人文地理学のおすすめ専門書(3): 都市地理学
2021年3月に「人文地理学のおすすめ専門書(1): 全般的なもの」、2021年9月に「人文地理学のおすすめ専門書(2): 特に都市圏構造変化に関する専門書」という記事を書いたのですが、都市地理学全般に関する文献紹介はしていなかったように思います。なので、今回は都市地理学全般に関する書籍を取りあげていきたいと思います。
1. よくわかる都市地理学
都市地理学に関する書籍で最も有名なのではないか?と思う本です。近年の都市地理学の知見などを幅広く解説した書籍で、都市地理学で卒論執筆や院試出願をするなら必読書なのは間違いないと思います。とはいえ意外と難しい本なので、学部低学年の人が読むと辛いかもしれません。人文地理学・都市地理学の基本概念の用語の意味を勉強したうえで読むと読みやすくなるかもと思います。
<書誌情報>
藤井 正・神谷浩夫編 2014. 『よくわかる都市地理学』ミネルヴァ書房. [出版社サイト] [書評(1)] [書評(2)]
2. 都市の人文地理学
都市地理学の入門書です。初心者にとっては、『よくわかる都市地理学』などよりも読みやすいと思います。学部1・2年生が最初に都市地理学の教科書を通読したいときのおすすめ書籍として挙げられると思います。
<書誌情報>
稲垣 稜 2019. 『都市の人文地理学』 古今書院. [出版社サイト] [書評]
3. 新しい都市地理学
都市地理学の教科書で、基本概念などの解説がしっかりしている印象をもっています。筑波系の地理学者が執筆した教科書なので、特に筑波系の教員の授業で教科書・参考文献等の形で取りあげやすいだろうと思います。ただ、刊行から25年も経っているので、そろそろ『さらに新しい都市地理学』などが刊行されて欲しいなとも思ってはいます。
<書誌情報>
高橋伸夫・菅野峰明・村山祐司・伊藤 悟 1997. 『新しい都市地理学』 東洋書林. [出版社サイト]
4. 都市空間の見方・考え方
前半では都市地理学の調査法、後半では都市地理学の研究実践を取りあげています。個人的には、『新しい都市地理学』で基本概念を勉強したうえで読んでみると良さそうに思いましたが、基本概念の勉強でいきづまったときや、具体的な事例から勉強していきたい人は、『新しい都市地理学』を読みながら、あるいはそれより先に読んでみるというのも良いのかもしれないとも思います。
<書誌情報>
高橋伸夫・菊地俊夫・根田克彦・山下宗利編著 2012. 『都市空間の見方・考え方』 古今書院. [出版社サイト] [書評]
5. 図説 日本の都市問題
都市地理学の具体的な研究キーワードを知りたいというに読むべき本かと思います。タイトルは「都市問題」となっているものの、都市問題のネガティブな内容ばかりというわけではなく、都市における諸現象について、基礎的な理論から現代的な問題まで幅広く解説しています。また、タイトルに「図説」とあるように、図表や写真も多いのも特徴だと思います。
<書誌情報>
藤塚吉浩・高柳長直編 2016. 『図説日本の都市問題』 古今書院. [出版社サイト] [書評(1)] [書評(2)]
6. キーワードで読む経済地理学
書名は「経済地理学」なのですが、第III章「都市と社会」を中心に、都市地理学に関連した項も少なからずあり、都市システムや都市圏、世界都市などの詳細な解説もあります。700ページ以上ある本でありながら4000円程度で購入できコスパが良く、学生でも手が届きやすいように思います。
<書誌情報>
経済地理学会編 2018. 『キーワードで読む経済地理学』 原書房. [出版社サイト]
7. 改訂新版 都市社会地理学
英語の教科書Urban Social Geographyの日本語訳です。日本語の教科書よりも分量が多く、通読すればかなりの知識を得られそうです。例えば、エスニシティ・近隣コミュニティ・居住地移動などの章がありますが、これらだけではありません。あと、巻末の「用語解説」が充実しているので、個人的には辞書的な使い方もしやすいように思っています。
<書誌情報>
ノックス, P.・ピンチ, S. 著, 川口太郎・神谷浩夫・中澤高志訳 2013. 『改訂新版 都市社会地理学』 古今書院. Urban Social Geography: An Introduction London: Routledge. [出版社サイト]
8. 都市空間の地理学
都市論や空間論に焦点を当てた教科書です。都市地理学の一般的な教科書とは特徴が異なると思います(都市化や都市システムなどについては触れられていないので)が、学史・方法論や文化地理学に興味がある人は興味を持ちやすそうに思います。
<書誌情報>
加藤政洋・大城直樹編著 2006. 『都市空間の地理学』 ミネルヴァ書房. [出版社サイト]
9. 都市の空間データ分析
計量地理学の方法やGISを用いた都市の空間分析法を解説する書籍です。都市内部構造や都市システム、人口移動などを統計的な指標や数理モデル等を用いて分析する方法などが解説されています。
<書誌情報>
張 長平 2010. 『都市の空間データ分析』 古今書院. [出版社サイト]
10. 20世紀の日本の都市地理学
20世紀の日本の都市地理学の研究動向・潮流を知ることができる書籍です。戦後の都市地理学の研究は全体的な状況、都市化研究・都市圏研究、中心地研究、都市システム研究、都市の内部構造研究に分けてそれぞれ解説されています。ただ、既に21世紀に入ってから20年以上経過しているので、最近の動向は経済地理学の成果と課題 第Ⅷ集の「6 都市・都市システム」などもあわせて読むと良いように思います。
<書誌情報>
阿部和俊 2003. 『20世紀の日本の都市地理学』 古今書院. [出版社サイト]
今回は、細かい分野によらず都市地理学全般的なものから選びました。このほか、各領域の専門書などもありますので、今回紹介した書籍の引用文献リストなどから探してみてください。
(補足)紹介した本の書影は、版元ドットコムから転載しました。本の紹介目的であれば、リサイズ以外の改変をしなければ転載して使用して良いそうです(外部リンク)。