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先天性心疾患を理解するために(胎児循環について)

大人と胎児は心臓の構造も血液の流れ方も違う

大人(小児期~)も胎児も、心臓が左右それぞれ心房・心室という2つの部屋に分かれていることは同じです。(右と左を分ける壁を中隔、心房と心室の間や心臓から出ていく血管を開け閉めする門のようなものを弁と呼びます)
しかし、血液の流れ方は異なります。

小児期以降の心臓

これは大人(小児期以降)の心臓の模式図です。
上半身、下半身を巡った血液はそれぞれ上下大静脈を経て右心房へ戻ってきます。心臓に入ってくる血管を「静脈」と呼びます。
(全身で酸素が消費された血液なので、模式図では青い色をつけることが一般的です)
その後、三尖弁という門を通って右心室に流れ込んだ血液は、その後肺動脈を通って肺へ流れます。
心臓から出ていく血管を「動脈」と呼びますが、この肺動脈を流れている血液はまだ酸素が少ない青い血液です。
肺で酸素をたくさん取り込んだ血液は模式図で赤い血液で示され、肺静脈は心臓の裏側を通って左心房に入ります。
その後、僧帽弁を通って左心室に流れ込んだ血液は、大動脈から全身へと供給され、各組織で酸素が使われます。
大動脈は最初に上半身へ巡る血管を分岐しながらカーブして下半身へ向かうため、このカーブ部分を大動脈弓と呼びます。

胎児の心臓

一方こちらは胎児の心臓です。
胎児は大人と異なり、下半身から心臓に戻ってくる血液=胎盤を通ってきた、酸素をたくさん含んだ血液です。
この血液と、上半身から戻ってきた酸素が消費された青い血液が、合わさって右心房に流れ込みます。
(酸素をたくさん含んだ血液を動脈血、酸素が使われて少なくなった血液を静脈血、動脈血と静脈血が混ざったものを混合血と呼びます)
このとき、全身を巡る血液が酸素が少ないと各臓器の発達に望ましくないため、なるべく酸素をたくさん含んだ血液を大動脈に送る必要があります。
このため、大人の心臓では失われている構造【卵円孔】が重要になってきます。
下大静脈からの酸素をたくさん含んだ血液は卵円孔を通過して、肺へ回ることなく、左心房・左心室を経て大動脈に流れ込みます。
また同時に、静脈血は右心室から肺動脈に流れますが肺そのものへ行く血液は少なく(胎児は肺呼吸をしていないので肺を流れても血液中の酸素量が増えません)、多くは肺動脈と大動脈を繋ぐ【動脈管】という構造を通って大動脈へ合流し、全身へ流れていきます。
大動脈を一番最初に流れる血液は酸素多いけれど、途中から酸素少ない血液が混じっているよ、と心配になるかもしれませんが、この一番最初に流れるというのが重要です。
模式図では示されていませんが、大動脈弁を通過した直後に分岐する冠動脈という小さな血管が、心臓そのものを栄養しています。また、腕頭動脈など、最初に大動脈弓から分岐していく血管が脳を栄養しています。
生命維持に不可欠な心臓や脳に胎盤からもらった酸素・栄養を優先的に分配できる仕組みになっています。
妊娠中に痛み止めや風邪薬を医師に確認せずに飲まないように、というのは、解熱鎮痛薬の成分で動脈管を閉鎖させてしまうものがあるからです。
出生後は早期にこれら卵円孔と動脈管が閉じ、肺へたくさん血液が流れるようになり、肺で酸素化された血液が全身を巡ることになります。

動脈管閉鎖が命に関わる病気

胎児特有の構造、卵円孔と動脈管について説明しましたが、出生後に動脈管が閉じてしまうと命に関わる病気がいくつかあります。
左心低形成症候群、大動脈縮窄・離断、肺動脈閉鎖、ファロー四徴症、大血管転位、総肺静脈還流異常などが挙げられます。
これらは出生前に診断がついていれば、産後すぐに動脈管を閉じさせないような点滴を行うことができます。
逆に診断がついていなければ、出生後急速に赤ちゃんの具合が悪くなってしまいます。


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