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推しの結婚で泣きたい

舞台にハマって3年半、実在する人間を推し始めて早2年。
私のメインジャンル、2.5次元界隈は年末から年明けにかけて異様なざわめきを見せていた。界隈で特段有名な舞台俳優3人が立て続けに結婚報告をしたのである。

怒涛の結婚ラッシュを受け、推しがアラサーのオタクたちは「次は誰だ」「自分の推しか」と落ち着かない日々を過ごすことになった。

私の推しも30代になって数年経つ。加えて結婚した3人との共演歴も複数ありキャリアが似ているため、Twitterのサジェストに「◯◯ 結婚」と表示されるほどに多くのファンが話題にあげていた。

多忙で仕事人間の推しはまだ結婚しないと勝手に思っていた私だが、同世代の結婚ラッシュにより突然「推しの結婚」について考えざるを得ない状況になった。

数日思考を巡らせてみた結論として、私は、

推しの結婚で泣きたい。

【ミーハーオタクの性】

この謎の感情を説明するにあたり、私が目移りしやすいミーハーオタクであることを前提として読んで欲しい。

興味の続かないイナゴオタクであることを悩み、「真のオタク」に憧れた時期があったくらいである。

現在、自分にしては珍しく舞台というジャンルに長く住まわせてもらっているが、人の性分とはそう簡単に変わるわけではないため、基本的に日常生活では飽き性で常に新鮮なものを求めている。

【人に関心を持つこと】

趣味活動に関して興味が移りやすいのはまだよくいるミーハーオタクだが、オタク以前の問題として私は幼少期から他者への興味が人よりも希薄である。

それこそ友人数人から相貌失認を疑われるレベルで周りの人間を認識していなかった。特に記憶力が悪いというわけでもなく、例えば好きな科目の日本史の総理は100代目まで年号つきで覚えていた。

他人の存在だけではなく、他人が自分をどう思っているかについてもそこまで興味がない。

生まれ持った気質のようだが、人の目を気にせずに一人でどこへでも出掛けられることはこの性格のメリットである。
「嫌われるから言わないでおこう」ということもまず無いので、健全な人間関係を築き、必要な場では自分の意見を主張できる。
渋谷のスクランブル交差点のような人が溢れた場所にいても、一人で歩いていると自分以外の全てが風景の一部のように感じられるので人酔いすることもない。

挙げていけばメリットだらけのように見えるが、興味がない故に他者を大事にしたり好意を抱くこともあまりないため、人間としてどうなのか?という問題は否めない。

何より暇を持て余した馴れ合いを主軸とする学生の集団に対して、余計な関わりを持たない自分の性格は物凄く相性が悪かった。私が音信不通になっても度々連絡をくれる数人の友人にはとても感謝している。出来るだけの恩返しはしようと思う。

ほとんど関心を持てない人間に囲まれた20数年間の中で、多くを知りたいと思わせてくれる推しは良い意味で異質であり、一際大きい存在だった。

【もし、推しが結婚したら】

以上のように、私は何かと興味が移りやすく、かつ他者にあまり興味を示さない気質である。

そんな自分が生身の人間を好きになり、もうすぐ2年が経とうとしていることは、自分でも未だに人生の驚きトップ3、喜びトップ3にも入る出来事である。私は俳優を推すことを通して一般的な人間の感情を学ばせてもらっている。

そんな推しがもし、結婚したらどうだろうか。

正直な話、私はいわゆる「リアコ」ではないし、仕事に真面目に向き合ってくれさえすれば良いと思っている。

大変身勝手で申し訳ないが、私が恐れているのは推しの結婚ではなく「推しの結婚の前に自分の興味が他に移ること」なのかもしれない。

「降りる」などという大層なことではなく、段々と出演舞台をチェックしなくなり、ツイートを追わなくなり、気付かぬ間に推しが生活からフェードアウトしていく。経験上、これが今の自分にとって推しの結婚よりも起こり得る可能性の高い恐怖なのである。

推しが結婚してダメージを受けている人を見る度に私は、「愛だな」と思っていた。

親族が結婚して嬉し泣きをすることは珍しくないが、心から好きな人が誰かと結婚し、寂しさや複雑さで泣くことは、人生にそうそう無いだろう。涙が出るほど好きだったその推しへの気持ちは、何にも変えがたく尊くて唯一無二のものである。

ダメージを受けないよう推しの結婚前に降りると言っているファンも見かける。しかし、推しが生活から居なくなり、数年後トレンド入りで彼の名前を見つけ、「結婚したんだ!おめでとう!」で終わる方が、推しの結婚より100倍寂しい。少なくとも自分にとっては間違いなくそうである。

たとえ大きなダメージを受けても、出るまで積んだブロマイドを見て切なくなるとしても、

私は、寂しさと祝福と推しへの愛を涙に変えて、

推しの結婚で泣きたい。

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