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追われる夢 2023/05/15


 歩いていると、数年前の大きなアニメ制作会社の放火事件の犯人にとても似ている風貌の人に、「車に乗れ。」と言われた。噂に聞いていたのか、なにかの事件の犯人が逃走中である情報があったのか、理由はわからないけど、私は、もう逃げられないことを確信した。「はーい」と伝え、乗る素振りをしたら、運転席に向かう犯人は「どれだけ食べずに、生きてられるかが楽しみ。」と、とても嬉しそうに言った。白い大きな車だった。犯人が運転席に乗り、扉を閉めた瞬間に、すぐ車から飛び降り、逃げた。
 走って、ある程度進んだり、いくつかの角を曲がったところで、信号待ちで止まっている車の窓をノックして、無理やり助手席に乗せてもらった。これもまた、白い大きな車で、私より少し年上と見られる、明るめの髪色をした女性が乗っていた。女性は髪をアップにしていたが、沢山の髪の毛が留めきれていなくて、急いで髪をまとめたという感じだった。すぐに事情を説明しつつ、道を沢山曲がって移動して欲しいと頼んだ。女性はすごく嫌そうな顔をしたけど、やばい人間に追われてるからお願いします、と伝えると動き出してくれた。

 私は殆どの持ち物を失っていて、唯一手元にあったものは、歩いているときに耳に着けていたワイヤレスイヤホンだけだった。イヤホンはもういらないから、女性の車のポケットみたいなところに入れた。
 私は、薄ピンクか薄紫の服を着ていたので、車外から見えて犯人に見つかるのが嫌だと考えて、なにか服の色と顔を隠せるものを探した。フロントガラスの手前に、ストールが何枚か置いてあるのを見つけて、3種ほどの中から、濃いオレンジを選んでそれをイスラム教の人のように巻いた。濃いピンクもあったけど、着ている服とイメージが似ているので避けた。ストールを巻き始める時に、運転している女性に向かって「これいただけませんか?」と伝えると、「もう頂く気でしょ」と言われたので、ごめんなさいと謝りながら巻いた。
 これを右、まっすぐ、適当に遠くへと行けそうな道を指示していると、女性がいきなり、大きな声で誰?!嘘でしょ?!何事?!と叫び始めて、アイツが追ってきていることがわかった。今にも事故りそうな様子で、映画みたいなカーチェイスで逃げ切ることは無理だなと思った。近くに警察署は無いかと尋ねたら、ちょうど目の前に大きな警察署が有り、その前に大人数の警察官が群がっているのを見つけ、車を止めてもらい、お礼を告げながら急いで降りた。

 警察署の前の”花壇のある段差”に集まっている30名ほどの警察官は、いかにも新人で、記念写真のように何列かに分かれて、段差ごとに並んでいた。穏やかで若かった。
走って警察署の入口を探しながら、追われているので助けてください、と、その新人警察官の団体に伝えたけれど、全員が「何いってんだこいつ?」と言う顔をして、誰一人ピクリとも動かず、無視された。
 新人警察官に助けてもらうことは諦めて、右奥に見える警察署の出入り口へと走った。
 入るとすぐ奥に、赤いエプロンを付けた女性が沢山いる窓口があり、(子育て関係の様、なぜこのとき警察署にこんな窓口があるのかは謎)新人警察官の団体よりは、助けてくれそうな気がした。
 半円を描く木製の受付から、きれいな白髪のボブヘアーの女性が、「どうされましたか?」と聞いてくれた。走ってその受付に近付きながら、「追われてるんです、今すぐに私を保護して下さい、鍵があって絶対に誰も入れない場所へ入れて下さい、お願いします。」と、叫んだ。白髪の女性は、私から見ると左側の方を指さして、「こっちに個室が・・・」というので、走って受付にたどり着いた勢いを保ったままで、左側の方に入っていくと、小さな個室に案内された。案内してくれた女性は小柄な黒髪の女性で、受付の皆と同じ赤いエプロンをしていた。
 小柄な黒髪の女性は、私が入った個室の扉を閉めると、外側の取手になにか札のようなものをかけて、離れていった。扉には、鍵と言ってもトイレの鍵程度のものがついているだけで、全く丈夫さを感じない扉だった。簡易的な扉なので隙間があり、そこから外がチラチラと見えた。隙間から、吊るされた札が見えて、私側には「空席」という2文字の真ん中だけが見えた。部屋に置かれている物と、雰囲気から、多分この個室は、授乳室である気がした。だとすればあの札の表側には「授乳中」と書いてあるんだろうと考えながら、とにかく息を整えて、耳を澄ませた。

 アイツが入って来れば、騒ぎの声が聞こえるはず。ざわざわとするまではここに居させてもらおう、と思い終わったときには、もう既にザワザワとした声が聞こえてきたので、反射的に個室から飛び出していた。
 個室から飛び出て、出入り口とは反対側に走ると、階段があったので、夢中で登った。全部登って屋上に行くのは、あまりにも逃げ道としてはバレバレかな、と思ったので途中のフロアに入り込んだ。すぐ後ろに走る足音が近づいてきた。適当に入った部屋は、何もなくて誰もいなくて、窓が空いていた。もう窓から逃げる道しかないことを悟ったので落ちる覚悟で、窓辺に向かった。窓枠に足をかけた頃にはもう犯人は同じフロアに到着していて、おそらく、各部屋を回って私を探していた。
 窓枠から身を乗り出すと、右上にひとつ上の階のベランダが見えて、その間に足を掛けられそうなくぼみがあったのでそっちに登ることにした。ベランダ付近は茶色いレンガ造りだったので、脆くて怖く感じたが、凹凸が多くて上るには助かった。
右上のひとつ上の階のベランダに乗ると、そのひとつ上はもう屋上だった。さっき私が居た階の窓辺に犯人がちらっと見えて、恐怖で震えた。
 屋上迄登ってみると、縁は暗い緑色の塗料が目立つ作りで、床はコンクリートがむき出しになっている部分と、土で埋められている部分があった。警察署の外観は、主にベージュのような、クリーム色のような壁だったので、なんで緑なんだろう、もともと緑色の建物だったのかな、と考えたところで少し離れたところに見える、屋上と屋内を繋ぐ扉が空き、犯人と目が合った。
 左後ろに少し低く下がっている部分があったのでそこに乗り移って身を潜めると、埋められた土の上に着地した。土はドロドロに泥濘んでいて、すぐに足首辺りまでが飲み込まれた。こう言う場所に突っ立っていたら全身飲み込まれる、そんな話を旅行系バラエティ番組で聞いたことがあるから、危ないと思ってすぐにもがいて緑色の縁に乗った。足はドロドロで重い。

 そのままどんどん、自分が思う”犯人から遠ざかる方向”に屋上で進んでいくと、黒人がたくさんいるエリアにたどり着く。民族衣装のような、簡易的な布製の服をまとっている彼らは私に対して全く警戒しなかった。その人達に混ざって、屋上の縁に体育座りしていると、他の黒人よりも少し老いた黒人が近づいてきて、私のことを不思議そうに見た。
 どうすればよいかわからず、合掌してお辞儀をすると、その老人も同じようにしてくれた。
 もう”アイツ”が追ってくる気配はなかったので、この黒人屋上族の元に、暫く居させてもらおう、と決めたところで目が覚めた。


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