衛線があるような状態が普通だ
(おおまかに3層くらいのことが多い)
奥側には増援に来たり反撃して追い返そうという部隊がいるわけ

そういった最前線より奥の敵を打撃するのも砲兵の大きな役割
たとえばこちらの攻撃に対応して増援に来た敵を砲撃する
すると、打撃を受けてかつ遅く到達した増援は力不足になるかもしれない
そうした後方にいる敵を攻撃するには砲兵が重要なわけだ

画像8


こういう味方は増援を送れるけど敵は増援が遅れないのが理想
敵の後方での移動も邪魔できるのは砲兵火力の素晴らしいところ

そして後方には敵の戦闘部隊のほかにも重要なものがいっぱいある
だって最前線においてたら敵に攻撃されて困っちゃう代物は後方に作るよね
つまり指揮を出す司令部だとか、その命令を伝える通信設備だとか
あるいは部隊を維持するための補給物資を置く場所だとか
さらには部隊が移動するための交通網や橋だとか
とにかく戦場の全体に火力を投射できてしまうから砲兵火力は重要なわけ(ちなみに戦場の奥行きのことを縦深って言う)
こういう戦場全体を攻撃する砲兵を全般支援砲兵という
(逆に最前線の目標を攻撃して歩兵とかを支援する砲兵は直接支援砲兵)

D3ch2fVV4AI1PA - コピー

(2021/3/11追記)
こういう戦場全体へ影響を与える仕事は長射程の火砲にしかできない
だから師団の砲兵部隊などは最前線の支援をするのか
あるいは戦場全体に火力を投射するのかの比率を考える必要がある

逆に言うと砲兵は必ずしも最前線ばかりを支援できるわけではない
あるいは重要な地点の支援に集中して他は手薄ということもある
故に最前線の歩兵部隊の都合で扱える迫撃砲は歩兵の強い味方なのだ

師団の砲兵よりさらに上位の部隊が扱う砲兵も似たようなものだ
軍団や軍直轄の砲兵というのはしばしば超大型の火砲を持ってた
極論すると大型の列車砲とかとかね
冷戦期だと軍団には戦術用の核ミサイルが配備されてた

画像9

MGM-52 ランス 短距離弾道ミサイル(核弾頭搭載可)
こいつの前任だと師団にまでオネスト・ジョン核ミサイルがあった

彼らの仕事というのは師団よりさらに広い領域でのものだ
つまり敵の軍団レベル・軍レベルの予備選力を打撃するとか
軍全体での重要地点の前線を支援に火力を集中するとかね
自軍にとって重要な地点に火力がなるべくたくさんある方がいい
でもそれぞれの師団だけに火砲を配るとその師団に拘束されちゃうからな
師団砲兵が師団内のすべての最前線を常に支援するわけではないのと同じ

まとめると
砲兵は単純にその威力がデカいし制圧能力も高い
砲兵には最前線だけでなく後方を含め戦場全体に火力を投射する仕事がある
上位部隊の砲兵はより広い地域での重要地域に集中する

というわけで、ざっくばらんに砲兵について解説しました
(もうちょっと書いた方がいい気もするな・・・)
ここ補足必要なんじゃね?みたいなのはコメントとかで是非ください

ここまで火力について解説しましたが
その火力に抗う力に(あるいは火力がねじ伏せようとする力に)ついて
なるべく初心者向けに解説します

次の記事
初心者向け軍事:機動力の基本

「ここの補足とか必要だろ」とか
「ここは事実誤認」とかあるときはコメント是非ください



お金は要らない、読んでくれさえするならば