【note版】イギリスの「VEデー」〜国によって違う終戦記念日〜
※こちらは他媒体に掲載中の記事から転載(自著)した、過去のものです。noteには私の個人的な記録として一部割愛、再編集したものをお届けします。フルバージョンの原文はこちらをご参照ください(2020年5月9日執筆分)。
5月8日はイギリスの祝日、VEデー、第2次世界大戦が終わった終戦記念日(イギリスにとっては戦勝記念日)でした。「ん?」と思った人はいないでしょうか。私たち日本人にとっては終戦記念日と言えば8月15日で、それ以外の日にちを思い浮かべることは難しいかと思いますが、今回私は初めて、世界では終戦記念の日にちが国によって違うことを知りました。
今年は終戦75周年で、とりわけ重要な年となります。そのため、例年ではVEデーは祝日でないにも関わらず、今年は本来5月の第2月曜日である別の祝日をVEデーと掛け、特別に祝日にしたそうです。それでは、このVEデーとは一体どういったものなのか、当日イギリスの人達たちはどのように過ごすのか、1日を振り返ってお伝えします。
VEデーとは
VEデーのVEとは、Victory in Europeの略で、1945年5月7日に第2次世界大戦を起こしたドイツが連合国軍に降伏したこと、つまり連合国軍が勝利した時を指しています。イギリスでは翌8日に当時の首相、チャーチル氏が午後3時にラジオで終戦宣言を下し、この日を第2次世界大戦の戦勝(終戦)記念日と定めました。
国民は喜びに沸き、街は踊る人、歌う人であふれ、首相や王室ファミリーとともにバッキンガム宮殿のバルコニーに姿を現した当時のエリザベス王女(現女王)までも、群衆に混じって密かに祝福の場を楽しんだそうです。
ただ、われわれ日本人にとっても周知の通り、そのほか諸外国の第2次世界大戦はまだ終わっておらず、イギリス国民の中には「東方」へ送られた家族のことを想い、素直に喜べない人々もいました。連合国側では第2次世界大戦が最終的に終わったのは、日本が降伏文書に調印した9月2日。今回初めて知りましたが、この日はイギリス(ヨーロッパ)では VJデー、つまり Victory over Japan(対日戦勝記念日)となるそうです。私はこれまで、こういった一連の期間はずっと「敗戦の日」として認識してきたので、初めてこの言葉を耳にしたときは意味がわからず、ようやくわかった時はとても複雑な気持ちになりました。
関連行事
それでは、今日5月8日を振り返っていきます。まず11時には全国で2分間の黙祷があり、街では歩いていた人も立ち止まりました。15時にはチャーチル元首相が当時発表した声明をテレビ放送し、ロンドンでは王室空軍による航空ショーが行われました。チャールズ皇太子とカミラ夫人がとある戦争記念碑にて献花しました。
わが家の近所でも、国旗を掲げている御宅やガーランドや風船で家を飾り立てている御宅を見かけましたが、テレビを観ていると町によっては全戸というほどどの家も飾りつけていたり、通りまで住人が出て他人との距離を取りながらも歌ったり踊ったりと、町全体でパーティーを開いている地域もありました。
そういえば、昨日話しをした子供の学校のスタッフは「明日はVEデーだから、夫がケーキでも焼くかと言ってるのよねぇ」なんて言っており、なぜわざわざケーキを焼くのか内心不思議でしたが、こういうことだったんですね。
そのほかにも、自宅前の通りにまで出てご近所さん同士ちょっとした「ストリート・パーティー」をすることもある、と言っていましたが、確かに5月8日当日は7月並みの気温という暖かさも手伝い、実際に自宅の前庭などにテーブルを出し数人で談笑している家庭もありました。テーブルにはどこもちゃんと国旗が置かれているのも印象的でした。そこでわが家も、まだこの祝日の意味がよくわかってなかったのもあり、見様見真似で、この日は庭でイギリス国産スパークリング・ワインを開けたりしてイギリス人気分を味わってみました。
女王の御言葉
21時からはBBC放送にて、録画によるエリザベス女王のスピーチが流されました。これは75年前の同じ日の同じ時間に、女王の父であるジョージ6世がラジオ放送したことにちなんでいます。ジョージ6世はこの時、イギリスがドイツとの戦いを終えたことを発表しました。
一方エリザベス女王は、75年前に当時の首相であるチャーチル氏や、妹のマーガレット王女といった王室メンバーと共にバッキンガム宮殿のバルコニーで国民の前に立ったことを振り返りながら(女王は当時19歳でした)、VEデーのメッセージとは「ネバーギブアップ」という不屈の精神だったこと、国と国民の為に犠牲になった方々のこと、アジアでは8月まで戦争は終わらなかったこと、戦時中に戦ってくれた方々への感謝と敬意は決して忘れられることはないといったことなどについて話されました。
ただ、本来ならこのとても大事な日を盛大に祝うところですが、それは現在(コロナウイルスによって)叶わない状況にあります。女王は、だからといって皆が忘れている訳ではない、表の通りは空っぽではなく、私たちは今各家庭で、玄関口から愛と思い遣りを持ってそれぞれをいたわっているのだ、と仰ります。最後に
「私は誇りを持って言います。私たち国民は勇敢な軍人、陸空海軍で戦った人たちを忘れることなく、敬服し続けます。皆様の御多幸をお祈りします。」
と仰って終わりました。このスピーチは、先月のコロナウイルスに関する「御言葉」に次いで、今年2回目の女王による国民に向けたスピーチであり、どちらもとても異例だそうです。
女王のスピーチが終わると、当時の様子を関係者と振り返る特別番組が放送されました。当時の映像や写真では、国民が満面の笑みで着飾って踊ったり、子供達までも髪をビシッと整えて正装しお茶会を開くなど、その前日まで戦争をしていたとはとても思えないほど優雅で物に溢れていました。
少なくとも私の中での戦争終結直後というのは、辺り一面の焼け野原で人々の身なりは貧しく食べるものもなく、まして終戦翌日にきらびやかに着飾り御馳走を食べている様子など思い浮かべたこともありませんでした。ところがイギリスの終戦「翌日」というのは、建物や人々の服装、食べ物など今現在目にしているものと大差なく、これが敗戦国と戦勝国の違いなのかと思い知らされました。
今回思わぬところで世界史の一端を垣間見、違った視点からものを見ることができました。イギリスやその他欧米諸国では、第1次世界大戦が終結した日として11月の第2日曜日 Remembrance Day(国民哀悼の日)もたいへん重要な日です。この日は戦没者を追悼する行事が行われますが、やはり私がイギリスに来た当初はいったい何の日なのかまったくわかりませんでした。こうして毎年少しずつ、滞在国の慣しについて学べることは、海外在住ならではの貴重な体験だと思います。