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ぅらいふすてーじ熊野寮祭特別号
この記事は、エクストリーム帰寮 Advent Calender 2021の11日目の記事です。6日目は私を拉致したドライバーの記事なので、併せて読むとすこし楽しいかもしれません。
事前準備~降車
2年前、サークル設立35周年企画と称して京大→万博公園間35kmを歩き切り、足が壊れてMRIを撮ったY君。彼の勇姿を、私は忘れられなかった。今回、エクストリーム帰寮という企画を知り、拉致される距離まで指定できると聞いて、私は彼に倣うべく37kmで参加を決めたのだった。
エクストリーム帰寮とは、車で知らない場所に連れていかれ、財布・地図・ヒッチハイクなしで帰ってくるという企画である。このルール上、基本的に長距離を徒歩で移動することになる。というわけで、前年のエクストリーム帰寮に参加した知人のアドバイスに従い、靴下は5本指と厚手の2重履き、靴は中敷きマシマシ、荷物はなるべく減らすべく、ポケットに家の鍵・スマホ・念のためのモバイルバッテリーを入れたほかは、セブンイレブンのチョコチップスナック2袋、羊羹3つが入ったレジ袋を提げるのみで参加した。ちなみに単独参加である。
熊野寮を出発したのは27日朝5:30頃。私を拉致したドライバーに聞いたところによると、降車地点からは車用の道を無理やり行けば30kmで帰寮できるが、歩行者用の道を通れば37kmかかるらしい。そんなことを話しながら目を閉じたまま車で運ばれ、降車地点についたのは6:20頃だった。
霧のテラス~馬堀駅
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夜明けが近づいて空が白み始める中、まだ明かりが灯っている町は幻想的
どこへ拉致されているかと内心おびえていたが、車から降ろされた後、現在地はすぐに分かった。降車場所は展望台として整備されていて、「かめおか霧のテラス」という看板がしっかり出ていたからである。観光地になっているだけあって見晴らしもよく、ドライバーと一緒にしばし景色を楽しんだ。
しかしながら、これから37km踏破しなければいけないと思うとあまりゆっくりする気にもなれなかったので、ドライバーを見送った後はすぐに歩き出す。ありがたいことに展望台には亀岡駅がある方向も示されていて、向かう方角の見通しも立てやすかった。距離はともかく、理論上は線路に沿って行けば嵐山につくはず、とあたりをつけ、ひとまず山を下りたら北上して線路に向かい、嵐山を目指すことにする。(紅葉の嵐山が見たいという下心)
つづら折りの山道を下山する。カーブの先から突然現れる車や逃げ去る鹿に時折ビビりながらも、1本道ということで特に迷うこともなく山を出て、大きな道に出た。時間は7:00頃、ちょうど太陽が山の陰から出てくるタイミングで、朝日に照らされる亀岡を見ることができた。
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手前はまだ山の陰で、日が射していない
途中の公園で確認した周辺地図によるとこの道は京都縦貫道、東へ抜ければ京都へ行けるだろうが徒歩で歩ける道ではない。とりあえず京都縦貫道に並行してはしる下道を東へ向かい、突き当たったので太めの道に沿って北上する。
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7:30、国道9号線に合流。標識に「京都」の文字が出現した。この道をまっすぐ行けば帰寮できそうだ。まだ距離はわからないが、思ったよりあっけなく帰寮の目安がついてしまい拍子抜けだった。
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どうやら9号線とは五条通のことらしい
7:45、道沿いの公園で休憩、そこに原付を停めて休憩していたおじさんに道を聞いてみた。残念ながら枚方から来た人らしく、周辺の地理には明るくなかったが、他の帰寮者らしき目撃情報を聞いた。9号線を歩いて通る2人組がいて危なっかしかったという。どうやらこの9号線はほぼ自動車用道路で、あまり歩かないほうが良いらしい。ここでドライバーから聞いたことを思い出す。「車用の道を無理やり行けば30kmで帰寮できる」つまり9号線ルートは私が歩くべき道ではないということだろう。公園で持ち込んだ朝食を食べながら今後の方針を練り直す。とりあえず当初の目的どおり線路に出て嵐山への道を探す。途中で機会があれば、地元の方に道を聞くことにしよう。
公園を出てすぐ、道を聞く機会が訪れる。公園の近くにあった文化センターに周辺地図を探して入ってみると、職員のおばさんが声をかけてくれた。しかし地元民も徒歩のルートは知らないようだ。近くの馬堀駅からなら電車で2駅だからすぐに着くと教えてくれる。でもおばさん、私お金持ってないんです……。ひとまず件の馬堀駅までの道を聞く。駅ならばもう少し情報があるかもしれない。
8:15、馬堀駅に着くと、探すまでもなく京都へ向かうための道が示されていた。馬堀から上桂へ抜ける街道、唐ト越である。天の声が、このルートを行け、と言っていた。
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徒歩で桂の苔寺まで行けるようだ
唐ト越 その1
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8:40、唐ト越の入口である。想像していたよりだいぶワイルドな感じだ。街道というので大文字山くらいの山道を想定していたのだが、道の細さも草の茂り具合も大文字山は言うに及ばず、比叡山さえ軽く上回っている。猪除けの金属扉を開けて、恐る恐る入山した。
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街道というならもう少し整備してほしい
入山して最初の30分、尾根道に出るまでが一番険しい道だった。以前、きらら坂登山口から比叡山に登ったことがあるが、その時と比べ、傾斜は同じくらい、道の険しさは唐ト越のほうが上だ。途中で木の棒を拾い杖としてつきながら歩いた。
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9:10頃、尾根道に出た。ここからは大文字山と同程度の険しさでサクサク進む。9:20には、みすぎ山山頂に到着した。
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馬堀駅の標高が92mらしいので、300mくらい登っていたようだ
山頂で5分ほど休憩して写真を撮りまくる。北側の眼下には保津峡、南側には亀岡の平野が見えて絶景だった。
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保津峡にかかる2つの橋を電車が走っていた
山頂を過ぎて10分ほど進むと、轍が残る林道に出た。ここからはかなり歩きやすくなる。
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右奥の砂利道からきて、左奥の舗装道路へ進む
10:00頃、森林管理用の駐車場に出る。駐車場の横には休憩スペースがあり、ここで朝食の残りを食べながら、電話をかけた。
ここまで歩きながら考えていた。案内板によるとこの街道は上桂に抜けるらしい。ならば、桂キャンパスに引っ越した友人に会えるのでは?そしてあわよくば昼食をおごってもらえないだろうか?一応パンはもう一袋残っているが、できれば温かいものが食べたい……。というわけで、桂在住のT君に電話をかける。幸いT君の予定は空いていて、街道の終着点である苔寺は彼の下宿から自転車で10分ほどらしい。彼が吉田に来た時にご飯をおごる約束をして、今日の昼ご飯をおごってもらうこととなった。自分の財布は使ってないし、帰寮のレギュレーションには違反してないよな……?
唐ト越 その2
駐車場を出て、快適な道を歩くこと20分ほど。分かれ道に差し掛かる。林道はまだ続いているが、どうやら唐ト越は再び山道に入らなければいけないらしい。げんなりしながら、舗装道路を後にした。
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右に舗装道路が続くが、唐ト越は左らしい
再び始まった山道は、尾根に沿った道のはずなのにかなりきつい。傾斜はそれほどないが、細かいアップダウンや倒木、見失いそうな細い道で険しさは最初の30分に匹敵する。木々にまかれたテープを頼りにしながら道をたどる。左右が切り立った斜面となっている幅30cmほどの道を抜けるときはひやひやした。一度は道を見失いかけたりもした。写真を撮ろうとしてスマホを落とし焦る。幸いスマホは30cmほど斜面をずり落ちただけで止まったが、以降は怖くてこの辺りではほとんど写真を撮っていない。
10:50頃、街道に入ってから初めて人とすれ違う。誰もいないと思って、獣除けもかねてそこそこ大きな声で歌っていたのだが、『ジョジョ~その血の運命~』を歌い終えた5秒後くらいに山の陰から人が現れたので、さすがに動揺を隠せなかった。とりあえずこちらから元気に挨拶して誤魔化す。(誤魔化せていただろうか……)
10分ほど行くと2組目とすれ違ったので、街道があとどれくらい続いているか聞いてみた。なんでも、苔寺からここまで1時間半ほどかかったという。街道の入口から2時間ほど歩いてきたので、半分以上来ているようだ。
11:30頃になると、木々の隙間から町が見えてきた。このあたりになるとだいぶ道も整備されて、大文字山レベルの険しさになり、すれ違う人も増えてくる。しかし、ここまで2時間以上険しい山道を歩いたうえに道が下りに入ったため、膝や太ももが痛み始めた。下山は体力はそれほど使わないが脚へのダメージが平地の比ではない。多分痛んでいるところは平地を歩くときには使わない筋肉のはずなので、早く山を出られることを祈りながら杖を頼りに道を下る。
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京都へ帰ってきた実感がわく
11:50頃、周囲が竹林に替わったのと同時に雨が降り始める。さっきはあんなに景色よかったのに……。フードをかぶって歩き続け、12:10頃、ついに山を出て、舗装された道路に行き着いた。ちょうど雨も止む。通り雨だったらしい。
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雨で川が増水していなくてよかった……
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彼女がいなければ、疲労・脚のダメージともに倍増していたと思います
街道の入口に置いておくので、桂から亀岡へお越しの際はご利用ください
桂のひととき
T君に再び電話して、12:30頃に合流した。彼のおすすめの店に行き、彼のおごりで飯を食う。唐ト越の険しさとかT君の指導教員が倒れた話とかをしながら、熊野寮まで帰るための英気を養った。
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彼が吉田に来たらちょっとお高目なご飯をおごってあげよう
京都市内
さて、桂まで来たらあとは消化試合である。14:00頃に店を出て、四条通へ合流すべく歩き出した。しかし、ここで問題発生。いや、厳密には昼食後、席を立つ際に問題が判明した。唐ト越の踏破によって、脚にかなりダメージが蓄積している。具体的には、立ち上がろうとしたら膝と太ももに激痛が走った。入店するときは「疲れたなぁ」くらいの感覚だったのに……。しばらくゆっくり歩くと痛みになれたのか激痛は緩和するが、一度足をとめると痛みがぶり返してくる。なるべく意識しないようにして黙々と歩く。
14:10には四条通へ合流して、あとはもう歩くだけ。ひたすら東へ向かう。ところが14:30頃、また雨が降り始める。幸い、ちょうど目の前にあった四条中学前のバス停が屋根付きだったので、座って雨宿りができた。羊羹を食べながら雨が止むのを待つ。暇なのでスマホでラジオを聞き始めた。『福山雅治と荘口彰久の地底人ラジオ』、1時間半あるこのラジオを聞き終える頃には、熊野寮に着いているだろうか……。
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おそらく通り雨だが、雨も風もかなり激しい
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20分ほどで雨は止み、また歩き出す。(立ち上がると激痛が走るため、バス停から動き出すのには少々覚悟が必要だった)
あとはひたすら歩く。立つ・座る動作で一番脚が痛むので、休憩は入れずに四条→河原町→御池と進んで鴨川を越える。
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このとき時刻は16:00、ラジオも聞き終わってしまった
川端通に入ると、ゴールが近づいて気が抜けたのか、しばらく忘れていた脚の痛みが重くのしかかる。痛みをこらえながら熊野寮に到着、時計は16:20を指していた。
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帰寮直後で財布持ってないと言ったら、「お疲れ」といっておごってくれた
最後に、道を教えてくれたおじさん、おばさん、ご飯をおごってくれたT君、あたたまり屋の方々、そしてあんな素晴らしい場所へ拉致しやがったドライバーに感謝を述べたいと思います。ありがとうございました。
おまけ
万歩計アプリによると、この日の歩数は4万5764歩、歩行時間は6時間58分、歩数から算出した歩行距離は34.85kmとのことだった。一方、Googleの位置情報の記録を見てみると、徒歩での移動距離は29.4kmだった。29.4km?37kmとは何だったのか……?
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緑線が行き、青線が帰りである
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地図なしでこんなルート思いつくわけないだろ……
主観的にはものすごくつらかったが、よく考えてみると降車場所が一瞬で判明したことといい、実は37kmも歩いていなかったことといい、今回の帰寮は比較的イージーモードだったのかもしれない……。認めたくないけど。
でも道の険しさだけならトップクラスだったんじゃないかな……。